28.友の激励(ベンジャミン)
「あら、二日酔い?」
「パメラ?何でここに」
「失礼ね。貴方の試験合格を祝いに来たのよ?」
意外というか……あの事件の後は何となく気不味くて、そしてそれはお互い様だったのだろう。俺達二人は生徒会を抜けたこともあり、まったくの疎遠になっていたのだ。
「……これでも申し訳ないと思っているのよ」
「別にお前のせいじゃない」
「まあそうね。ほぼ貴方のせいだけど」
「……もう行ってもいいか」
「でもごめんなさい。貴方の大切な人を馬鹿にしたわ。貴方の暴言を更に上乗せしてしまった。
……こんなことになると思わなかったの。本当にごめんなさい……」
まさかパメラが俺に頭を下げるとは。
「……これは自業自得だから気にしなくていい。パメラは大丈夫なのか?」
そういえば、今までこいつの事なんか全く気にしていなかった。視野が狭いって本当だな。
「本当に清々しいほど私の事を無視していたのね。まあいいけど。
あの後お姉様……シェリー様が許してくださって、今では友人としてお付き合い下さってるの」
「はあ?」
何だそれ。どうしてコイツだけ!?
「言わんとしてる事は分かるけど、それは婚約者と初対面の小娘との違いでしょう?」
分かるけど悔しい。何もせずに許されるなんて。
「……でも、縁談は年上の方になるかも。私も自業自得だから仕方がないけどね」
「貴族って面倒だよな……」
「馬鹿ね。それに守られているくせに」
まさかパメラにそう言われるとは思わなかった。
「そういえば今日は地味だな」
「言い方!今から孤児院に行くのよ」
「……お前が?」
「失礼ね。私だって変わる努力をしているんです!」
パメラも仲間か。
「……でもさ、努力すればする程、どれだけ自分が駄目な奴か見えて来て……キツくないか?」
つい、弱音を吐いてしまう。
だってこんなにも駄目な自分は知りたくなかった。
「そう?私は前の自分よりも今の自分の方が好きよ。今はね、孤児院で文字やお裁縫を教えてあげているの。たったそれだけのことなのに、ありがとうって言ってもらえるのが凄く嬉しい。だからお姉様の事業にもいつか参加させてもらえないかなって思ったり。
素敵な人との結婚ばかり気にしてた頃より毎日が楽しいわ」
でも、令嬢にとって結婚はとても大切なはずなのに。
「1年だけ時間をもらったの。どうせ悪い噂も立ってしまったし。慈善活動ならって許されてるけど、たぶん、これが終わったら何処かに嫁がされるわ。
ま、うちはお金はあるからそれ目当ての結婚とかは無いと思うし、そこそこのお相手だといいなと思ってる」
「そうか」
そこそこの相手。そうやって諦めたら、俺も楽になれるのか?
「ね、今失礼なことを考えてない?」
「えっ」
「私は人生諦めてないですからね?そこそこっていうのは、それなりに真面目で尊敬出来る人がいいなってこと!」
「……それでいいのか?」
「どうして?とても大事なことじゃない。私ね、貴方の綺麗な顔が好きだったわ。でも今はもっと綺麗なものを知ってしまったの」
「……何?」
「子供達の笑顔!」
コイツが?俺の外見ばかり褒めていたコイツが!?
「貴方のその小馬鹿にしたような笑顔より、ありがとうって笑ってくれるあの子達の方がよっぽど素敵。
だからね。尊敬出来る方なら、多少お顔が丸かったり目が小さくても、大切に出来るんじゃないかなって。
だって私だって今はこんなにも可愛いけれど、あと何年かしたら皺とか出来るじゃない?見た目だけで選んだ人には見た目で捨てられそうで怖い。
どうして自分ばかり選ぶ側だと思っていたのかしら?」
いや、別に俺は見た目で捨てたりは。
「そういえば、貴方ってお姉様のお顔と体以外にもちゃんと好きなところはあるの?」
「失礼だな!?」
「ふ~ん?しわくちゃになってもお胸が垂れちゃっても平気?子供が出来たら閨ごとも暫くできないけど大丈夫なんだ?もし、その後に体型が戻らなくても愛せる?」
え、え、え?
「……そんなの、当然だろ?」
それにシェリーがそんなに醜くなるはずないし。
「なんだか貴方って、あんなに綺麗でスタイルの良い高嶺の花が自分の婚約者だったのに!って必死に執着してるみたい」
そんな筈はないのに。何故だろう、パメラの言葉が突き刺さる。
「でも今後はどうするの?」
「どうって?」
「このまま本当に騎士になるの?騎士ってお給料はどれくらいなの?侯爵家は本当に継げないの?そしたら身分はどうなるの?」
……どうして。どうして皆待ってくれないんだ。
「……うるさい」
「それでどうやってシェリー様を幸せにするの?待っててって言うの?でも貴方を待つ理由は?」
「うるさいなっ!放っておけよっ!!」
「現実を見なさいよ。手放したものはもう戻らないよ。だって家の力で手にしたものだもの。貴方を好きで結ばれた縁じゃないんだよ」
「黙れ黙れ黙れっ!!」
お願いだから待ってよ。そんなにアレもコレもと言わないでくれ。俺はもうこれ以上無理なのに!!
「男の人って上を目指すのが好きよね」
「……女だってそうだろ」
「いいえ?女はもっと現実的よ。だって女は子供を産んで育てるのが一番の役目だもの。しっかりと腰を据える場所を必死で探すの。上ばかり見ていられないわ。
貴方も!上ばっかり見てないで、目の前のことからやりなさいよ。
自分の将来すらも見えないくせに、シェリーさんを手に入れたい?馬鹿じゃないの?あの人は貴方の玩具じゃないってば」
「……祝いに来たんじゃないのかよ」
「祝ってるわよ。現実という名の洗礼よね」
こんなのが祝いなはず無いだろう……
もう皆煩くて嫌になる。
「ね、今度孤児院に一緒に行かない?」
「……なんで」
「孤児院にもね、騎士を目指している子がいるのよ。未来の仲間の激励!と、守るべき子達の顔くらい見てあげてよ」
これは周りを見ろに含まれるのか?
でも、確かに守る相手を見たこともないって駄目なのかな。守るのが子供とは限らないけど。
「いつ?」
「土曜日でもいい?」
「班長に聞いてみるよ」
「フフッ、ブスくれてるのは変わらないけど。ちょっと変わったわね!」
「お前もな。……誘ってくれてありがとう」
それから、班長に孤児院の訪問を伝えたら喜ばれた。
騎士の給料を聞いたら頭を殴られた。今頃か!と。
本当だな。視野が狭くて夢見がちで。現実から目を逸らして頑張ってる自分に酔ってたみたいだ。
土曜はそのまま実家に帰ろう。父上達のことも聞きたいし、これからのことも話し合いたい。




