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68/107

68,プランは大事。

 

 勇者少女に機嫌をよくしてもらったセーラは、帰った。

 何の用事があったのか知らんが。


 その後、勇者少女が〈冒険者の未来を憂う会〉の会議をやりたがるので、空間転移でミシェルの自宅に向かう。


 ただ、さすがに他人の家の中にまで空間転移はできないので、手近の森に跳んでから、向かった。


 おれが訪ねると、ミシェルは驚いた──というより、微妙に警戒した様子で。


「【破壊卿】。そのように、気軽に人間社会を出歩いて問題はないのか?」


「まぁ人間フォルムだし」


 どうも魔人のボスが、こうも出歩いているのに、地味にカルチャーショックを覚えたらしい。

 というか、おれも妹のところに転がりこむまでは、そんなに人間の都市に出たりはしなかったんだがな。


「勇者少女が世話になっている」


「ああ、セシリアのことか」


「勇者少女、そういう名前だったのか」


「いや、名は捨てたというが、それだと不便なので、わたしが名付けた。妹として、大切に扱っている」


 勇者少女がうなずいて。


「わたしのために、何十着も衣服を買ってくれたわ……」


「ふーん……」


 ミシェル、妹が欲しかったのかな。

 勇者少女は迷惑そうだが。


「で、〈冒険者を憂慮する会〉の会議か」


「〈冒険者の未来を憂う会〉よ」

 と、勇者少女に訂正される。


「まぁ、その会。さっそくだが、〈暴力墓〉の弱体化について、共有しておこうか」


 その場にいたことを、おれは説明した。

 何ものかが〈暴力墓〉を、ボスの【消滅卿】を含めて弱体化し、推奨レベル5に見合うダンジョンにしたことを。


 勇者少女が淡々として言う。


「だけれども、誰だか知らないけれど、それは私たちの手柄ではないわね」


「誰の仕業だっていいだろ、別に。手柄を取り合うものでもない」


「ええ、そうね。だけれど、自分たちで行えなければ、2つの問題がある。ひとつは再現性。別のダンジョンでも、繰り返すことができない。ふたつめは、その何ものかの気がかわり、【消滅卿】の弱体化を解除するかもしれないでしょ」


「まぁ、確かに。しかし、いまのところ、あれが何者なのか手がかりはゼロだな。ただ、目的はおれたちと同じ、と見てもいいんじゃないか? つまり〈冒険者の未来を憂う会〉の一員に入れたいくらいだ」


 しかし、この話はここから進展しようがなかった。手がかりゼロだしな。

 そこでミシェルが別のことに議題を移す。


「〈暴力墓〉の推奨レベルを捏造していたのは、冒険者ギルドのギルドマスターのようだ。すなわち、ギルドのトップだ」


 上層部だとは思ったが、まさかギルマスだったとは。

 ……冒険者ギルドのギルマスか。きっと新米のころに、おれがまだボスをしていた〈暴力墓〉も攻略しているのだろうな。


「よくそこまで掴めたな?」


 ミシェルはうなずいた。


「かなり危険な橋を渡ることになったが。さて、どうしたものかな? ここでギルマスの不正を暴けたとしても、それは冒険者ギルドがガタガタになることになる。そもそも不正を暴けるかも微妙だが。確固たる証拠はないのだからね」


「すると──なんだ、これで終わりか。とくにやることもなし? じゃ、帰るぞ」


 勇者少女が冷ややかに言う。


「帰るというのは、〈紫ガ城〉に? 私が、ここでひとつ計画を述べてあげる。冒険者と魔人、双方の未来のため。サリアの遺志でもあるわ」


「サリアの遺志?」


 と、ミシェルが小首を傾げている。

 なんだ勇者少女は、このことを話していなかったのか。

 そこで、おれがミシェルに説明しておく。


「勇者少女──セシリアは、サリア様の転生者、と主張しているんだ」


「主張ではなく、明確な事実よ。良くも悪くも、ね」


 と、不機嫌そうな勇者少女。


「まぁ、なんだっていいが、どういう計画があるんだって?」


「冒険者が衰退し始めているのは、まず魔人側に問題があるせいよ。冒険者の成長のことを、まったく考えていない魔人が増えたわ」


 おれは【消滅卿】のことを考えながら、同意した。


「確かに。残念だが、それは事実だな」


「そこで、【破壊卿】。あなたが、すべての魔人幹部たちを指導すれば済む話」


「おれに、魔人の王、いわばラスボスになれってことか?」


 反対する気満々だったが、勇者少女の考えは違った。


「違うわ。あなたが、すべてのボスよりも強いモブ敵として君臨すればいいのよ。そうすれば最終的に、何が起きると思う?」


「幹部たち。つまり、ボスたちから煙たがられる」


「いいえ。ボスという概念が消滅するのよ」


「ろくでもないな」


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