68,プランは大事。
勇者少女に機嫌をよくしてもらったセーラは、帰った。
何の用事があったのか知らんが。
その後、勇者少女が〈冒険者の未来を憂う会〉の会議をやりたがるので、空間転移でミシェルの自宅に向かう。
ただ、さすがに他人の家の中にまで空間転移はできないので、手近の森に跳んでから、向かった。
おれが訪ねると、ミシェルは驚いた──というより、微妙に警戒した様子で。
「【破壊卿】。そのように、気軽に人間社会を出歩いて問題はないのか?」
「まぁ人間フォルムだし」
どうも魔人のボスが、こうも出歩いているのに、地味にカルチャーショックを覚えたらしい。
というか、おれも妹のところに転がりこむまでは、そんなに人間の都市に出たりはしなかったんだがな。
「勇者少女が世話になっている」
「ああ、セシリアのことか」
「勇者少女、そういう名前だったのか」
「いや、名は捨てたというが、それだと不便なので、わたしが名付けた。妹として、大切に扱っている」
勇者少女がうなずいて。
「わたしのために、何十着も衣服を買ってくれたわ……」
「ふーん……」
ミシェル、妹が欲しかったのかな。
勇者少女は迷惑そうだが。
「で、〈冒険者を憂慮する会〉の会議か」
「〈冒険者の未来を憂う会〉よ」
と、勇者少女に訂正される。
「まぁ、その会。さっそくだが、〈暴力墓〉の弱体化について、共有しておこうか」
その場にいたことを、おれは説明した。
何ものかが〈暴力墓〉を、ボスの【消滅卿】を含めて弱体化し、推奨レベル5に見合うダンジョンにしたことを。
勇者少女が淡々として言う。
「だけれども、誰だか知らないけれど、それは私たちの手柄ではないわね」
「誰の仕業だっていいだろ、別に。手柄を取り合うものでもない」
「ええ、そうね。だけれど、自分たちで行えなければ、2つの問題がある。ひとつは再現性。別のダンジョンでも、繰り返すことができない。ふたつめは、その何ものかの気がかわり、【消滅卿】の弱体化を解除するかもしれないでしょ」
「まぁ、確かに。しかし、いまのところ、あれが何者なのか手がかりはゼロだな。ただ、目的はおれたちと同じ、と見てもいいんじゃないか? つまり〈冒険者の未来を憂う会〉の一員に入れたいくらいだ」
しかし、この話はここから進展しようがなかった。手がかりゼロだしな。
そこでミシェルが別のことに議題を移す。
「〈暴力墓〉の推奨レベルを捏造していたのは、冒険者ギルドのギルドマスターのようだ。すなわち、ギルドのトップだ」
上層部だとは思ったが、まさかギルマスだったとは。
……冒険者ギルドのギルマスか。きっと新米のころに、おれがまだボスをしていた〈暴力墓〉も攻略しているのだろうな。
「よくそこまで掴めたな?」
ミシェルはうなずいた。
「かなり危険な橋を渡ることになったが。さて、どうしたものかな? ここでギルマスの不正を暴けたとしても、それは冒険者ギルドがガタガタになることになる。そもそも不正を暴けるかも微妙だが。確固たる証拠はないのだからね」
「すると──なんだ、これで終わりか。とくにやることもなし? じゃ、帰るぞ」
勇者少女が冷ややかに言う。
「帰るというのは、〈紫ガ城〉に? 私が、ここでひとつ計画を述べてあげる。冒険者と魔人、双方の未来のため。サリアの遺志でもあるわ」
「サリアの遺志?」
と、ミシェルが小首を傾げている。
なんだ勇者少女は、このことを話していなかったのか。
そこで、おれがミシェルに説明しておく。
「勇者少女──セシリアは、サリア様の転生者、と主張しているんだ」
「主張ではなく、明確な事実よ。良くも悪くも、ね」
と、不機嫌そうな勇者少女。
「まぁ、なんだっていいが、どういう計画があるんだって?」
「冒険者が衰退し始めているのは、まず魔人側に問題があるせいよ。冒険者の成長のことを、まったく考えていない魔人が増えたわ」
おれは【消滅卿】のことを考えながら、同意した。
「確かに。残念だが、それは事実だな」
「そこで、【破壊卿】。あなたが、すべての魔人幹部たちを指導すれば済む話」
「おれに、魔人の王、いわばラスボスになれってことか?」
反対する気満々だったが、勇者少女の考えは違った。
「違うわ。あなたが、すべてのボスよりも強いモブ敵として君臨すればいいのよ。そうすれば最終的に、何が起きると思う?」
「幹部たち。つまり、ボスたちから煙たがられる」
「いいえ。ボスという概念が消滅するのよ」
「ろくでもないな」




