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ジャンが、ささやかなニコラの家中を探しても、ニコラの存在の痕跡はなかった。
裏口の扉の灯りがつけっぱなしになっていたのは、夜明け前に、ニコラが裏口から出ていったからだろう。
(明け方前に、村に、ポーションを届けて、それから、まだ帰っていない、という事か・・)
ジャンは、小さなニコラの家を、隈なく探し回った。
小さな家だ。
寝室、浴室、食糧庫、それから、暖炉裏の隠し部屋、妙な魔術書ばかりの満月の魔女の部屋。
どこにもいない。
争ったような跡も、魔力の痕跡も見られない。
(・・やはり・・帰り道に攫われたと考えるのが自然か・・)
ジャンは、念のため、離れの食糧庫にも走る。
小さな瓶に詰められた、まだ熟れきっていないベリー。りんごが3つ。干した豆。
他にも、ちまちまとした、食材が、ニコラのささやかな生活が忍ばれる。
少女一人の暮らしなど、どれだけささやかなものなのか。
(これだけの量の食料など、隊員の昼飯にも足らないくらいだ・・)
あの日、マフィンを二つ食べた事を、心から反省していたニコラの思考を思い出した。
胸が締め付けられる思いで、食糧庫に立ち尽くすジャンの耳に、部下からの通信魔法が入った。
「隊長!分かりました、やはり双頭の蛇です!」
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この領の、実に優美は姿の城は、観光名所でもある、名物だ。
白鳥にも似たその姿から、白鳥城とも呼ばれるその美しい姿に似つかわず、その地下室は、迷路のように複雑な構造になっている上、魔法で何重にも層が出来上がっていて、城主ですら、全容はわからないような、迷宮だ。
そんな地下室の一室に、犯罪者が一時拘束される牢がある。
王都で取り調べられる、重要犯罪人の一時拘束場だ。
「今ごろ仲間があの娘を捕らえて、死体に変わってるだろうよ!双頭の蛇の恨みを思い知れ!!」
地下室の牢の一室で、口の端から泡を飛ばして、前後不覚の酩酊状態で、男は尋問されていた。
昨日、憲兵が捕らえた、あの男である。
ジャンの隊の隊員によって、自白ポーションをしこたま飲まされて、何から何まで洗いざらいにしゃべらされているのだ。
「ニコールの行方は10年も探っていたんだ、あの娘を惨殺して王都の広場に死体を晒さないと、双頭の蛇のメンツに関わる。何十年経とうが、団長の家族は一人残らず皆殺しだ、皆殺しだ!!この10年、薬のルートの壊滅で、どれだけの売り上げが双頭の蛇から失われたと思ってる!」
ニコラの父親である騎士団長の、栄誉ある功績が、隊長とその家族の命を奪い、ニコラの安全をこうも脅かしているのだ。
あの10年前に、団長が組織を壊滅させなければ、王都には、薬の中毒で苦しみ、この男のごとく、人である事を放棄した人間が、どれだけ増えていた事だろう。この男は、魔法薬学を貴族の指定に教える中等科の教師だったが、違法薬物が偶然手に入ってしまったことから、人生の歯車が狂ったのだ。
尋問にあたった隊員と、この城の憲兵は、顔を見合わせて怒りに耐える。
この男を殴り倒すのは、後だ。まずはニコラの身柄のありかを、この男から搾り出さなくてはいけない。
憲兵の一人が、ゆっくりと男に近づくと、今度は強力な自白魔法を浴びせて、ゆっくりと聞き出す。
「・・なあ、ニコール様はどこに連れて行かれた?お前、心当たりがあるんだろう??」
だが、酩酊した頭には、何も聞こえていない様子で、ぶつぶつと聞かれもしていない事を口の中で呟き続ける。この男は、違法薬物の末期状態だ。魔法も、ポーションも、正常通りにはうまく発動してくれない。
「あの男の親戚縁者、孤児院、修道院、全部洗ったが、出て来やしない。下女のその縁者、馬番の故郷、全部洗った。全部だ!ちくしょう、まさか、魔女に匿われて、この魔の森に生きてるなんてな!」
「ニコールは、今頃むごたらしく殺されているさ。頭領の仇だ!!いや、俺の恨みだ!俺のクスリを手に入れるのに、ちくしょう、ちくしょう、どれだけのものを手放したと思っているのか!!」
この男の家に押し入った憲兵によると、ボロボロのその貸部屋には、必要最低限の家具、汚れたカーペット、使いかけの薬物と、そしてかろうじて形を保っている腐った果物、それだけ。
結婚もして、子供もいたというらしいが、薬物の中毒が深くなる頃に、この男の前から姿を消したという。
(薬物中毒者の、勝手な言い草だ・・)
転移魔法が、城の中で展開された気配を、リバーは感じた。
王宮の騎士団が到着した様子だ。




