84,交叉。
──ソルト──
ここのところ、〈トール塚〉がやたらと人気。
不可解なことは、普段ならばソロで攻略しているような上位冒険者たちが、パーティを組んでくること。
で、どう見ても狙いは、おれ。
狂戦士バンザイ。
『ボスより強いモブ敵』路線で進んでいたところの、この想定外の展開。
確かに、そのうち目立つだろうとは思ったが、まさか突然にここまでの人気者になるとは。
こっちは冒険者の未来のために『ボスより強いモブ敵』をしているというのに、まさか討伐対象にされているとは。
にしても、次々と襲いくる連中。
これは、何かを思い出すなぁ。
と思っていたら、〈紫ガ城〉の近況報告──といってもまず『異常なし』だが──をしにきていたアーグが、懐かしそうに言う。
「師匠。これは師匠を滅ぼそうと、愚かな人間の騎士団どもが大所帯で襲ってきたときを思い出しますな」
「あのな首無し。お前も、かつてはその『愚かな人間』だったからな。ところでお姉さん、元気?」
「姉はいまだに師匠の首を狙っています。この連続して挑んでくるパーティの中に、姉がいるかもしれません」
「ふーん。まぁ〈炎の帝〉なら、別にいいが」
〈帝〉といえば、〈風の帝〉が来なきゃいいな、と思う。
最近、風属性の弱点が芽生えつつあるから。どうも、これは狂戦士バンザイとしての、弱点属性らしい。
【破壊卿】として振る舞えば、この弱点属性も消えるようだが。
さすがサリア様、さまざまな場合に備えて、調整されていたのだ。
アーグを〈紫ガ城〉に帰したのち、また新たな冒険者がやってきた。
ここのところでは珍しくソロだな、と思ったら、よく見る少女。
「なんだ、勇者少女か──まてよ。普通に攻略してきたのか? ほかの冒険者パーティと遭遇しなかったか?」
「わたしの実力なら、たかだかレベル400帯の冒険者を数人伸すなんて、朝飯前よ」
「……殺してないだろうな」
「優秀なヒーラーがいれば、半月ほどで復帰できる程度よ」
微笑み浮かべて言うがね、勇者少女。
どんだけ原型留めないダメージを与えたんだ。
「お前は、セーラよりはマシな倫理観」
勇者少女はにっこりして。
「褒めてくれてありがとう」
「褒めては、ないな」
「ところでソルト。『ボスより使いモブ敵』作戦は、いまちょっとした暗礁に乗り上げようとしているみたい。あなた、冒険者ギルドで『特異点魔物』というものにされているみたいよ。それで、討伐クエストが大賑わいなの」
「ははぁ。そういうことか……『特異点魔物』って、なんだ?」
「わたしが知るわけがないでしょ。『特異点魔物』認定は二体。もう一体は、〈蟻塚〉ダンジョン。かつては【無庫卿】が仕切っていたところね。いまは誰が仕切っているのかしら?」
いい質問だな。
知らんが。
「そう、そう。勇者少女。サリア様の生まれ変わり。このことをまだ伝えていなかったな。アリサという、サリア様の残滓とか自称している存在が、そろそろ『世界を滅ぼそうとする者』が現れる、とか言っていたな」
勇者少女にしては珍しく、すっかり混乱した様子。
「え、まって、どういうこと? アリサって誰? 『世界を滅ぼす者』ってなに?」
「おれが知るわけがないだろ。おっと、次のお客だ。お前は隠れていろ」
勇者少女が影に消える。
ほぼ同時に、次なる冒険者パーティが現れた。
リーダーは大太刀を装備した、サムライジョブ。諸刃のスキル持ち。
諸刃のスキルとは、防御力を攻撃力に上乗せする。その代償として、防御力を捨てるという、死を恐れぬ必殺の斬撃スキル。
こっちも手加減はしなかったが、『時間跳躍』は使わずに、最後は倒される。
「敵ながら天晴だった」
と言い残して、サムライは仲間を連れて立ち去った。
その後、おれは復活。
影から出てきた勇者少女に、尋ねる。
「ひとつ不可解なことがある。討伐対象なのに、なぜギルドは〈滅却絡繰り〉を出さないんだ? いくら殺しても、復活するだろ──まぁ、こっちとしては、有難いが」
「わたしが知るわけがないでしょ」
「ふむ」
ミシェルと連絡を取ったほうが良さそうだな。
「ところでミシェルはどこだ?」
「〈蟻塚〉」




