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02

※残酷描写注意

 お母さんが死んで、僕の生活は一変した。


 父親だと名乗る人物に無理やり連れられ、豪勢なお屋敷に放り込まれた。

「新しいお母さん」とやらにふぎのこと蔑まれ、汚らわしいと冷たい目で見られた。


 帰りたいと訴えても帰してもらえず、薄暗い部屋に閉じ込められた。

 訳がわからなくて、ただただ怖くて、部屋の隅で震えていたら、さっき嫌な顔をしていた「新しいお母さん」が何かを持ってきた。


「寒いでしょう? お腹空いたでしょう? スープを作ってきたの」


 三日月型に細められた目が不気味で、僕は断ったけれど、「新しいお母さん」は部屋から出て行かない。


「早くこれを食べて頂戴。冷めてしまうわ」


 猫撫で声が気持ち悪い。


 渋々スプーンを手に取り、湯気の上るスープを一口口に含む。

 途端、吐き気が込み上げてきて、そのまま嘔吐してしまった。


 訳がわからずえずく僕を、「新しいお母さん」が無表情で叩く。

 頭を、平手で、乾いた音と衝撃に驚いた。


「何てお行儀の悪い子かしら。流石は雌豚の子ね」


 ほら、さっさと食べなさい。

 促される湯気の立つスープ。


 それに怯え、首を横に振ると、今度は頬を叩かれた。


「まあ、汚らわしいものに触れてしまったわ。躾用の道具が必要ね」


 ハンカチで手を拭う女が、冷たく僕を見下ろす。

 その瞬間悟った。これはこの場限りのものではなく、この先ずっと続くのだと。


 女は毎日スープを持ってきた。

 吐き出さずにその場を凌いでも、腹を蹴られて全て吐き出させられた。

 拷問だと思った。


 翌日から、スープの異臭が酷くなった。

 そこで混ぜられているものがわかった。洗剤だ。


 僕が食べものを受けつけなくなったのは、すぐだった。

 口に入るもの全てに不信感を抱き、戻してしまう。

 やつれるのも早かった。当然だろう。


 屋敷の子どもも使用人たちも、僕を見ると「みすぼらしい」「汚らしい」様々なことを口にして、指差し嘲笑った。

 子どもが僕を蹴っては笑い、「新しいお母さん」が優しい笑顔でその子の頭を撫でる。


 いっそ死んだ方が楽だと思った。

 けれどもこいつらにとって、それすらも娯楽に繋がるのだろう。

「ゴミが自分から死んだよ!」嬉々とした声まで想像できる。

 ……こんな奴等のために、死んで堪るか。



 日課のようにスープを持ってくる女へ向かって、湯気の上るそれを引っ掛けた。

 どろりとしたそれは衣服に絡み、熱し、顔面から被った女は絶叫を上げた。

 すぐに使用人が飛んできたが、もんどり打つ女はずっと「殺してやる」と呟いていて、思わず笑ってしまった。


 殺すなら、さっさと殺せばよかったんだ。何を今更。

 けらけら笑う僕を、使用人はぞっとした顔で見ていた。


 父親への連絡は早かった。

 僕は他所へ預けられるそうだ。


 何だ、死ぬんじゃないの。


 ぽろりと口から零れた呟きに、引き取り主のおじさんが悲しそうな顔をした。


 その後馬車に乗せられた僕の後ろで、何かを殴る音が聞こえた。

 戻ってきたおじさんは僕の正面に座りながら右手をぷらぷら振っていて、「私もヒルトンに習おうかなあ」苦笑を滲ませていた。


 走り出した馬車の窓からちらりと振り返ると、父親らしき男が地面に座り込んで、頬を押さえていた。

混入 ダメ 絶対

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