曲者揃い
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技術試験艦として生まれ変わったメレアの格納庫は、改修される前よりも狭くなっている。
以前はスペースを無駄に使用していたわけだが、近代改修が行われる際に技術試験隊として必要な機材や設備が取り付けられた。
格納庫のほとんどを占めるのは、第七兵器工場のラクーンだ。
奥にはアタランテの専用スペースが用意されており、一機だけが特別待遇を受けている状態にも見える。
そんなメレアの格納庫に新たに配備されたのは、第三兵器工場の機動騎士だった。
届いたのは二機種。
それぞれが別計画の機動騎士なのだが、技術試験隊として本格的に稼働するメレアにスタッフを含めて配備されることになった。
エマの前にはテストパイロットたちが並んでおり、一番派手な見た目をしている青年が一歩前に出て自己紹介を開始する。
「【リック・マーティン】少尉であります! 担当している機動騎士はアーマードネヴァンっす。よろしくっすよ、パイセン!」
リックの気安い自己紹介にエマは面食らう。
「パ、パイセン? あたしのことですよね?」
「もちろんっすよ。俺ッチ、こう見えても一応は騎士ですからね。ロッドマン大尉の後輩っす!」
エマの後輩を名乗るリックは騎士だった。
確かに身長は高めで体付きもしっかりしている。
しかし、言動はいかにも軽薄。
何よりも、リックはモヒカン頭で髪をピンク色に染めていた。
中隊長のエマを前にしてもサングラスもかけているし、規律に関してもユルユルだ。
エマは頭痛を覚えたが、そんなリックがテストパイロットを務める機体を見上げる。
「……色々と言いたいことはありますが、先に担当する機動騎士の確認をしましょうか。事前にデータは部隊で共有していますが、テスト中の機体には機密や変更も多いはずなので、大まかに説明をしてもらえますか?」
わざわざ自己紹介の場で大まかな説明を求めたのは、エマの周囲にいるメレアのパイロットや整備士たちにも聞かせるためだ。
彼らが何の目的でメレアに乗り込んだのか、と。
エマが簡単な説明を求めると、リックはだらしない敬礼をしてみせる。
「了解っす! ――俺ッチが乗るアーマードネヴァンですが、こいつは第三兵器工場との共同開発ですね。機体本体というよりも、オプションパーツのテストっすよ」
通常のネヴァンはスマートな機動騎士だが、リックの乗るアーマードネヴァンはシルエットがそもそも重装甲になっている。
「オプションパーツ? 取り外しも可能になっていると?」
エマの質問にリックは首を横に振った。
「いや~、こいつは追加装甲のテスト機体っすからね。追加装甲を取り外すと、中身は通常の装甲を外した基本フレームのみのネヴァンっすよ。上はこの状態で武装や他のオプションパーツを使用したデータが欲しいみたいっす」
エマはアーマードネヴァンを見上げて、どのような機体なのかを大体掴んでいた。
(事前に確認した資料通り、ネヴァンを重装甲タイプに変更した際のテスト機か……さて、お次は)
リックの説明に満足したエマが次に視線を向ける先は、ネヴァンの一世代前に分類される機動騎士のチームである。
こちらはリックと違って三機編制の小隊であり、隊長と思われる人物が一歩前に出た。
黒髪オールバックにオーバル型の眼鏡が特徴的な男性は、目が細くて常に険しい表情をしているように見えた。
リックとは対照的に規律に厳しそうな雰囲気を出しており、実際に文句の付けようもない敬礼を見せてくる。
「ヴァローナ隊を率いる【アイン・木村】中尉であります」
こちらは真面目そうな人で安心するエマは、早速機動騎士――ヴァローナ小隊の説明を求めることにした。
「木村中尉ですね。早速ですが、ヴァローナ小隊の目的について――」
「我々の小隊が行っているのは、バンフィールド家の主力機を次世代機から現行機に移し替えた際の戦力への影響の調査であります」
「あ、ありがとうございます。それでは、個人的にあたしから質問があります。そろそろ次世代機が現行機に変わろうとするタイミングですよね? わざわざ戻す必要は――」
エマが質問を言い終わらない内に、アインは答えを言う。
「バンフィールド家はいち早く次世代機のネヴァンに目を付け、量産機として扱ってきました。ですが、そのために維持コストが膨らんでいます。我々のチームは現行世代を採用することで、バンフィールド家にとって軍事費の大幅な見直しが出来ると考えのもとに発足しました」
「……そうですか」
二度も言い終わる前に言葉を被されたエマは、目の前の真面目そうなアインも十分に問題児であると認識した。
アインの説明を聞いて疑問に思ったらしいモリーが、手を上げて質問する。
「でもさ、でもさ! 次世代機扱いを受けるネヴァンたちが、もうすぐ現行機になるよね? 今から採用するなら旧型になるけど、それっていいのかな?」
型落ちの兵器を利用してもいいのか、という質問に対してアインは眼鏡を光らせた。
まるで待っていました、と言わんばかりにモリーの問いに答える。
「貴官の意見はもっともだ。だが、機動騎士の世代交代というのは数年で行われるものではない。事実、他家では騎士団に旧型の機動騎士を与えている例も少なくない。ネヴァンたち次世代機が広く行き渡るのに百年かかってもおかしくない、というのが我々の考えだ。ただ、百年かけても現行世代の機動騎士を揃えられる貴族がどれだけいるのか疑問だな。実際にバンフィールド家でも百年前は何世代も前のモーヘイブを主力としていた。つまり、現行世代のヴァローナは今後百年以上に渡って十分に価値を示し続ける、というのが我々の予想だよ」
アインから説明を受けたモリーは、軽はずみで質問するべきでなかったと後悔していた。
「な、なんかすみません」
謝罪をするモリーに対して、アインは更に続けてくる。
「お気になさらずに。それから、他にも疑問を持っている者がいると思うので先に答えておこう。ヴァローナがネヴァンに劣っていると不安に思っている者も多いはずだ。確かに性能面では負けているが、ヴァローナは優秀な機体だよ。現行世代としては完成形と言ってもいいだろう。生産性と整備性はネヴァンに勝るし、拡張性も申し分ない。改修を行えば次世代機にだって引けを取らない性能を発揮してくれる機動騎士だよ」
話を続けるアインを止めるために、エマは声をかける。
「木村中尉、そこま――」
「我々はそんなヴァローナの正式採用を目指して励んでいる。是非とも、協力願いたい」
エマが止めようとしたのに、アインは勝手に話を終えてしまった。
手を伸ばした状態で固まっていたエマの横では、ポケットに手を突っ込んだリックが背中を曲げて面倒そうな顔をしていた。
「何か面倒そうな奴がいますね、パイセン」
エマは思った。
(新しい部下の癖が強すぎるんですけど!?)
◇
機動騎士パイロットが使用する休憩所に、シミュレーターの訓練を終えた第三小隊の面々が入ってくる。
エマはパイロットスーツの襟元を緩めると、深く息を吐いた。
汗ばんだ額を手で拭うと、エマの後からダグたちも入ってきた。
ラリーは汗だくで足下がおぼつかなく、それを見ていたダグがため息を吐いていた。
「大丈夫か、ラリー?」
心配しているダグの方も、長時間のシミュレーターで疲労困憊のようだ。
ラリーが休憩室にあるソファーに腰を下ろすと、背もたれに体を預ける。
「大丈夫なように見える? 何十時間もコックピットの中に拘束されて、こっちはもう指を動かすのも億劫だよ」
ダグもソファーに腰掛けると、手に持っていたドリンクをストローで飲む。
ボトルに入ったドリンクは、水分補給だけでなく一日分の栄養素も摂取出来る優れものだ。
そのボトルを見たエマは思う。
(ダグさんが飲んでいるの、ストロベリー味だ)
厳ついダグからは想像出来ないチョイスだったが、疲労困憊で自分が何を選んで購入したのかもわかっていないようだった。
飲み干したダグがボトルを見ると、眉をひそめていた。
失敗したと思ったのか、ボトルを握り潰していた。
二人が黙って体を休めている姿を見て、エマが声をかけようとすると休憩室に入ってくる人物が一人。
「パイセンたち、お疲れっす! いや~、シミュレーターの訓練に付き合って頂き感謝っすよ。開発主任が今度お礼をするって言っていました」
今回のシミュレーターを使った訓練は、リックが乗るアーマードネヴァンの開発チームからの要請だった。
騎士が乗る機動騎士の相手となれば、同じ騎士であるエマが適役であるため第三小隊が付き合わされたのだ。
「これの任務ですからね。それにしても、マーティン少尉は元気そうですね」
エマと同じく騎士であるリックは、あまり疲れたように見えない。
むしろ、陽気に振る舞っている分だけ元気が有り余っているように見えた。
「リックでいいっすよ、パイセン」
「そういうことなら、今後はリック少尉と呼びます。それはそうと、もう少し言動に気を付けられませんか?」
エマが当たり前の注意をすると、リックは困ったように頭をかく。
「俺ッチ、そういうの苦手っすね。まぁ、おかげで万年少尉で昇進とは無縁になってしまったっすけど、今の生活も悪くないんで変えるつもりはないっす」
堂々と言動を改めないと言うリックに、エマは小さくため息を吐いた。
「テストパイロットになれる技量があるのに勿体ないですよ」
エマが勿体ないと言うと、ダグが顔を上げて同意する。
先程のシミュレーターでの訓練を思い出したのだろう。
「確かに凄い技量だったな。少尉殿くらいの技量があれば、もっと上に行けるはずですけどね」
ダグが会話に割り込んだため、ラリーも我慢しなくていいと思ったのか口を開く。
「あれだけ長時間もシミュレーターに拘束されたのに、そこまで元気なんだから騎士って凄いですよね。僕たち普通のパイロットはヘトヘトなのに、羨ましい限りですよ。きっと騎士としても超一流なんでしょうね」
シミュレーターでリックの技量を知ったラリーは、相手が騎士として超一流なのだろうと勝手に予想していた。
エマは呆れつつも、一部に賛成する。
「超一流かはともかく、アタランテでも苦戦させられましたからね。リック少尉の技量はとても高いと思います。……でも、騎士ランクはどういうわけか低いんですよ」
「え?」
騎士ランクが低いと聞いて、ラリーが目を丸くしていた。
機動騎士の操縦に長けている騎士のランクが低いなど、思っていなかったのだろう。
リックがのんきに笑っている。
「そりゃあ、そうっすよ。俺ッチの場合は機動騎士の操縦に特化しているだけで、他の成績はどれも落第ギリギリでしたから。う~ん……パイロットとしてなら大尉殿と互角とは言わないまでも、いい勝負が出来ると思うっすけど、普通に戦ったら瞬殺っすね! ……あ、負けるのは俺ッチの方っすよ」
機動騎士の操縦のみに優れた騎士――それが、リックという男だった。
陽気に振る舞うリックを前に、エマは何とも言えない顔をしていた。
新米だった頃の自分を思い出していたからだ。
(そういえば、私は機動騎士の操縦で落第だったなぁ……他の成績は並だったけど)
今のリックを見ていると、かつて足りないところだらけの自分を思い出してしまう。
リック本人は、自分の足りない部分に負い目を感じている様子はなかった。
「いや~、それにしても訓練相手に困らないメレアは最高っすね! パイセンも特機開発の経験者っすから、色々と相談できると思うと最高の環境っすよ」
陽気に笑うリックを見て呆然とする第三小隊の面々。
とりあえず着替えるために移動しようと考えるエマだったが、端末に緊急の通知が届いた。
すぐに確認すると、エマの端末から動画が再生される。
空中に出現したフォログラムに四人の視線が集まった。
「一斉配信?」
エマが呟くと、動画の中の人物が口を開く。
その人物は【クリスティアナ・セラ・ローズブレイア】だった。
『バンフィールド家の全軍に通達します。アルグランド帝国はオクシス連合王国と大規模な戦争状態に突入します』
ストレートロングの輝くような金髪に、宝石のような緑色の瞳。
美しい女性が物憂げな表情で伝えてきたのは、大規模な戦争の始まりだった。
ダグが腰を上げて呟く。
「対外戦かよ」
星間国家同士の大規模な戦争は、何百万という艦艇が動く規模だ。
下手をすれば何十年、何百年と続くこともある。
その影響は帝国中に広がることも珍しくなかった。
だが、話はここで終わらない。
『当家はこの戦争に参加する事になりました。これより、バンフィールド家の全軍を中央が再編します。速やかに中央の指示に従い行動しなさい。……以上です』
動画が終わると、誰も口を開かぬまま数十秒の時間が過ぎた。
最初に口を開いたのはエマだった。
「いきなり戦争が始まっちゃったよ」
小説家になろう様にて、新作の「フェアリー・バレット」を公開中です。
公開しているのはプロトタイプ版ですので書籍版とは違いますが、どんな話なのか理解していただくために連載中です。
是非とも新作の方も応援よろしくお願いいたします。




