35.ほんの少しの嫉妬なら
「お姉様っ!」
「パメラ様」
夜会でパメラ様に会うのは初めてね。相変わらず可愛らしいわ。あら?お隣の方は確か、
「こちらは私の婚約者でエリオット・クロフ伯爵です」
「ご無沙汰しております、ハミルトン伯爵令嬢」
「こちらこそ、クロフ伯爵」
あの時クアーク伯爵に紹介していただいた方が、まさかのパメラ様の婚約者!?
「あら、二人はお知り合いでしたの?」
「以前、パーティーでパメラ様のお父上にご紹介いただきましたの。今は私達の事業に出資して下さっているのです。伯爵、どうぞ私の事はシェリーとお呼び下さい」
驚いたわ。クロフ伯爵は30歳以上よね?
「実は妻に浮気をされて一度離婚しているのですよ」
しまった。そんなにもジロジロと見てしまったかしら。
「そうだったのですね」
「ふふっ、見る目の無い方のおかげで、こうして私とエリオット様の縁が結ばれましたの」
「いや、こんなおじさんには勿体無いと思うのだけどね。明るくて前向きな彼女のおかげで、もう一度結婚を考えることが出来たんです」
お優しい伯爵と元気で明るいパメラさんはお似合いかもしれないわね。
「良い出会いだったようで安心致しました。ご婚約おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「お姉様も婚約おめでとう!あと、事業の方も。お姉様はやっぱりすごいです。本当に尊敬してしまうわ」
くっ、可愛い!この素直さはパメラ様の武器よね。ビスクドールの様な容姿にこの愛嬌。最高だわ。
「おや、パメラ嬢はシェリー嬢にメロメロなのですね?」
「はい、憧れています。いつか私もお姉様みたいに素敵な女性になりたいと思っていますの」
「パメラ嬢は今でも十分素敵で可愛らしいのに」
おおっ、さすがは大人ね。さらりと褒めている。対するパメラ様は男性との会話に慣れていないのかしら?真っ赤になって本当に可愛らしいわ。
「お二人のご結婚はいつ頃のご予定ですか?」
「私が卒業してからの予定です。お姉様達より少し早いかも」
暫く三人で話していると、ようやくブライアンが戻って来ました。
今日の夜会でもパートナーとして参加したのだけど、男友達に連れて行かれてしまっていたのだ。
「おかえりなさい」
「ごめん、やっと解放されたよ。クロフ伯爵お久しぶりです。クアーク伯爵令嬢もご一緒ですか?」
「お二人は婚約されたのですって」
それからはまたお互いにお祝いを言い合い、そこからは事業の話に変わっていく。
「あの、お姉様に相談したいことがあるのですが」
「この場で聞いてもいいのかしら?」
「はい、事業のことなので」
まあ、意外だわ。パメラ様が事業の相談?
「ではどうぞ。お話になって?」
「あの、お姉様の学校に孤児院の子達が通うのは難しいでしょうか?」
「孤児院?」
「はい。孤児院の子達はどうしても就職が難しいのです。親がいない、手癖が悪い。そうやって差別されて碌な所で働けず、食うに困って結局は犯罪に手を染め、それがまた他の子達の未来を奪う。そんな悪循環です。
でも、お姉様の学校出身だという卒業認定があれば就職先も見つかるのではないかと思って」
「……なるほど」
確かに考えてみる価値があるわ。そうやって仕事に就けるようになれば犯罪率も下がるかもしれない。国への交渉も出来るかも。
「もしそうなったら、私の商会での雇用を受け入れますよ」
「エリオット様!?」
「簡単にいく話では無いと思いますが、私は賛成です。商会としても、そういった支援に参加しているという良いイメージが作れます。
テストケースとして使っていただけると嬉しいですね」
ブライアンを見ると頷いてくれた。
「分かりました。この件は一度持ち帰って精査させて下さいませ。
でも驚いたわ。パメラ様からこんな案が出るなんて」
これは正直な感想だ。
「孤児院のお手伝いをしていて、彼等にもっと幸せになって欲しいって思ったんです。せっかく字や刺繍を覚えても、それを使って働く事が出来ないのでは意味がないでしょう?」
そういえば、孤児院で文字の読み書きを教えていると言っていたわね。でもその先で行き詰まっていたのか。
「教えてくれてありがとう。しっかり考えるわね」
「はい!よろしくお願いします!」
私ったら駄目ね。どこかでパメラ様を子供だと思っていたみたい。
「パメラ様、自信を持って下さい。貴方はすでに素敵な大人の女性ですわ」
「……お姉様にそう言っていただけると本当に嬉しいです」
頬を染めて俯く姿は本当に可愛らしい。キュンキュンしてしまうわ。
「シェリー嬢、これ以上パメラの心を奪わないで下さい。強力なライバルの出現に私は嫉妬してしまいそうです」
「え、いやだわエリオット様ったら。すぐに冗談を言うのだから。……恥ずかしいです」
……いえ、今のは結構本気だわ。だって目が笑ってないもの。さり気なく呼び捨てしているし。パメラ様の可愛さがヤバイ。おじ様をメロメロにしている!
「パメラ様が大切にされていて嬉しく思います。どうぞお幸せに」
これ以上何を言えるだろう。結婚式が早まらないといいな~、なんて。おじ様の執着は如何なものか。
「もちろん大切にしますよ。ゆっくりと親しくなれたらと思っています」
ニッコリと微笑まれる。うん。ちゃんと卒業までは待ってくれそう。よかった。本当によかったわ。
「もう!エリオット様のお巫山戯はお終いですわよ。お姉様、また連絡しますね!」
彼の本気に気付いていないパメラ様が赤くなりながらもグイグイと引っ張って行く。あらまあ、伯爵ったら嬉しそうだこと。
「……パメラ嬢は凄いな。あれはかなりのご執心だぞ」
「ね。本人は全く気が付いていないけど」
でも、たぶん大丈夫。だってお互いに大切にしようとなさっているもの。
「でも孤児院は盲点だったわ」
「そうだな。なかなかいい提案だ」
「ええ。貴族家への就職は難しいと思うけど……商会もありがたいけれど、作業員とかもいいかも。河川工事や道路工事。そういった作業員なら孤児院出身でも受け入れられるのではないかしら。国との契約にして、長期滞在の宿泊施設と食事付にするの」
「建設関係の専門知識か」
「ええ。人数も必要だし、作業する側としても住む場所と食事が保証されていれば多少距離のある工事場所でも喜んで行ってくれるわよね?使う側もただの素人より、知識と経験のある孤児の方が嬉しいんじゃない?
女性は作業員の食事や洗濯など。勤務管理とかもいいわよね。そんなサポート事業があっても喜ばれるのではないかしら」
「今日は早めに戻るかい?」
「そうね、色々考えをまとめたいかも」
「了解。私もパメラ嬢に君の関心を奪われない様に努力しよう」
「もう、馬鹿ね」
でも、そんな可愛い嫉妬なら嬉しく思ってしまうわ。




