技術試験隊の実力
【10月19日】発売予定の フェアリー・バレット―機巧少女と偽獣兵士― 1巻 がどんな話かわからず手が伸びない……そんな読者さん向けに!
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アタランテが要塞に取り付くと、そこからは早かった。
要塞の迎撃システムに穴が空くと、遊撃艦隊はそこから接近して次々に機動騎士を出撃させる。
被害は予想よりも少なく、それでいて遊撃艦隊のみで要塞攻略の足掛かりを作ってしまった。
メレアのブリッジからその様子を見ていたアリスンは、唖然とするしかなかった。
後ろで司令官席に座るティムが口を開く。
「取り付いてしまえば、後はそこから崩していくだけだが……問題は敵の騎士様だな。どれだけ配置されているかが問題だわな」
取り付いたのはいいものの、敵の騎士が乗る機動騎士が出てきた場合は困る。
敵の数が多ければ、要塞に取り付いて身動きの取れない艦隊などいい的だ。
内部に騎士が控えていても、要塞内部の攻略が遅れるだろう。
その間に敵の増援が来ると危うかった。
アリスンは振り返って、ティムを睨み付けるのだった。
「……私から指揮権を奪い返して作戦を成功させましたね。見事な手腕でしたよ。さぞ、気分爽快でしょうね」
私情を挟むアリスンに、ティムは面倒そうな顔をする。
「そうだな。だが、喜ぶのは生き残った後だ。生き残らないと、笑うことも、後悔することも叶わない」
「……っ」
悔しさに俯いて手を握りしめるアリソンに、ティムはそれ以上何も言わなかった。
◇
ヴァローナチームを率いて要塞に取り付いたアインは、コックピットから戦っているアタランテの姿をモニターに映していた。
二丁拳銃を構えて戦う独特な戦闘スタイルだが、要塞から出撃してきた機動騎士を危なげなく撃破する姿からは強者の風格を感じていた。
「二つ名を持つ騎士だけはあるか」
ヴァローナチームも要塞表面の砲塔を次々に撃破しているが、武器を満載していたラクーン中隊ほどの活躍はできていなかった。
『隊長、こちらは弾薬が残り僅かです』
『こちらも同じです』
二番機と三番機からは、これ以上の戦闘は無理であると報告が上がってくる。
アインの方も同じで、所持していたライフルのエネルギーパックは残り僅かになっていた。
「……近接武器を装備して中隊の援護に回る」
ラクーンを守れと命令するアインに、部下たちは目を丸くしていた。
『よろしいのですか?』
「この状況を乗り切るには味方との協力が必要不可欠だ。それに、要塞を飛び出て母艦に戻っては撃ち落とされる可能性が高い」
『了解しました』
部下たちが納得して近接武器に持ち替える。
アインはアタランテの活躍を見ながら、微笑を浮かべていた。
「稲妻……嘘偽りなしだな」
◇
砲塔を破壊して回っていたアーマードネヴァンだったが、残弾数が心許なくなってきたところで物陰に隠れていた。
それなりの働きはしたため、後は生き残るために全力を傾けている。
そんなアーマードネヴァンは強化された頭部のカメラアイが、戦場全体の様子を見ていた。
リックは口笛を吹く。
「パイセン、本当に要塞に風穴を開けちまったぜ」
アタランテが突破したコースは迎撃兵器が破壊されており、そこだけ敵の攻撃が弱くなっていた。
穴を埋めるために機動騎士が出撃してくるが、エマ率いる機動騎士中隊が妨害を行っている。
遊撃艦隊がエマの作った隙を突くように要塞に接近しており、このまま艦隊が取り付けば帝国側の優勢に傾くだろう。
「ははっ! このまま隠れていれば生き残れそうっすね」
生き残れる可能性が高くなり、リックが安心しているとアーマードネヴァンが隠れていた物陰の地面が動き出す。
「――え?」
床に穴が空いて通路が出現すると、そこから機動騎士が飛び出してきた。
「隠し通路とか卑怯っしょ!」
アーマードネヴァンが急上昇を行うと、飛び出してきた機動騎士三機が付いてくる。
ブースターを使用して振り切ろうとするのだが、出撃してきた機動騎士はどうやら騎士が乗る高性能機らしい。
「あ~、これは逃げたら他に被害を出しそうっすね。う~ん……俺ッチが相手をするしかないみたいっすね」
迫り来る連合王国の騎士たちに、アーマードネヴァンは振り返った。
装甲の一部が開かれると、そこにはレーザーの発射口であるレンズが幾つも配置されていた。
敵機に狙いを定めると、レーザーが発射される。
細く頼りない光が敵機に襲いかかるが、装甲を貫くほどの威力はなかった。
敵もそれを見て脅威ではない判断したのか、アーマードネヴァンに攻撃を仕掛けてくる。
一気がライフルを構えると、それを見たリックが短く口笛を吹いた。
「その動き、危ないっすよ」
レーザーが敵のライフルのマガジンに集中する。
弾倉が爆発して機動騎士の右腕が吹き飛ぶと、敵は遠距離攻撃を諦めて近接戦闘に切り替えた。
「切り替えが早いっすね! ……でも、駄目っす」
アーマードネヴァンが加速して三機から距離を作ると、脚部に懸架していたミサイルパックを全弾発射した。
ミサイルに襲いかかられて爆発に巻き込まれる機動騎士三機は、そのまま撃破される。
ミサイルパックを切り離したリックは、小さくため息を吐く。
「切り札のミサイルパックもこれで終わり。後は逃げ回るしかなさそうっすけど……」
モニターの一部にチラリと視線を向けると、そこではアタランテが戦っている姿が見えた。
「……ま、パイセンがいるから大丈夫っすね。それにしても、見た目の割にえげつない戦い方をする人っす。敵に同情するっすよ」
◇
ガトリングガンで弾丸をばらまくダグが、新たに現われた機動騎士たちの動きを見て叫ぶ。
『こいつら騎士だ!』
ラクーンたちの攻撃を回避して接近してくる機動騎士たちは、連合王国の騎士たちが乗っていると予想できた。
エマは即座に反応して、そちらにアタランテを向かわせる。
「あたしが相手をします!」
『頼むぜ、隊長!』
ダグたちが下がると、代わりにアタランテが前に出て機動騎士たちに二丁拳銃を向けて攻撃を開始する。
拳銃型だが、フルオートで連射が可能だ。
互いに距離を詰めながら撃ち合い、そしてすれ違う瞬間にエマが敵機動騎士の頭部を蹴って一機破壊した。
破壊された機動騎士が要塞表面を転がり、他の敵機は大きく旋回してまたアタランテに攻撃を仕掛けるため向かってくる。
アタランテと敵機が8の字を描くように飛び、またすれ違うタイミングがやって来た。
「次で仕留める!」
アタランテを加速させたエマは、二丁拳銃に取り付けられたブレードですれ違い様に二機を切断し、残り一機に蹴りをお見舞いした。
アタランテの蹴りが敵機動騎士の下半身に突き刺さった。
蹴られた機動騎士がアタランテの加速に負け、そのまま地面に叩き付けられる。
動きが止まるとアタランテが足を強引に引き抜くと、敵との間に回線が開いていた。
『帝国軍のエースがこんな意味もない戦場に……』
怪我を負ったらしいパイロットは、そのままコックピットで力尽きて意識を失った。
騎士が乗る機動騎士の破壊を確認したエマだったが、味方から通信が入る。
メレアからだった。
『ご苦労さん。相変わらず無茶な戦いをするな』
「メレア!」
アタランテが見上げると、そこにはメレアが来ていた。
『遊撃艦隊が取り付いた。陸戦隊も次々に乗り込んでいる。大手柄だぜ、中隊長』
オペレーターが言うとおりだった。
遊撃艦隊から小型艇が次々に要塞内に突入しており、制圧に乗り出していた。
「特務の皆さんは?」
『トレジャーか? あいつら、さっさと自爆装置の解除をしたらしい。後は消化試合だそうだ』
「相変わらず手際がいいですね」
『同感だ。それから、他の中隊が持ち場を変わってくれるそうだ。中隊はメレアに戻ってくれとさ』
「了解しました」
通信が終わると、エマはすぐに中隊に指示を出す。
「聞こえていましたか? 全機帰投してください」
中隊は被弾こそしているが、誰一人欠けることなく作戦を遂行させた。
◇
要塞内の攻略が八割以上も進むと、メレアのブリッジでは歓声が上がっていた。
残り二割は攻略していないのだが、八割の中に司令部が含まれている。
要塞の責任者も拘束しており、敵に投降を呼びかけているらしい。
「あの騎士様やりやがったぜ!」
「本当に成功させやがった」
「驚かされるのはこれで何度目だよ」
メレア単艦で見れば、誰一人欠けずに要塞攻略を果たせたので大勝利だった。
アリスンはブリッジに立って、帰投する機動騎士たちをモニターで眺めていた。
「……信じられない。この程度の被害で作戦を成功させるなんて」
エマが優秀であるのは知っていたが、予想を超えていた。
驚いているアリスンの後ろでは、ティムがエマの活躍について愚痴をこぼしている。
「あれだけ活躍できるんだから、さっさと他の部隊に移ればいいのにな。……監督官殿、いっそあの騎士様をここから引っ張り出してくれませんかね?」
ティムの言葉を聞いて、アリスンは怒りで奥歯を噛みしめる。
いつの間にかブリッジも静まりかえっていた。
ティムが水を差すような発言をしたからなのだが、本人は気にした様子がない。
エマはこの場に留まるべきではないと思っているのだろう。
だが、アリスンからすれば、ティムの発言は許容できなかった。
「――優秀な騎士は軍内部でも奪い合いを行っています。ロッドマン大尉であれば、喉から手が出るほど欲しい部隊はいくらでもいるでしょうね」
「あぁ、だからさっさとそっちに異動させてほしい」
「優秀な軍人の存在は艦の運命を左右します。まして、騎士であれば尚更です。艦長であれば、優秀な部下を軽々しく手放すような発言は控えるべきではありませんか?」
振り返ってアリスンがそう言うと、ティムは頭をかいていた。
アリスンはそんな態度も我慢ならない。
「負け犬根性が骨身にまで染みついていますね」
アリスンが挑発しても、ティムは言い返してこなかった。
諦めた顔をして帽子を深くかぶり、黙り込んでしまうのだった。
◇
要塞攻略が終了すると、帝国軍の少将は顔を赤くして振るえていた。
「バンフィールド家のみで要塞攻略を果たしただと……」
少将の発言に対して、秘書官が補足を行う。
「閣下、我々も攻略に参加していました。バンフィールド家のみの戦果と言い切るのは、正しくはありません」
帝国軍が攻略に参加したのは、遊撃艦隊が取り付いた後だった。
様子を見ていたのだが、思っていた以上に活躍したので慌てて突撃したのだ。
そのせいで出さなくていい損害まで出してしまい、少将は腸が煮えくりかえっている。
「ほとんどバンフィールド家の手柄だ! これで消耗させていれば納得できた。だが、奴らは大した損害を出していないではないか!」
秘書官が何とかなだめようとするのだが、少将は自分の思い描いていた作戦が失敗に終わってしまったので荒れるのだった。
その時、オペレーターが報告してくる。
荒れている少将ではなく、秘書官を通して伝えるつもりらしい。
「秘書官殿、傭兵団がこちらに接触してきております」
声をかけられた秘書官は、オペレーターの思惑に気付いていたため素っ気ない態度を取る。
「傭兵団? 声をかけてくるタイミングが遅いわね。どこの――」
相手を確認すると、秘書官は目を見開く。
「――ダリア傭兵団。随分と有名な傭兵団じゃないの」
規模の大きな傭兵団が、どうして自分たちに声をかけてくるのか? 秘書官は困惑しながらも、少将に報告するのだった。
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カドコミにて最新話も投稿もされているので、どちらもチェックしていただけたら幸いです。
ツラクナイアン(`・ω・´)「エマさんが立派になられて、このブライアンも嬉しいですぞ」




