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義士

10月に発売する書籍紹介!


フェアリー・バレット ―機巧少女と偽獣兵士― 1巻【10月19日】


俺は星間国家の悪徳領主! 9巻【10月25日】


今月は2冊発売となります!

 総旗艦ヴァールのブリッジにて、全軍の指揮を執るクリスティアナは一つの報告に目が留った。


 これまで天井から滝のように流れていた情報が止まると、それだけで周囲の目を引いてしまう。


 一体何があったのか? もしや対外戦において致命的なミスが起きたのか?


 周囲の不安を他所に、クリスティアナはその情報に手を伸ばした。


 クリスティアナの手が触れると、書類一枚程度にまとめられた情報が拡大表示される。


「帝国に属していない民からの救援要請……このパターンは諸国連合の……」


 クリスティアナの表情は懐かしさから一瞬だけ笑みを浮かべるが、すぐに自分の故郷が滅ぼされたことを思い出して悲しむ。


 クリスティアナの様子がおかしいと気付いた控えの副官たちが、周囲に集まってくる。


 彼女たちは交代要員であり、誰かが倒れた際のフォローのため控えていた。


 その中にはクローディアの姿もある。


 クリスティアナが見つめている資料を見て、何が起きているのかを察した。


「ティア様? これはミスティリアの救援要請ですか。ですが、どうしてこのタイミングで……」


 困惑しているクローディアの横では、他の副官が首を傾げていた。


「あの、ミスティリアとは?」


 クローディアが事情を知らない同僚に教えてやる。


「……ティア様の故郷だ」


「え? でも、既に滅ぼされていたはずでは?」


「だから判断に困っている」


 周囲の声を聞いていたクリスティアナだが、報告書を読んで大体の事情は把握する。


「大方、ミスティリアを脱出した民たちが襲撃を受けた惑星に移り住んだのでしょう。居住可能というだけで、人が住むには過酷な惑星に逃げ込んで……」


 滅んでしまった故郷の民たちが、逃げ延びて過酷な惑星に隠れ住んでいた。


 どれだけ辛い思いをしてきたことだろう。


 民たちの苦労を想像すると、クリスティアナは胸が締め付けられるように苦しかった。


 ――ただ。


「……時間を無駄にしましたね」


 クリスティアナは帝国軍の略奪に苦しめられる人々を、助けるつもりがないらしい。


 その態度にクローディアが声を上げる。


「ティア様は本当にそれでよろしいのですか?」


 クリスティアナが頭部だけを振り返らせる。


「何が言いたいの? 今の私は帝国軍の全軍を指揮する立場です。小さな戦場一つに介入している暇はないのよ」


 自分の気持ちを押し殺して今の立場でものを考えるティアに、クローディアは真っ向から言い放つ。


「今のティア様には助けられるだけの武力と権力があります。介入せよ、それだけ言ってくだされば全ての問題が解決します」


「それを行えば、予備戦力の一つを無駄に使ってしまうわね。どこかの戦場が割を食い、そこから連合王国に負けてしまうかもしれないのよ」


 大局を見るべき立場でありながら、近視眼的な判断を下せない。


 今のクリスティアナにも優先するべきものがある。


 ティアの心情を察したクローディアが、ここで介入しなければいずれ後悔すると思ったのだろう。


 なおも食い下がってきた。


「それでも助けるべきです。今なら間に合う可能性があります」


「私は勝つために――あの方に勝利を捧げるためにこの場にいます。優先順位を間違えてまで、自分の願いを叶えるつもりはないわ」


 結局、ティアは折れなかった。


 だが、ここで一人の男性騎士が降りてくる。


「それでは私から一つ提案がある」


 いきなり二人の会話に割って入ってきたのは、クラウスだった。


 クローディアが目を丸くする。


「総司令……代理?」



 メレアのブリッジでは、アリスンがエマの勝手な行動に激怒していた。


「惑星に降下して帝国軍と戦闘に入った、ですって!?」


 その報告を聞いたブリッジクルーたちの反応は、どちらかと言えば好意的だった。


 ティムは司令官用の隻から腰が浮いている。


「ははっ、本当にやりやがったよ……あの騎士様は」


 これまでは馬鹿にするように騎士様と呼んでいたが、今になって始めてエマを騎士と認めた。


「本気で略奪する帝国軍に喧嘩を売りやがった。馬鹿だぜ……本物の馬鹿野郎だ!」


 本来であれば引き下がるのが正しい判断だ。


 それはこの場にいる全員が理解しているが、左遷先となって軍でも異端な連中が集まるのが今のメレアである。


 エマに対する評価は上昇しても、下がることはない。


 ティムにしても、ここまで馬鹿を貫き通すエマには感服していた。


 だが、アリスンだけは違った。


「すぐに出撃可能な起動騎士を出して、ロッドマン大尉を止めるのよ。場合によっては撃墜しても構わないわ」


 その命令にティムが難色を示す。


「略奪行為を見逃すのか?」


「相手は帝国の正規軍です! この戦場にはどれだけの帝国正規軍が参加しているのか理解されていますか? バンフィールド家が指揮を執っていると言っても、全ての軍が素直に命令に従っているわけではないんですよ。ここで軍が分裂するようなことにでもなれば、全体の足を引っ張ることになるんです!」


 オクシス連合王国と戦っている最中、帝国軍内部で争いを起こしている場合ではない。


 帝国に属していない民たちを救ったところで、バンフィールド家には何の利益もなかった。


 むしろ、不利益しかないのだ。


 そんなアリスンを前に、ティムは帽子をかぶり直してから言う。


「監督官殿を拘束しろ。以降の指揮は俺の独断として処理する」


「なっ!?」


 アリスンが何かを言う前に、ティムは命令を出す。


「出撃可能な起動騎士は発艦させて、ロッドマン大尉の援護に回せ。いいか、これは俺の指示だ。念を押すのを忘れるんじゃないぞ」


 ティムの態度を見て、アリスンも気付いたようだ。


「馬鹿なことを……あなた一人で追い切れる責任ではないわよ」


「お行儀のいいあんたには理解できないだろうが、旧軍時代に俺たちが戦えてきたのは意地があったからだ。本当に久しぶりに思い出させてくれたぜ」


 ティムは帽子を脱ぎ捨てて髪を手でリーゼントスタイルに整える。


 手慣れた手つきで整え終わると、顔付きまで変わっていた。


 くたびれた中年という姿から、気合いの入った古めかしい不良という印象に早変わりだ。


 その様子を見ていたブリッジクルーたちが色めき立つと、ティムが声を張り上げて命令を出す。


「メレアも突撃だ、この野郎!」



 大気圏を突破して降下したアタランテは、多目的ライフルを構えると警告を出す。


「こちらエマ・ロッドマン大尉。今すぐに略奪行為を中止して撤退しなさい。繰り返します。こちらは――っ!」


 警告を出したエマに対して、降下していた帝国軍の艦艇が次々に攻撃を開始した。


 略奪行為の中止など受け入れるつもりがないらしい。


『品行方正な馬鹿者に戦場の厳しさを教えてやれ』


 指揮官らしき人物の命令で、艦艇からの攻撃が勢いを増した。


「あなたたちがそのつもりなら!」


 多目的ライフルのセーフティーを解除すると、エマは回避行動を取りながら射撃を開始した。


 戦闘艦の主砲や対空機銃を次々に潰していくと、迎撃のために出撃してきた帝国軍の機動騎士部隊が上がってくる。


 上昇してくるのはモーヘイブを中心とした部隊だ。


「帝国の正規軍なのに主力がモーヘイブなの?」


 困惑しつつもエマはアタランテの左サイドスカートから、レーザーソードの柄を引き抜いた。


 左手にレーザーソードを構えると、そのまま上昇してくるモーヘイブ部隊に斬りかかる。


「遅い!」


 味方であるため通信回線が互いに開いており、敵の声が聞こえてくる。


『地方貴族が新型機を揃えやがって! 成金のバンフィールド家が!』


 モーヘイブと空中戦を繰り広げるアタランテは、そのスピードで翻弄していた。


 すれ違い様に手脚を斬り飛ばせば、バランスを崩してモーヘイブたちが降下していく。


 まだ戦えるのに、戦闘不能であるとアピールしてゆっくりと降下していた。


 勝てない戦いから逃げ出すような態度に、エマは何故か怒りを覚えた。


「正規軍ならもっと真面目に戦いなさいよ!」


 エマが指揮官機らしいモーヘイブの頭部を蹴り飛ばすと、パイロットが引きつった笑みを浮かべながら答える。


『正規軍だろうと、俺たちは元々パトロール艦隊の機動騎士部隊だぜ。何を期待しているんだよ』


 やる気のない態度が、元のメレアクルーたちと重なる。


 だが、敵の数は多かった。


『俺たちに手を出したお前は終わりだ。戻っても処刑だな!』

『いい子ぶりやがってよ。こんなの戦場では日常茶飯事だろうが』

『バンフィールド家は略奪しないってか? 嘘吐き野郎が!』


 帝国軍のパイロットたちは一応の訓練は受けており、それでいて数も多い。


 エマは右腕を骨折していたため、普段の全力を出し切れずにいた。


「他にもやり方くらい選べたはずでしょうに!」


 モーヘイブに斬りかかろうとすると、上空から発射されたビームに敵機が次々に撃ち抜かれていく。


 顔を上げると、そこにはヴァローナチームの姿があった。


「木村中尉!? どうして参加したんですか!」


 こんな戦いに巻き込みたくなったエマの気持ちを、アインは察してはいた。


『自分も略奪行為は嫌いですからね。それに、だらしのない正規軍を見ていると反吐が出ますので……まぁ、気分ですよ』


「気分!?」


 アインの返事に困惑しながらも、エマは敵機の攻撃を回避して蹴りを見舞っていた。


『自分の父も軍人でしてね。頑固者で曲がったことが嫌いな人です。自分もそんな父を尊敬してこの道を選んだのでね』


 アインが操縦するヴァローナが、エマに倣うようにモーヘイブの頭部をライフルで破壊していた。


 アインの覚悟を見たエマは、口論を止める。


「このまま略奪している部隊を鎮圧します!」


『たった四機でそう言える大尉殿には感服しますよ。――お供しましょう』


 アタランテが加速すると、ヴァローナチームも追従してくる。


 勝手にすると言っていた彼らが、エマを認めて指示に従っていた。


 モーヘイブ部隊を突破すると、略奪から戻って来たと思われる機動騎士部隊が姿を現す。


 アインはすぐさま、機体の照合を行ったらしい。


『あちらも最新世代の機動騎士のようです。機体名は……ワイルダー。第一兵器工場製の万能型機動騎士ですよ』


「道理でネヴァンタイプとは印象が違いますね」


 バケツをかぶったような頭部が特徴である機動騎士は、他には特徴らしい特徴がない。


 騎士を思わせる外観は帝国の機動騎士らしさであるし、何かしら特別な武装がある様子もない。


 ただ、シンプルに性能を突き詰めた機動騎士だった。


 乗っているのは騎士なのか、アタランテに真正面から斬りかかってくる。


『第三兵器工場のネヴァンタイプか! だが、俺のワイルダーが負けるはずがない!』


 パイロットの技量も悪くない。


 これまで相手にしてきた一般兵士たちからすれば、士気も高く戦闘に対する意欲もある。


 しかし、エマのアタランテにとっては敵ではなかった。


 相手の剣をレーザーブレードで受け流すと、ワイルダータイプが次々に襲いかかってくる。


 騎士が乗る最新鋭の機動騎士部隊――これにはアインも不利を感じたらしい。


『大尉殿、この敵は厄介だ』


「えぇ、理解しています。だから――」


 エマは痛む右腕でアタランテのリミッターを解除していく。


「――短時間で終わらせます」


 アタランテの動力炉がエネルギーを過剰に生み出し、それらが関節から放電が起きた。


 機体色もエネルギーの放出により黄色く変化すると、まるで雷を舞うようなその姿に、敵も味方も面食らっていた。


 アインが驚いている。


『稲妻の由来はその姿か』


 過負荷状態――オーバーロード状態のアタランテのツインアイが、強い光を放つとワイルダーの前から消えた。


 敵騎士は困惑する。


『は?』


 驚いた直後、敵騎士のコックピットは激しく揺さぶられた。


 気が付けば両腕と両脚を切断されており、他のワイルダーも次々に襲われ破壊されていく。


 その姿に騎士も怯えていた。


 帝国騎士が助けを求める。


『お、お前たちの出番だぞ! 傭兵共! 聞こえているならすぐに救援に来い!』


 帝国騎士の助けを呼ぶ声に応えるように、機動騎士たちが次々に舞い降りてくる。


『追加料金を頂きますよ』


 女性の声がすると、帝国騎士は怯えながら返事をする。


『請求は要塞に回せばいい! いいから、こいつを止めてくれ!』


 ワイルダーを破壊して回っていたエマは、現われた機動騎士の一機を見て髪の毛がふわりと膨らんだ。


 眉間に皺を作り、コックピットの中で声を荒げる。


「シレーナァァァ!!」


 戦いで両腕を失ったゴールドラクーンは、代わりに禍々しい腕を用意していた。


 鋭いツメを持つ長く太いその腕には、光学兵器であるビームキャノンとビームガトリングが用意されている。


『早速再戦できて嬉しいわ。今度こそ粉々にしてあげるわね、正義の味方ちゃん!』


 過負荷状態のアタランテと、両腕を換装したゴールドラクーンが空中でぶつかり合う。


ブライアン(*´ω`)「このブライアンも昔はブイブイいわしておりましたぞ。懐かしいですな~」


リアム(;゜Д゜)「お前もリーゼントだったの? (ブイブイって何だ?)」

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― 新着の感想 ―
クラウスがティアに貸し1つ作りそうな流れだけど、本編だと筆頭の座を命ごと狙われてるのよなぁ
予約注文したよ! いつも応援しています。
艦長命令だすなら「帝国正規軍を戦勝する宇宙海賊を排除せよ」ぐらい言ってもいいんとちゃうか?
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