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婚約者様は大変お素敵でございます  作者: ましろ


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13.厳しい処罰

ブライアン達と話をした翌日、カーティス様が来て下さいました。私からの要望通りにお一人で。

つい、ブライアンに今回の事件の経過を聞かれ、カーティス様と話をする事を伝えると、彼もその場に立ち会うと言い出して、それをお断りするのがとても大変だった。

久しぶりの再会だったのに、彼はいつから私の保護者になってしまったのか。仕事のお誘いのせいなのかしら。


「シェリー、ベンジャミンが本当に申し訳ない。謝って済むとは思っていない。だが、謝罪はさせて欲しい。本当に申し訳なかった」


そう言って深々と頭を下げられる。

……貴方をこんなふうに謝らせたくはなかったのに。


「カーティス様。この2年半もの間、いつも私を本当の娘の様に可愛がって下さりありがとうございました。

せっかく大切にして下さったのに、この様な事になってしまい、本当に申し訳ございません」


こんなにも素敵な方が私の義父になるなんて、と、気恥ずかしくなった頃が懐かしい。

丁寧に仕事を教えて下さり、ベンジャミンと中々上手くいかない私をいつも気遣ってくれていたのに。


「君が謝らないでくれ。私が息子を甘やかしたのがいけなかったんだ。

妻に先立たれて、それでも彼女以外と結婚したくないと思っていたが……侯爵家の妻になりたいという欲を持った女性達がベンジャミンを利用しようとした。

すっかり女性不信になって、私を憎む様になったあの子をどうにか救いたくて……」


そんなことが……。どうしてあそこまで父親をライバル視するのか、どうして私を信用してくれないのか。

その理由がやっと理解出来た。……だからといって、許せる訳ではないけれど。


「君ならば、ベンジャミンを救えるのではと甘えてしまったのが全ての間違いだった。

サイラス殿の大切な令嬢をあんな……」


お父様を本当に信頼してくれていたのですね。だから娘である私の事を頼って下さったのに。もっと私が……いえ。誰が相手でも駄目だったのかもしれないわね。


「カーティス。私達も残念だよ。だが、さすがに君達を許す訳にはいかない。すまんな」

「当然だ。許されるなんて思ってはいないよ。婚約破棄を受け入れ、もちろん慰謝料は払う。

それから───

ベンジャミンは後継者から外そうと思う」

「!!」


そんな……そこまでするなんて望んでいないわ!


「待ってください!それはいくら何でも、」

「シェリー。最後までカーティスの話を聞こう」

「……はい」


ああ、どうしよう。私達のせいで侯爵家が滅茶苦茶になってしまう。


「あんな事を仕出かしたベンジャミンを庇ってくれてありがとう。だが、ここで甘やかし、謝罪と慰謝料の支払いだけで済ませてしまったらあの子は変われないだろう。いつまでも子供で愚か者のままだ。

君もこの2年半でたくさん苦しめられて来ただろう?あの、自分の感情を抑えきれない、憐れで子供っぽい姿に」


それは嫌というほど味わってきた。ほんの些細なことで態度が豹変し、私を口撃してくる彼を。だからいつも気を張っていた。彼が機嫌を悪くしない様に。


「まだ子供だからと自分に言い聞かせてきたが、あと3ヶ月で16歳。ほぼ成人なんだよ。

だが、あれでは次期当主だと紹介することは出来ない。公の場でも我慢が出来ないと分かってしまったしね」

「だが、彼の他に兄弟はいないだろう。養子を取るのかい?」

「……いえ。妻を娶ろうと思っています」

「それは……だが、いいのか?」

「はい。もともとは私が独り身だから起きた問題でもありますから。ただ、結婚したからといって必ず授かれるわけではありませんので、子が出来なかった時は養子を迎えることになるでしょう」


私達のせいでカーティス様にそこまでの決断をさせてしまった。奥様をずっと思ってこられたのに……


「息子は心身共に鍛える為に騎士団に入れます。幸い学園に通いながらでも稽古をつけてくれるそうなので、騎士団の寮に入れ、一年の見習い期間で学園は終わらせる。その分しか学費は払わないので、一年で卒業出来なければ退学ですね。

シェリーがやってくれた様に飛び級するしかない。騎士団の稽古も合わせるとかなり難しいでしょう。

本当は学園をすぐに退学させ、騎士団に預けるつもりでした。ですが、学園に通い、自分がどれ程の過ちを犯してしまったのか、現実を知るべきだと思ったのです」


それは本当にかなり厳しい罰です。今まで授業でしか剣を握った事が無いだろうに騎士団だなんて。更に慣れない寮生活と飛び級の為の勉強も。そして、学園では婚約者を(ないがし)ろにした男として軽蔑の目に晒されることだろう。


「……ベニーは本当に跡継ぎにはなれないのですか?」


カーティス様に反発していても、いずれは爵位を継ぐつもりだったはず。それなのに嫡男としての権利も全て根こそぎ奪い去るのか。


「あの子はプライドが肥大した子供だ。今、それを叩き折らないと、権力を持った暴君になりかねない。

そんな子を跡継ぎには出来ないし、してはいけないとようやく決心がついたんだ。

でもいつか、困難を乗り越えて本当に心を入れ替え、立派な大人に成長する事が出来れば……まあ、そんな夢だけは持つことを許してほしい」


そう言ってため息を吐く姿は疲れきっていて。


……どうしよう、本当にこれでいいの?

私は婚約解消して終わりだと思っていたのに。こんなにもカーティス様やベニーの未来を変えてしまって本当によかったの?でも、カーティス様の懸念はもっともで。


何と言ったらいいのか分からず、動揺していると何やら外が騒がしくなった。


「どうした」


お父様も険しい顔をしている。侍従が説明に来てくれたようだ。


「申し訳ございません。その、イングラム侯爵令息がお嬢様に会いたいと押し掛けていらっしゃいまして」


……ベニーッ、どうしてまた問題を!?


「困ったものね」

「すまない!今すぐに連れて帰りますっ」

「いえ。……彼と話をさせて下さい」


ここまで来たら逃げている場合では無いわ。私も腹を括らなきゃ。


「私達も同席するし、彼が少しでも危険だと感じたら捕縛する。それでいいね?」

「……はい」




お願いよ、ベニー。貴方を信じさせて。


あと一度だけ、貴方を信じたい……








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