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02

 星祭りの準備で賑わう街角は華やかだ。

 階段の隅や壁の上など、あらゆるところにランタンが置かれ、屋台の設置に荷馬車の荷台が色とりどりに飾り立てられている。


 お使いで立ち寄った大通りにも専用の荷台が並び、お嬢さまが好みそうだと胸中をほっこりさせる。


 僕とそう年の変わらない子どもたちが、はしゃいだように街路を駆け抜けた。

 弾んだ声が、雑踏の中を伸びやかに抜ける。


「ベルナルド」


 同行者のアーリアさんに呼ばれ、手にしたヒルトンさんからのお使いメモを持ち直す。止めていた脚を市場へ向けた。


 アーリアさんの腕には、星祭り用のお嬢さまのドレスが、袋に包まれて提げられている。

 無表情の彼女は、一刻も早くこのお使い任務を終わらせたいと、空気で物語っていた。


「アーリアさんも、星祭りに行くんですよね?」

「はい」


 質素な返事を受け、置いていかれないよう、颯爽と雑踏を縫う彼女の後ろを追いかける。


 アーリアさんも僕も黒髪のため、こうして外へ出掛けると、姉弟に間違えられることが多い。

 着ている服も使用人の制服のため、差分を見つけにくいのだろう。


 アーリアさんは涼しい紫苑色の目で、僕の目は青いという点も、近似色のため間違われやすさに拍車をかけているのだと思う。


 買いものの最中、「お姉ちゃんとお使いか?」「姉弟仲良くするんだよ」「坊主の姉さん、将来別嬪さんになるぞ」などなど様々な声をかけられた。


 普段僕たちは領地にいるため、王都に知り合いは余りいない。


 曖昧に微笑んだが、僕などと勝手に血縁者に誤解されてしまったアーリアさんのことを思うと、迂闊に顔を見れない。

 どうしよう、ブリザード吹き荒れる冷めた目で見られたら。……こわい。


「ベルナルド、他に購入するものは?」

「こ、これで揃いました!」

「では戻りましょう」


 急に声をかけられ、どぎまぎする心臓を押さえてアーリアさんに続く。

 石畳に靴音を響かせるアーリアさんの視線が、ちらりとマスケラ屋へ向けられた。


「……アーリアさんも、マスケラ被りますか?」

「そんな浮かれたものを被っては、お嬢様の護衛の任に差し支えます」


 呆れたような視線を向けられ、即座に胸中でごめんなさいと震える。


 それより浮かれたものって……。

 お祭りは浮かれるものだけど、いやアーリアさんは警備側の視点か。

 浮かれる人間に舌打ちしたい側の意見でしたか……!


「ベルナルド、黒いウサギのマスケラを被ってみては?」

「ええ!? 僕もお嬢さまをお守りしますよ!!」

「あなたの華奢な腕で何が出来るというのですか。お嬢様が楽しまれるための贄ですよ。察しなさい」

「そんな!?」


 涼しく放たれた毒を真正面から食らい、衝撃に愕然とする。


 残念なことに孤児出身である僕は、救出されてから歳月を経たが、まだまだ貧弱な身体つきをしている。

 同じ年頃の子どもたちよりも小柄だ。


 といっても、自分の正確な年齢なんて知らないんだけど……。

 これでも、ゲーム画面では長身だったはずなんだ!



 肩を落としてお屋敷に帰還し、お使いの品をヒルトンさんに渡す。

 アーリアさんは、さっさとお嬢さまの元へドレスを合わせに行ってしまった。

 いいな、僕もお嬢さまを着飾りたい。褒め称えたい。いいなっ。


「どうしたのかね、ベルナルド。落ち込んだ顔をしているようだが」


 僕の顔を覗き込んだヒルトンさんの言葉に、アーリアさん羨ましいと、先程の応酬を吐露した。

 せめてお嬢さまの御髪だけでも整えたい。

 アーリアさん羨ましい!


 一連の報告を受けたヒルトンさんが、朗らかに笑った。


 聡明な執事殿いわく、「アーリアなりの気遣いだね」らしい。

 祭りは楽しんでこそ新たな視点で警備が出来るからねと、頭をぽんぽん叩かれた。


 思わぬ回答と対応に頬が熱を持つ。

 皆して子ども扱いしてー!

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