アリスン・ベイカー
フェアリー・バレット-機巧少女と偽獣兵士-1巻ですが、発売前から予約も入っているそうで本当にありがとうございます!
「アリスン・ベイカー大尉です。今回に限り、メレアに乗艦することになりました。以降、よろしくお願いいたします」
メレアのブリッジには、部隊の主立ったクルーが集められ、その中には機動騎士部隊を率いる中隊長扱いのエマも含まれていた。
教科書通りの完璧な敬礼を披露するアリスンは、どうやらブリッジクルーらしい。
らしい、と曖昧なのは彼女のメレアでの役割が艦隊総司令部に決められていたからだ。
「あの、一つ質問をよろしいでしょうか?」
エマが控えめに手を上げると、アリスンは視線だけを向けた後に小さく頷いた。
「エマ・ロッドマン大尉ですね。えぇ、構いませんよ」
言葉自体は柔らかい印象だが、アリスンの態度は周囲に壁を作っているようにも見えた。
エマはアリスンの役職について問う。
「監督官として派遣されたそうですが、具体的には何を監督するんです? あたしたち機動騎士中隊でしょうか?」
アリスンはエマの方に顔を向けると、微笑んで見せた。
ただ、その微笑みはどこか馬鹿にするような……嘲笑っているように感じられた。
「全部ですよ。全部」
「全部?」
「この部隊の前身は左遷先と言われた辺境治安維持部隊ですからね。士気も練度も低く、全会の任務では消極的に動いたという記録も残っています。そのような部隊でありながら、突起を配備しているという特殊な状況……艦隊総司令部も放置できないと判断し、私を派遣したのですよ」
エマはアリスンが派遣された目的を察する。
「お目付役ですか」
「監視も任務に含まれますが、私の役割は艦隊総司令部の命令をあなた方に守らせること。言ってしまえば臨時の監督ですよ」
監督と言われて周囲がざわつくと、アリスンが声を張り上げる。
「私の命令は艦隊総司令部の命令です。逆らうことは許しません。階級に関わらず、今後は私の指示に従っていただきます」
周囲を睨み付けるアリスンは、心なしかエマたちを見下しているように感じられた。
そんな中、集められた内の一人であるダグが気になる点を指摘する。
「また厄介な偉いさんが来たものだな。それはそうと、ベイカーって苗字は……」
ダグの言葉で、周囲の視線が黙っているティムに集められた。
アリスンとティムを交互に視線が向けられ、本人たちも居心地が悪そうだ。
最初に口を開いたのはアリスンだ。
「別に隠す必要性もありませんね。大佐は私にとって曾祖父に当たる人物です」
それを聞いて周囲は「え!?」と驚きの表情をする。
興味がわいたエマは、ティムにアリスンとの関係を尋ねる。
「司令、ご家族がいたんですね!」
「……あぁ」
ぶっきらぼうに答えるティム司令に、周囲は興奮気味だ。
「ひ孫が配属されてきたのかよ」
「司令も水臭いな。言ってくれればいいのに」
「立派なひ孫さんですね、司令」
先程までの雰囲気が吹き飛び、ブリッジはアリスンに対して歓迎モードになる。
しかし、アリスン本人は心を開こうとしなかった。
軍人らしく振る舞っているだけでなく、どこかメレアという部隊を見下し、深く関わろうとはしていなかった。
「血縁者であっても他人ですよ。私は大佐と一度も面会したことがありませんからね。ですので、肉親の関係を持ち出さないでください」
大佐であるティムに対して無礼に振る舞うアリスンだったが、艦隊司令部から派遣されて来た厄介な客人だ。
ティムも複雑な心境なのか、何も言わないためエマが代わりに言う。
「ベイカー大尉、言い方がきつくありませんか?」
「今まで散々軍隊としてあり得ない行動をしながら、まともに扱われると思う方がどうかしていますよ。私が派遣された意味を、しっかりと噛みしめて今回の戦いに望んでください。そもそも、私だってこんな部隊に派遣されたくなかったんですから」
こんな部隊という部分に、周囲が露骨に顔をしかめて反応していた。
エマも黙っていられなかった。
「こんな部隊なんて言い方はあんまりです。あたしたちは――」
アリスンは気付きながらも続ける。
「特別目をかけられているようですが、中央にとって大事なのは主戦力である正規艦隊です。遊撃艦隊に配属されるあなた方は、それだけの価値しかないと理解しておくのね」
たった一人でメレアに乗り込んできたアリスンだが、怖いもの知らずというべきか、それとも傲慢なだけなのか……エマたちを見下していた。
◇
アリスンやエマたちが去ったブリッジでは、ダグが残っていた。
「あんたのひ孫はとんでもないお嬢さんだな。あの年齢で大尉なんて階級もそうだが、あれはかなりのエリート様だぜ」
アリスンは若くして大尉になっており、エリートコースを進む才女だった。
ティムはひ孫の態度を思い出しながら額に手を当てる。
「エリート風を吹かす痛い娘がひ孫とは、世の中はわからないな」
自分のひ孫がエリートになり、メレアに配属されるとはティムも想像していなかった。
ダグはティムに複雑な視線を向けていた。
「ティム司令、あんた家族とは?」
「……もう何百年と家に帰っていない。仕送りを続けているから、離婚届は送られて来ないけどな」
ティムは冗談を交えて返事をするが、ダグは心配していた。
「家族がいるなら一度くらい戻った方がいいと思うが?」
ただ、ティムは戻りたくなかった。
「今更、どんな顔をして戻ればいい? あの娘が言うように、血が繋がっているだけの他人だよ。俺みたいなのが今更――」
ティムはそれ以上語りたくないと、帽子を深くかぶって目元を隠した。
◇
アルグランド帝国とオクシス連合王国との戦場に選ばれた恒星系には、戦争を稼ぎ時と考えている傭兵団や武器商人たちが集まっていた。
傭兵ギルドに所属しているシレーナも、自らダリア傭兵団を率いて戦場にやって来た。
星間国家同士の大規模な戦争とは、莫大な予算が投じられる。
人工知能の補助は受けているとはいえ、この世界の人間はほとんどが人工知能嫌いだ。
よって、莫大な予算が人の手に委ねられている。
そんな予算は傭兵団や武器商人たちだけでなく、兵士たちに娯楽を提供する集団まで集まってくる。
ダリア傭兵団の旗艦ブリッジにて、【シレーナ】は団長用のシートに腰掛けず立っていた。
モニターに映し出される景色に口角を上げる。
「この規模の戦争なら、最低でも数十年は稼げそうね」
今回副官に選んだ部下が、シレーナの隣で胸を張り、手を後ろで組んで立っていた。
「我々にとっては稼ぎ時ですね」
「馬鹿な星間国家やお貴族様のおかげでね。それはそうと、今回はどちらが勝利すると思う?」
シレーナは副官との会話を楽しんでいた。
新しい副官がどの程度使えるのか、会話で探りを入れるのも忘れていない。
何しろこの副官は人員を補充する際に加入させた新入りでもある。
優秀な指揮官として育成するために、シレーナが副官に指名したのだ。
副官はアゴに手を当てる。
「数の上では帝国軍が優勢ですが、オクシス連合王国の方が士気は高い……加えて、今回の帝国の総大将は、第一王子と継承権争いをしている第三皇子であるクレオ殿下です。こちらは戦場に出た経験もろくにないそうですよ。対して、オクシス連合王国は最年少で大将の地位に上り詰めた才女が総司令官ですから……オクシス連合王国かと」
自分なりに分析した副官に対して、シレーナは拍手をしながら褒める。
「大変結構。私と同じ考えだわ。その上で、私たちはどちらに味方するべきかしら?」
シレーナの問題に副官はニヤリと笑っている。
「自分たちを高く売れて、なおかつ生き残れる方です。どちらについても構いません。その時々で味方をする勢力を代えてもいいのですから」
副官の答えにシレーナは満足し、心の中で合格点をやる。
「正解よ。この規模の戦争でどちらか一方だけに味方するなんてあり得ないわ。私たちは傭兵なのだから、高い値段を付けてくれる方に味方しないとね。でも、負ける戦には参加しないのを忘れないでね」
「はっ!」
副官が敬礼を行うと、ブリッジのオペレーターが振り返ってくる。
その表情には僅かに緊張感があった。
「シレーナ団長、帝国側の実質的な指揮官が判明しました」
第三皇子クレオは表向きの総大将に過ぎず、補佐をする将軍なり騎士が全体の指揮を執る。
噂話や確証のない情報は幾らでも飛び交っているが、特定までは至っていなかった。
シレーナはオペレーターの反応が気になりつつも、冷静を装う。
「誰なの?」
「バンフィールド家の騎士【クラウス・セラ・モント】です!」
その名前を聞いてブリッジクルーの反応は二つに分れた。
驚いた反応をするクルーたちもいれば、無名の騎士に首を傾げているクルーもいる。
この手の戦争では実力のある有名な騎士が補佐に付くのが定番なので、無名の騎士がクレオの補佐をしているのが信じられないのだろう。
ただ、シレーナの反応は前者だ。
一瞬だが目を丸くし、そしてすぐに眉根を寄せた。
副官がシレーナの反応に戸惑いながらも、クラウスについて語る。
「クラウス……そのような有力な騎士がいるとは聞いていません。バンフィールド家が無名の騎士を補佐に推薦するとは思えませんので、実力はあるのかもしれませんね。あるいは、何らかの政治的な力が働き、無能がそのポジションに就いてしまったのか」
戸惑っている副官に、シレーナは教えてやる。
「少し前にダリア傭兵団が大打撃を受けたのは教えたわよね?」
「はい。そのせいで団長は立て直しで苦労されたとうかがいました」
「……クラウス・セラ・モントよ」
「は?」
「後から調べたのだけど、私たちに大打撃を与えたのがクラウスだったのよ。あの頃は今よりも小規模な艦隊を率いていたみたいだけれど……そう、短期間でここまで上り詰めたのね」
シレーナたちダリア傭兵団は、第七兵器工場襲撃時にクラスによって大損害を被っていた。
この戦場では、副官のように無名の騎士と評価する者たちが大半だろう。
しかし、シレーナたちはクラウスが危険であると知っていた。
「ただの無能ではないのは確かよ。もっとも、これだけの規模を率いて戦える才能があるかは不明だけどね」
何百万隻も率いているというのは、才能だけでも、経験だけでも、運だけでも足りない。
全てを兼ね備え、周囲に恵まれた一握りの存在たちが成せる偉業だ。
数万隻を率いて戦えても、何百万隻を率いる立場になると駄目になる将軍や騎士は多い。
クラウスにこれだけの規模の戦争を采配する才能があるかは未知数だが、シレーナは油断できない相手と考えていた。
「素人と思って油断しない方がいいわね。少なくとも、帝国側の指揮官は有能だと思って動くわよ」
副官はゴクリと唾を飲み込む。
シレーナがここまで評価する相手だとは、思っていなかったのだろう。
「了解しました」
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