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「くそ!こんな所で捕まってたまるか!」
キンキン声の男は、どうやら地下室から連れ出されていたらしい。
地下室につながる通路から、ニコラは自分の追跡魔法の魔力を感じた。
ニコラは走り出す。
「あ!だめだよニコラちゃん!そこ危ないよ!」
今度は丁寧に丁寧に、丁寧に、エベリンお嬢様を緊縛中の、フォレストが、縄をないながら、大きな声でニコラを止めるが、ニコラは聴いちゃいない。というかそもそもちょっと、令嬢を緊縛中のフォレストは、どうもあまり視界に入れたくない気がする。なぜかはよくわからないが、このフォレストの緊縛の話をすると、ジャンの隊の、実に遠慮のない連中もなんだか口ごもるので、あまり触れない事にしている。
それはさておき、ニコラのいう「犬」と、他の連中のいう「犬」にどうも齟齬がある様子だ。
ニコラが用があるのは、肉ドロボーの方の、犬。ほかの「犬」に関しては、知らん。
転がるように地下室まで走りゆくと、追跡魔法が、木の扉の向こうで止まっているのが感じる。
木の扉は、魔法が施されていて、鍵の付いている獣などが出ていけない檻の作りになっているが、普通の人間や動物にとっては、だたの木の扉だ。
「ここだわ!」
明らかに怪しい。
魔力こそそこそこ高いが、一応は人間の括りであるニコラは、だん!と勢いよく木の扉を開ける。
「・・え?なにここ??」
扉の向こうに、ニコラの言うところの、憎き肉ドロボーの「犬」は、確かにそこにいた。
だが。「犬」だけではなかった。
大型魔獣、小型の寄生獣、擬態魔獣。愛玩魔獣。
ありとあらゆる魔法のかかった鍵の首輪をつけた魔獣が、所狭しと並んでいた!
ニコラは肉ドロボーの首輪を、もう一度見てみる。
(なるほど・・)
肉ドロボーの首輪には、魔法の鍵はかかっててはいない。この犬は、魔獣ではなく普通の犬なのだが、別々に面倒を見るのが面倒だったのだろう、一緒にこの獣用の小屋に入れられていた様子。
よく見たらこの犬、公爵家の犬なのに毛並みが随分悪い。あまり誰も構っていないのだろう。
「お前、こんな所にこの魔獣と一緒に暮らしてたの。そりゃお腹も空くわね」
対魔法の魔法陣がかかっているので、魔獣達はこの屋敷から出る事はできないし、鍵魔法のかかった首輪がそれぞれの首に付いているので、魔獣達はこの地下室から出る事も無理だ。
(餌が足りてなかった、そう言うことか・・)
ニコラは、足元に絡みついてくる、可愛いうさぎの魔獣に目をやる。
あまりよく知られていないが、魔獣は種類や成長の時期によって、非常に食事の量が異なる。
この可愛いウサギは、普段はとても可愛いだけの無害な魔獣だが、赤ん坊時代は、凄まじい量の食事が必要となるのだ。
そうかと思い、部屋の隅を探してみると、やはり、いた。
小さなウサギ魔獣の子供が、合計12羽。
この小屋で生まれたのだろう。誰にも見つからない様に、他の大型魔獣の尻尾の後ろに、大切そうに隠されていた。
おそらくこの犬、一緒にこの小屋の中にいる魔獣の赤ん坊に、自分の分の餌をやって、自分の分は、ニコラやらなんやらから、ドロボーして確保していたのだろう。
ウサギの魔獣は、赤ん坊から、子供の大きさになる過程にいる様子。もうこの大きさになったら、もうちょっとで普通の食事の量で大丈夫になる。
そういえば、この犬が、魔獣の定食屋のあたりでドロボーを始めたのは、3週間ほど前だと聞いたていた気がする。
生まれたウサギ魔獣の赤ん坊が、この大きさになるくらいの時間だ。
「お前、やさしい犬だったのね」
ニコラはちょっと、弁償代をまけてやろうと思ってしまう。




