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06

「ベルー! 外だよ! 星が見えるよー!!」

「リヒトさーん、あんまり離れないでくださいね。夜警が得意といっても、限度があるのでー」

「月が見えるよー!!」

「ランナーズハイかな?」


 はしゃぐ殿下と手を繋ぎ、寮の周りをうろうろする。

 走り出されたら困る。

 素早さで対抗するには、相手が悪い。


 年頃の男の子ふたりで手を繋ぐのも、どうかと思った。

 けれども、殿下は王子殿下なので、完全防備で臨むことにした。

 暗視もばっちりだ。

 何せ護衛が、僕しかいない。


 時刻は門限を過ぎており、管理者さんに無理を通してもらった。

 よって、敷地内しかお散歩することが出来ない。


 それでも厩舎で「馬だー! 犬だー!!」とはしゃがれたときは、この人今日は早目に休ませようと、心に誓った。

 お疲れが過ぎる……。

 今度旦那様にそれとなく聞いて、対象の名前を割り出そう……。


「……あのね、ベル」


 粗方はしゃいで、雑木林の方へ歩きながら、殿下がぽつりと音を零された。


 暗視した視界の中、こちらを振り返った彼が、困ったように眉尻を下げている。

 尋ね返すと、ますます言いにくそうに口が開かれた。

 繋がれた手が、強く握られる。


「収穫祭とぼくの誕生会で、隣で時間調整してくれないかな……?」

「……荷が重過ぎませんか?」

「今回、いろんな人が買収されたから、信用できなくって」

「お金の力って、きたない……」


 それで、おつきの話をすると、あんなにも渋っていたのか。

 確かに殿下を取り巻く状況では、信用するに値する人を識別するのは難しい。


 15歳の子を裏切ってお金に釣られるなんて、なにしてるんですかー!!


「ベルはコード邸しか知らないだろうけど、ベルやアーリアみたいな忠義に厚い人って、そんなにいないんだよ」

「そうなんですか!?」

「コード卿は信用を買ってるからね。公爵家なのに使用人の数が少ないことが、その証拠だよ」


 苦笑混じりの言葉に、心当たりが次々と出てくる。


 だからこそウサギ男は現れたし、僕たちは幼少の頃から護衛として訓練を受けた。

 王都別邸のメイドの入れ替わりが激しいことも、その理由のひとつだ。


 旦那様は用心深い。

 契約に必ずと言っていいほど書面を用いるのも、最たる例だ。


「ですけど、……そんな、」

「ミスターの教育の賜物だね。正直羨ましいよ」


 クラウスのところも、使用人少ないよねー。殿下が微笑む。


 指摘の通り、アリヤ邸も人が少ない。

 クラウス様はご自身で大体何でもこなされてしまうので、彼が甘やかしてくれるときしか、給仕させてもらえない。


 アリヤ家も、自身の領地に拠点を置いている。

 奥さんであるニーナさんが領地を取り仕切っており、アリヤ卿は王都で騎士団の団長を務めている。

 彼は義理堅い性格で、リズリット様を引き取ったことも、人情からだ。


 改めて見直してみれば、僕は人に恵まれていた。

 僕は本当の意味での反逆を知らない。

 リヒト殿下のように、策略や陰謀の中に身を置いていない。


 彼は一体、これまで何度の造反を受けてきたのだろう?


「……確認を、取らせてください」

「ありがとう。お願いしておいてなんだけど、無理して受けなくていいからね」


 笑顔が寂しそうに見えた。

 もう一度強く握られた手が、ゆっくりと緩められる。

 そろそろ帰ろう? リヒト殿下が微笑んだ。


 そのか弱い表情、僕が泣きそうになるのでやめてください……!


「そのっ、僕に出来る内容か、旦那様に尋ねます。可能であれば、出来るだけ意向に沿いたいと思っています」

「それじゃあ、明日一緒に王城へいこっか。授業遅れちゃうけど、いい?」

「アーリアさんに伝達させてください。お嬢さまのお耳に入れることが出来れば、それで構いません」

「ありがとう。急かしちゃってごめんね」


 殿下が謝られる必要なんてないんです!!


 そのまま急ぎ足で女子寮へ向かい、管理者さんにアーリアさんを呼んでもらう。

 入り口のホールにやってきた先輩へ、概要は伏せて手短に経緯を伝えた。


 簡略的に平和な感じで伝えたはずなのに、真冬の薄氷のような空気で、アーリアさんが頷く。


「王子殿下、ご用命とあらば、いつでも仰ってください」

「アーリアの殺意って、直接的だね……。あのぼかした説明で、なんでそんなに殺意高いの……?」

「私はコード家の使用人です」

「コード家が脅威扱いされる由縁って、こういうところだよね」

「僕、何も連絡ありませんでしたよ……?」

「あなたは当事者より、直接話を聞けるでしょう」

「な、なるほど……?」


 全く納得していないけれど、アーリアさんの冷ややかな口調に口を噤む。

 こちらを向いた彼女が、静かな表情のまま音を発した。


「お嬢様にお伝えします。今日はもう、戻りなさい。夜風は身体を冷やします」

「わかりました。ありがとうございます、アーリアさん」

「ベルナルド」


 踵を返した脚を、引き止める。

 ――いつからアーリアさんの身長を追い抜かしていたんだろう?


 僕の傍まで歩み寄った彼女は、女性の中では背が高い方だ。

 僅かに見下ろす位置にある顔が、ひそりと耳打ちした。


「収穫祭明けの週末、あなたにお嬢様のお世話係権を譲ります」

「ほ、本当ですか!?」

「誠心誠意お仕えなさい。吉報以外は不用です」

「はいっ! 勿論です!!」


 僕の返事に、アーリアさんが静かに礼をする。

 見送る彼女へお礼を告げ、殿下のお部屋まで戻った。


 遅くなったお夕食をとられながら、リヒト殿下は「アーリアは、ベルの操縦方法を熟知してるよね」と、しみじみされていた。


 操縦方法って、確かに上手いこと踊らされていますけど……!




 *


 王城にある会議室は、雑多に人が行き交い、あちらこちらで話し声と号令、書類を走るペンの音が響いていた。


 騒然としている光景を、唖然と眺める。

 隣のリヒト殿下も、驚いたようなお顔をされていた。


 見慣れない大人の男性たちが、袖を捲くって、書類とにらめっこしている。

 出店者が、すぐに確認を。断片的な話し声が、メモ書きの音を走らせた。


 壁にかけられたカレンダーには、過ぎた日付に大きなバツ印が記されている。

 残り日数の告知だろう。


 慌てた様子で部屋へ飛び込んできた男性が、伝令を叫ぶ。

 別の人が、大机いっぱいに広げられた用紙に、赤い文字を記した。


 その中で、書類の束を片手に、旦那様が数人の人たちと話をしている。

 万年筆の背で指された紙面を用いて、論議しているらしい。


 見ればヒルトンさんも雑多な中に混じっていた。

 分類した書類をそれぞれの席へ振り分け、言付けを受けている。


「……ベル、ありがとう。これなら大丈夫だって、思えた」


 小さな声で囁いたリヒト殿下が、旦那様へ向かって歩き出す。


 こちらに気付いた旦那様が目を瞠り、即座に頭を垂れた。

 周りも慌てた様子で頭を下げ、座っていた人たちが立ち上がる。


「王子殿下、この度の非礼、どのようにお詫び申し上げれば……」

「謝罪は全部終わったあとにして。時間がないから、手を止めないで。作業に戻って」


 承諾の声を上げ、みんなが中断した作業を再開させる。


 ……統率力、すごい……。

 リヒト殿下って、王子殿下なんだ……。


 話し合っていたひとりに資料を手渡し、旦那様がリヒト殿下を大机の前へ案内した。


「現在の進行状況です。ご説明いたします」

「その前に、ぼくの付き人にベルを指名したいんだけど、いいかな」

「ベルナルドを、ですか……?」


 殿下の要望に、驚いたように顔を上げた旦那様と目が合う。

 大変恐縮する状況に、肩身が狭い。


 困惑と動揺と緊張でいっぱいの僕を見詰めた旦那様が、大きな声でヒルトンさんを呼んだ。

 即座に舞い戻ってきた老執事へ、彼が耳打ちする。


「畏まりました、殿下。そのように」

「ありがとう。それじゃあ、説明お願い」

「では、進行表に沿ってご説明いたします。現在――」


 書類と照らし合わせながら、旦那様が大机を指差し、説明していく。

 ふたりとも、普段の温和さが欠片もない、真剣な表情をしていた。


 置いてけぼりの心地で、ヒルトンさんを見上げる。


「ここは少し賑やか過ぎる。外へ出よう」

「……はい」


 老紳士に促されるまま、廊下へ出る。

 扉を閉じると雑然とした賑やかさは遠退き、熱気を失った空気に肌寒さを感じた。


「ヒルトンさん、あの、」

「困惑することも多いだろう。なにぶん、時間が足りないんだ。みなが慌しい」

「……僕が異常に気付けていれば、ここまで追い込まれませんでしたか……?」


 尋ねた声が、か細くなる。


 リヒト殿下の一番近くにいたのは、僕だ。

 殿下の仕事量が多いと、寝食を削られていると、誰よりも最初に気付いていた。


 けれど、ここまで事態が切羽詰っていたなんて、思わなかった。


 頼りない僕の声に、ヒルトンさんが小さく息をつく。

 僕の頭を撫でた彼は、いつもの呆れているような笑みを浮かべていた。


「見通しは全体を把握して、初めて立てられるものだ。断片しか見ていない君に、全てを察せなどと無茶は言わないよ」

「ですが、殿下がお疲れだったことは存じています。僕がもっと、細やかにお聞きしていれば……」

「行き過ぎた謙遜は、ただの嫌味だよ。君如きの説得に、彼が応じると思っているのかね? 君も彼も、融通の利かない子どもだということを自覚したまえ」


 ヒルトンさんの言葉に、固く唇を閉じる。


 ……わかっている。ここでぐだぐだと過去を悔やんでいる暇はないのだと。

 一番落ち込みたいのは、今も状況把握に専念されているリヒト殿下だ。

 謝罪の言葉すら後回しにさせて、目的を遂行させようとしている。


 全部終わらせてから、お話を聞いてもらおう。

 強く手を握り締め、俯けていた顔を上げた。


「リヒト殿下から、収穫祭と誕生会のおつきを依頼されました」

「誕生会もか。相当根に持っているようだね。心得た」


 おかしそうに笑ったヒルトンさんが、優雅な仕草で、ジャケットの内側から三つ折の書類を取り出す。

 開かれたそれには、細かな文字が敷き詰められていた。


 目を細めて書類を近づけ、遠ざけ、ヒルトンさんが苦笑する。


「書いたのは私だが、眼鏡がないと見えないね。ここに書いてあることが、現段階で決まった最新の予定表だ」

「見せていいんですか? あとヒルトンさん、眼鏡は何処ですか?」

「屋敷だよ。まさかそのまま篭城するとは思っていなくてね」


 受け取った書類には、時間ごとに区切られた予定の概要が記されていた。


 流し読みしたそれから顔を上げ、ヒルトンさんの顔を見詰める。

 にこやかな表情のまま、彼が口を開いた。


「王子殿下のご要望は、この予定表通りに、彼に時刻を知らせることだ。簡単だろう?」

「……いや、そんな出来て当たり前、みたいな言い方しないでください。これ、時間通りに進まなかったら、どうするんです?」

「その場で組み直す。君には徹底して教え込んだつもりだが、もう忘れてしまったのかね?」

「忘れてません! ……ええっ、簡単って軽く言いますけど……!」


 煽り言葉に乗ってしまったが、改めて見直した分刻みの予定表に、頭が痛くなってくる。


 ……いや、ここで出来ないなんて言ったら、到底執事にはなれないだろう。

 公爵である旦那様の予定表だって、読み解けたし、組み替えたこともある。

 ヒルトンさんから合格点をもらえたんだ。

 落ち着いて臨めば、出来るはずだ。


「それに、君たちだけに任せるつもりもないよ。私は旦那様の傍を離れられないが、必ず近くにいる。孤軍ではないんだ、安心しなさい」

「……はい」

「それから、君の今回の仕事は『時間厳守』だ。決して『護衛任務』ではない」


 ヒルトンさんの言葉に、はたと口を閉じる。

 真剣な表情には茶化す色が見えず、最重要課題なのだと背筋を伸ばした。


「収穫祭に混乱が多いことは知っているね? 時間と予定を管理している君が殲滅作業に走れば、残された殿下を誰が案内する?」

「……わかりました」

「いいかね。君がナイフを抜くのは、最後の最後だ。それまでは、せいぜい手帳と時計を握り締めていなさい。決して殿下から離れてはいけないよ」

「言い方がいちいち嫌味です。わかりました。護衛にお任せします」


 ヒルトンさんの言い回しに膨れると、朗らかな声が笑った。


 僕の手から抜き取られた書類が、再び三つ折へと戻される。

 内ポケットへ戻す滑らかな動作を止めることなく、彼が説明を続けた。


「誕生会も似たようなものさ。……君は、舞踏会は初めてだったね」

「はい。……僕に務まるのでしょうか? 僕は来賓のお顔どころか、貴族各位のお顔も知りませんよ?」

「名前は読めるだろう? あとは王子殿下に従って、後ろに控えていればいい」

「そんな雑な……」

「君は利口で、粗相のない子だ。不安があれば、とっくに断っているよ」


 しれっと落とされた褒め言葉に、頬が熱を持つ。

 その貶しまくった末に優しくする方針、やめましょう?

 僕の反骨精神と、飴と鞭耐性が上がってしまうんで!


「王子殿下が君に求めているのは、『安心』だよ。君が誰よりも彼に献身したからこそ、警戒心の強い殿下は君を指名した」

「殿下、警戒心強いんですか……? 初耳です……」

「彼は狸だよ。頭の回る、賢い子だ。君を差し出せば彼の気は済むのだから、全く安いのか高いのか……」

「……ヒルトンさん、暴言が過ぎません?」


 思わず口許が引きつってしまう。

 王城で、王子殿下を狸呼ばわりだなんて、誰かに聞かれたら、ただでは済まないだろうに。


 慌てて周りを確認してしまう。

 ……索敵に引っ掛からない。よし。


 けろっと毒を吐いたヒルトンさんは、変わることなく笑みを浮かべている。

 彼が利き手で目頭を揉んだ。


「私からは以上だよ。質問がなければ、別邸へ眼鏡を取りに行ってくれないかね?」

「やっぱり不便だったんですね」

「ああ、不便だ。年寄り扱いは心に響くからね」


 腕を組んだヒルトンさんが、むくれたように顔を背ける。

 珍しい仕草を小さく笑い、彼のお使いを受諾した。






 借りた馬を走らせ、王都別邸へ辿り着く。

 平日の昼間に帰還したため、厩舎にいたロレンスさんとケイシーさんが、驚いたような顔をした。


「ベルナルド、学校はどうしたんだ? 盗んだ馬で走り出したのか?」

「お借りした馬で、ヒルトンさんの眼鏡を取りに来ただけです!!」

「よかった……。自由を求めてさ迷っているのかと……」

「ロレンスさん、ケイシーお兄さんがいじめてきます」

「ははは、許しておあげ」


 穏やかな笑みを浮かべたロレンスさんが、口髭を撫でる。


 膨れっ面のまま裏口から屋敷に入った。

 ヒルトンさんのお部屋へ急ぐ。


 開いた扉の向こうは、整頓を気にかける養父にしては、珍しい状態だった。

 転がった万年筆や、辛うじて蓋の閉じたインク瓶。

 書き掛けの書類などが、置かれたままになっていた。

 すぐにでも部屋の主が戻って来そうな、そのままの空間。


 つるが開かれたままの眼鏡を手に取り、銀縁のそれを閉じた。


「……ベルナルド?」


 不意に声をかけられ、顔を上げる。

 不思議そうなお声は坊っちゃんのもので、彼は声音同様に訝しむ顔をしていた。


 開きっ放しの扉を支える姿に、はたと、これから週末の帰還が難しくなるのだと思い至る。

 僕の中で、血の気の引く音がした。


「ど、どうしましょう、坊っちゃん……! 週末の坊っちゃんが……!」

「……僕はそれより、何故お前がこの時間に、この場にいるのかを問いたかった」

「ヒルトンさんのお使いです……!」


 ヒルトンさんが眼鏡をお待ちだが、僕は今、坊っちゃんに懺悔をしなければならない!

 坊っちゃん、ごめんなさい。

 週末の帰還と予定を被らせて、ごめんなさい!


 泣きそうな心地で報告を上げる。

 静かなお顔で耳を傾けていた彼が、短く息をついた。


「その件については、僕も連絡を受けている。お前は、お前の成すべきことをしろ」

「ですが、坊っちゃん……!」

「留守番は任せろ。ハイネもいる。義姉さんを呼んだから、アーリアも来る。護衛面はお前がいなくても充分だ」

「お嬢さまをですか? もしかして、アーリアさんへ伝達したのは、坊っちゃんですか!?」

「ああ」


 あっさりと肯定され、思わず唖然としてしまう。

 てっきりヒルトンさんからの伝達だと思っていた。

 そういえばアーリアさんは、誰からの連絡とは言っていなかった。


 アーリアさんは、大体の事情を察している様子だった。

 コード邸は、現在当主が予定外の出張をしている。

 坊っちゃんが事情を察していないなど、ないのだろう。


 コード家の一部に筒抜けだけど……大丈夫なのかな……?


「本当は義姉さんには寮で大人しくしていてもらいたかったんだが、仲間はずれにすると怒るだろう?」


 やんわりと微笑んだ坊っちゃんが、小さく息をつく。

 こちらを向いた彼が、真剣な表情を作った。


「いいか、僕たちは子どもだ。本来であれば、ここまで責を負う必要などない。

 僕たちのやることは、所詮ままごとだ。失敗するなら、盛大にしくじれ。そしてその無責任な大人たちの面を汚せ」

「坊っちゃん……っ、中々に過激ですね……!」

「僕も怒っているからな。僕の数少ない友人を、ここまで虚仮にされたんだ。泥を掛けるくらい当然だろう?」


 淡々とした声音と表情は、アーリアさん共々静かな怒りを感じる。

 アーリアさんが氷雪なら、坊っちゃんは青白い炎だろう。

 見た目にそぐわず、より熱く攻撃的な方。


「だが、今後の交渉材料のためにも、成功させることが最良だ。必ず鼻を明かせ。僕の従者なら、そのくらい造作もないだろう?」

「はい、勿論です」

「期待している」


 僕の坊っちゃんがかっこいい!!

 これは、本気で頑張らせていただきます!

 坊っちゃんに吉報を!

 実際に頑張られるのはリヒト殿下ですが、精一杯助力いたします!

 必ずや収穫祭の成功を、坊っちゃんのご期待に応えて!!


 はわわと感激に震える僕を、坊っちゃんが小さく笑う。

 表情を緩めた彼が、腰に片手を添えた。


「子どもの僕でも、領主に届いた書類の封を開けて、並べることくらいは出来る。義母も義姉もいる。だから、お前の仕事はここにはない。やるべきことを違えるな」

「はい。……全部片付いたら、またご奉仕させてください」

「……リヒト殿下に伝えろ。貸してやる、終わったら返せ、とな」

「貸与!!」

「そうしたら、散々こき使ってやる。喜べ」

「何だかあくどい!!」


 必死の叫びを、すげなく追い払う仕草で一蹴される。

「さっさと行け」とまで言われ、泣く泣く屋敷を後にした。


 坊っちゃんてば、本当にドライなお方なんですから……!

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