期待の若手
発売日まであと【3日】!!
【俺は星間国家の悪徳領主! 7巻】は【5月25日】発売です!!
宇宙海賊の襲撃を退けた後。
戦艦内に用意された応接室では、モニターに都市部の夜景が映し出されていた。
艦内時間は夜。
部屋の灯も暗くされている。
応接室には二人の女性がいる。
一人は赤い髪に褐色肌の女性――パトリスだ。
グラマラスな肉体を包むのは、胸元の開いたスーツである。
色気を漂わせる若い女性なのだが、これでもニューランズ商会の幹部である。
そんなパトリスが、モニターの前に立って都市部の夜景を眺めている女性騎士に話しかける。
「統一政府の支配する宙域で、いきなり襲撃されるとは思いませんでしたよ。超大型輸送船の三隻は、私にとっても虎の子です。必ず守りきって下さいね」
パトリスが保有する輸送船の中でも、超大型は三隻だけだ。
ただ大きいだけではなく、空間魔法を使用している船だ。
実際に積み込まれた物資の量は、見た目の何倍もある。
一隻失うだけでも、今のパトリスには大きな損害となる。
二隻も失えば、致命的な損害となるだろう。
不安から表情の優れないパトリスに振り返るのは、紫色の髪と瞳を持つ人物だ。
サラサラとした髪が振り返る際に広がり、引き締まった肉体には程よく肉がついている。
一見すれば脆くも見える姿だが、そもそも騎士だ。
骨や筋肉の密度が常人とは異なっている。
細い体からは想像も出来ない膂力の持ち主である。
あのクリスティアナと並ぶ実力者――バンフィールド家を支えている騎士。
騎士としては超一流を超え、人外の領域に足を踏み入れた女――【マリー・マリアン】だ。
振り返ってパトリスを見る瞳が、暗い部屋で光っているように見えた。
「ちゃんと退けたでしょう? 心配しなくても、このマリー・マリアンが大事な輸送船を守り切って見せますわよ」
胸に手を当てて微笑むマリーに、パトリスは物憂げな表情をする。
「期待はしていますが、統一政府は帝国と事情が異なっています。宇宙海賊たちの質も異なりますからね。――実際に、護衛艦隊は苦戦していたように見受けられましたし」
違う星間国家。
帝国とは事情が異なっているのだが、それは宇宙海賊たちにしても同じだ。
統一政府の支配下で活動する以上、帝国の宇宙海賊たちと同じやり方では通用しない部分も出てくる。
その違いが、宇宙海賊たちの性質に影響を与える。
星間国家など無視して活動する宇宙海賊たちも大勢存在するが、多くは縄張りを持っている。
パトリスの考え通り、統一政府を相手に戦ってきた宇宙海賊たちに護衛艦隊は手間取っていた。
しかし、その意見を聞いてマリーが笑みを浮かべる。
先程の微笑みは消え去り、まるで獰猛な猛獣が笑っているような印象を受ける顔をしていた。
「多少の違いはあろうとも、奴らの本質は同じよ。狩るのに何の問題もないわ。それに、先程の戦いで部下たちもこちらでの戦いに慣れたでしょうしね」
クリスティアナと並ぶ実力者――そう言われているが、パトリスから見れば二人の本質は異なっている。
理想の騎士を思わせるクリスティアナに対して、マリーという騎士は荒々しい戦士という印象が強い。
どれだけ言葉を取り繕っていても、滲み出る暴力性は隠しきれていなかった。
パトリスは冷や汗をかくが、同時に頼もしさを感じて笑みを浮かべる。
「私の期待を裏切らないで下さいね」
◇
パトリスとの打ち合わせが終わったマリーは、部屋を出て通路を歩いていた。
艦内時間が夜になっているため、通路も薄暗い。
マリーの斜め後ろには、一人の男性騎士の姿がある。
ボサボサの髪に無精髭を生やした男の名は【ヘイディ】。
マリーの副官だった。
「クライアントの接待はどうだ、マリー」
副官ではあるが、上官のマリーに対しては呼び捨てだ。
規律も礼儀もないが、マリーはそれを責めない。
「あの方のご命令でなければ、適当な奴に押しつけていたところよ。ヘイディ、今度からあなたが相手をしてやりなさい」
パトリスの相手をしろ、そう言われたヘイディが頭をかく。
「冗談は止してくれ。俺はお前と違って、お上品に振る舞えない」
「抜かせ」
口調を変え、微笑を浮かべるマリーだったが、次第に表情は消えて目つきが鋭くなっていく。
「――それで、護衛艦隊の様子はどうなのかしら?」
曖昧な問いかけだが、ヘイディは小さくため息を吐いてから答える。
口も態度も悪いヘイディだったが、仕事には手を抜かない。
そんな男だから、マリーはヘイディの無礼を許している。
ただ態度の悪い男ならば、副官などには選んでいない。
「質も練度も問題なし。ついでに一部を除いて士気も高く、流石はバンフィールド家の艦隊だと胸を張って言える。――だが、経験不足だな」
最初こそ冗談を言うように声高らかだったが、最後になると真剣な表情になっていたヘイディの様子からマリーも察したらしい。
「下手な戦いを見せたおかげで、あの女が騒いで仕方がないわ」
守り切ると約束はしたが、率いている艦隊に問題がある。
経験の有無だ。
ヘイディが肩をすくめる。
「どいつもこいつも、たった数回の実戦経験を誇るヒヨコ共だ。せめて三桁――いや、十回でも戦場から生き残っている連中なら、こんな心配をせずに済んだんだけどな」
戦場を経験した数が、たったの数回では話にならない。
マリーとヘイディにとって、その程度の実戦経験は頼りなかった。
そして、ヘイディが特に問題のある部隊を挙げる。
「というか、一番の問題児はマリーが名指しで引き抜いた連中だよ。あいつら、後ろで震えていたぜ」
戦場で後方に下がって戦いをやり過ごしていたと聞き、マリーの表情が一変する。
目を見開いていた。
「何だと?」
マリーを激怒させてしまったヘイディだったが、態度は変わらなかった。
むしろ、マリーを更に怒らせる話をする。
「あのお方の肝いりで開発した機体も活躍しなかったな。撃墜数はまさかのゼロだぜ。ゼロ! まぁ、軽空母が後方に下がっていたし、出撃が遅れたのも影響していそうだけどな」
そして、ヘイディはラッセル小隊についても話をする。
「お前がメレアに押しつけたエリート様たちも、足を引っ張られたみたいだ。期待していた活躍はしていないな。――さて、どうするよ、マリー?」
違和感のあるお嬢様言葉を使うマリーだったが、ここに来て素が出る。
取り繕う雰囲気を全く見せない。
頭に血が上っている証拠である。
「――この艦に呼び出せ。あたくし自ら鍛え直してやるよ」
先を歩くマリーを見て、肩をすくめるヘイディが言う。
「期待の新人たちを壊さないでくれよ」
注意されたマリーだが、返答は冷たい。
「壊れる程度なら期待する価値もない」
◇
(ひえぇぇぇ!! とんでもない事になっちゃったよぉぉぉ!!)
叫びたい気持ちを我慢するエマは、護衛艦隊の旗艦に呼び出されていた。
集められたのは第三小隊の面々――なのだが、この場にいるのはエマだけだ。
そして、ラッセル小隊の三名。
四人が目の前にしているのは、椅子の背もたれを抱きかかえるように座るマリーだった。
逆向きに座って、不満そうな顔をエマたちに向けている。
「言い訳できる程度に戦場に留まり、その後は消極的に参加――何か言いたいことはあるかしら?」
宇宙海賊との戦闘の際、消極的だったことを咎められる。
当たり前の話ではあるのだが、問題なのは問い詰めている人物だ。
マリー・マリアン――バンフィールド家の私設軍での階級は中将。
帝国正規軍でも准将の階級を保有している。
そして、騎士ランクは「AAA」。
エマの教官を務めたクローディアの更に上だ。
そして、バンフィールド家を代表する騎士の一人でもある。
不満顔をしているだけだが、その実績と迫力からエマは威圧されているように感じた。
ラッセルたちも同様だ。
あのシャルでさえ、不遜な態度はなりを潜めている。
エマが答えられずにいると、ラッセルが一歩前に出た。
「母艦が消極的な動きを見せましたが、我が小隊は奮戦したと自負しております!」
その意見に、マリーは小さくため息を吐く。
「そうね。あの状況でならまずまずの戦いぶりだったわよ。これが普通の騎士なら、拍手をして喜んでいたでしょうし、もっと活躍できる場所に推薦もしていたわ。――けど、お前らは普通の騎士じゃねーだろ?」
マリーが全員を睨み付けると、それだけで空気が重く感じられた。
「っ!?」
ラッセルも冷や汗を流しており、何も言い返せずにいる。
マリーは席を立つと、エマたちに近づいてくる。
「他の騎士たちよりも優遇されているお前らが、普通の戦果を挙げて頑張りました、なんて言い訳が通用すると本気で思っているのかしらね? ――そんなふざけた考えを持っているなら、この場でぶち殺しますわよ」
違和感のあるお嬢様言葉を使うマリーだったが、笑う者は誰一人としていなかった。
笑ったら殺される――そんな直感があった。
マリーが黙っているエマに視線を向ける。
「アタランテのパイロット」
「は、はい!?」
背筋を伸すエマに、マリーは顔を近付ける。
「どうして戦闘に参加しなかったのかしら?」
紫色の瞳に見つめられたエマは、視線がそらせなかった。逸らしたら駄目だ、という直感があった。
「め、命令が支援でしたから」
「あら、それでは仕方がありませんわね――とでも言うと思ったか!」
笑顔で仕方がないと言ったかと思えば、直後に般若のような顔をしてエマを否定する。
エマが髪の毛が逆立つくらい驚いていると、マリーが真剣な表情で問い掛けてくる。
「騎士とは何かしら?」
「え?」
「いいから答えなさい。騎士という存在は何?」
「え、えっと――騎士は幼い頃から強化を受けた存在で――」
「あたくしが求めている答えじゃないわね」
理不尽な物言いに困ったエマは、目を閉じて考える。
だが、うまい答えが思い付かないので、いっそ本音をぶつけることにした。
(もうどうにでもなっちゃえ!)
「正義の味方です! 騎士は――弱い人たちを守る存在ですから!」
その返しを聞いていたラッセルが、唖然としている。
「君はここまで馬鹿だったのか」
だが、マリーの方は違う。
両手を腰に当てて、愉快そうに笑っていた。
「いい。いいぞ、アタランテのパイロット! 誰にも譲らないわがままこそが、騎士の本質だ」
「――へ?」
正義の味方を名乗っても怒られるどころか、逆に面白がられてしまった。
エマの方が困惑していると、マリーが似非お嬢様口調で語る。
「統一軍では騎士のような存在を強化兵士と呼んでいるわ。奴らとあたくしたち騎士と違って、一兵士という扱いを受けているそうよ」
帝国では騎士と呼ばれているが、統一政府では「強化兵士」として扱われる。
騎士のような特権や待遇を与えられていなかった。
帝国よりも効率的に騎士――強化兵士を運用していると言えるだろう。
マリーは四人を前にして表情を改めた。
「強化兵士のように道具でありたいなら、命令にだけ従っていなさい。ただ、騎士でいたいのなら――我を通せるだけの力を持つのね」
四人がその言葉をどう受け止めるか考えていると、マリーが満面の笑みを浮かべる。
「そういうわけで、全員これからあたくしのトレーニングに付き合いなさいな」
ブライアン(´;ω;`)「感想欄でこのブライアンを惜しむ声が嬉しいです。そういうわけで、一時的に復活いたしました」
ブライアン(`・ω・´)「リアム様が活躍される【俺は星間国家の悪徳領主!】の第7巻の発売日が近付いて参りました。何卒応援をよろしくお願いいたしますぞ!」




