91,たまには頭を使わないと。
困った、困った。
まさか〈サリアの大樹〉を盗まれるとは。
これって、やっぱり〈紫ガ城〉を預かっている、おれの責任だよなぁ。
ここはじっくりと考えるときだ。
勇者少女の推測について、さらなる考察を。
ふむふむ。
つまり、何ものかが、おれを『特異点魔物』に指定したのは、おれの注意を引いて〈紫ガ城〉を手薄にすることだった、と。
「まーてーよ。それはつまり、この『ボスより強いモブ敵』作戦のせいじゃないか? 発端は?」
勇者少女が顔をしかめる。
「うっ。わたしのせいにしないでよ。この展開、わたしが予想できたと思うの? わたし、サリアの生まれ変わりで戦闘力も高いけど、基本は子供なのよ。ティーンなの、ティーン。ティーンの計画に乗っかったほうが悪いと思わないの?」
「……ずるいな」
とにかく、もっと考えよう。サリア様は、おれのことを頭脳戦キャラには育成されなかったので、何かと限界もあるが。
「……まてよ。〈蟻塚〉の『特異点魔物』、あれは本物だったわけだよな。『異なる宇宙』の魔物であるため、ゲートを破壊するか、よほど特殊なスキルを使わない限り、撃破は不可能だったんだから」
「そうね」
「……これが何を意味するのか?」
「わたしが考えるの?」
勇者少女も知能優先のビルドは組んでいないことが分かったな。
ひとまずメアリーとアーグのもとに戻り、敵について情報を聞く。
メアリーの証言。
「実は顔は見ることができませんでした。おそらく男かと思います。ただ、どういうわけか顔を覚えていません。あら、不思議です」
その隣では、アーグが生首を床に押し付けて号泣。
「師匠ぉぉ! この不肖の弟子、〈サリアの大樹〉を守ることができず、なんとお詫びすればよいのか!」
「じゃ死んだら」
「……師匠ぉぉぉぉ!!」
生首を、こんどはおれに押し付けてきた。
こいつ、はじめて会ったときは、もっと強者のオーラ漂わせた冒険者だったよなぁ? 闇堕ちというより、ただの雑魚落ちしている気がする。
「で、アーグ。お前は敵の顔を見たのか? お前を雑魚に対するように、簡単に拘禁状態にし、圧勝した敵のことで」
「……あの師匠。自分だけでなく、メアリーも同じように簡単にやられていましたが」
「メアリーは戦闘向きじゃないから仕方ないだろ」
「師匠! 自分も敵の顔は覚えていません!!」
「使えん」
しかし不出来なアーグだけでなく、メアリーも敵の顔を見ていない。いや記憶できていないのか。
認識阻害の能力を使われたのだろうか。
ところでこれはバフかデバフか。
メアリーとアーグにかけて『相手を認識できない』ようにしたのなら、デバフ。
敵が自分で自身にかけて、アーグとメアリーに認識できなくしたのなら、バフか。
結果は同じでも、どっちなのかによって、バッファーかデバッファーか違ってくる。つまり犯人捜しの第一歩から間違いかねない。
ということを話してから、アーグに尋ねた。
「で、どっちだ? バフかデバフか」
アーグが生首を高く抱えて言った。
「師匠、分かりません」
「使えないな、お前」
それからメアリーにも同じ質問をした。
「申し訳ないです。不甲斐ないことに、わたしも分かりません」
「仕方ないよ、メアリー。敵は急襲だったというし。どんまい」
「師匠ぉぉぉぉ!! 差別ですか、この態度の違いはぁぁ!」
と、アーグがマジでうるさい。
うーむ。犯人のヒントはなしか。
いや、認識阻害系の能力を持っている。さらに拘禁デバフも付与できる力がある。
そんな冒険者、ごまんといるだろ。
ふと勇者少女と目があう。
「信じられないわね、ソルト。忘れたの。大事な、このラスダンの設定。それさえ使えば、犯人を絞ることができるのに」
「……そうか。ここ、ラスダンじゃないか」
冒険者が〈紫ガ城〉に入るためには、〈魂の欠片〉を14個所持する必要がある。
つまり、ここ最近、各幹部たちを撃破している。その者こそが、〈サリアの大樹〉を盗んでいった犯人だ。
「あー、いちいち聞いてまわるのか」
ところで、いま一体、何体の幹部が生き残っているんだ、厳密には?




