52,冒険者の質低下。
冒険者一覧からケイティを探し出して、選択。
どこに蘇らせますか?という質問が出てきた。
復活場所まで指定できるとは、かゆいところに手がとどく便利機能満点。
ひとまず、いつも道具などを買いそろえている村の宿を指定しておく。
目覚めたケイティは慌てるだろうが、そこならば安全だ。
必要な復活作業も終えたことだし、〈サリアの大樹〉の拡張機能をオフにしておこう。
ふと視線を向けると、〈サリアの大樹〉のそばで、いつのまにか覚醒していた勇者少女が腕組みしている。
「いま、」
「なに?」
「いま、〈サリアの大樹〉の拡張機能をオフにしようとしたでしょう?」
「まさか。それより、もう目覚めたのか。動いて大丈夫か?」
「三分眠ることで、回復したわ。私が誰の生まれ変わりと思って?」
「サリア様か? まだ信じたわけじゃない。が、〈サリアの大樹〉を拡張させてしまったのは本当だからなぁ。まぁいい。約束は守ろう。さぁ、誰を復活させたいのか言ってくれ」
勇者少女が怪訝そうな顔をする。
「どういうこと? 私は、誰かを蘇らせたくて、〈サリアの大樹〉を拡張したわけではないのよ」
「すると、なぜだ?」
いまさらその話をするのか、という様子で、勇者少女が苛立たしそうに言う。
「もちろん、それは私がサリアの転生者だからでしょう。サリアは、いまの状況を憂いている。いまのままだと、あと数年でそれが起きるから」
「それって?」
「冒険者の全滅」
「まさか」
「そうね。少し状況は変わったかも。あなたが、魔人幹部を二体、滅却したから。だけどそれは時間稼ぎにすぎないわ。冒険者が成長できなくなれば、たとえいまではそこそこ強いだけの中ボス格も、いつかは越えられない壁となる」
「全体的な冒険者の質低下か」
「ひとつは、あなたのせいでもあるのよ、【破壊卿】。かつては、あなたが良いバランス調整役だった。はじめの関門である〈暴力墓〉で。ところがあなたは、パリィスキルが台頭したとたん、ただの雑魚ボスに格下げ」
「そこは反論のしようもない」
「けど、まだそれでも良かった。いまや〈暴力墓〉は、はじめの関門としてあるまじき、死にダンジョンと化してしまったわ。あなたの後釜のせいで」
「【消滅卿】のことか」
「まぁ、私には雑魚だったけれども」
勇者少女にボコられている【消滅卿】を、ちょっと見てみたかったな、と思う。
「そういえば〈暴力墓〉に限っては、おかしな話もある。推奨レベルが、どう考えても操作されていたんだ。冒険者ギルド側の仕業らしい」
勇者少女は不思議そうに小首をかしげた。
「そうなの? それは初耳ね。いったい誰が──」
メアリーが、恐る恐るといった様子で入室してくる。
「あのー、取り込み中ですか?」
「いや。どうした? また、幹部の誰かが来たのか?」
「いえ幹部ではありませんが──妹さんです」
セーラか。
妹が訪ねてきたら、お兄ちゃんは嬉しいものだ。
勇者少女が滞在していないときならば、だが。
「おい、勇者少女──というか名前は?」
「名は捨てたわ」
「あっそう。セーラが──〈ガリア城塞〉のボス【虐殺娘】が来たようだ。間違っても、君とは会わせたくない」
挑発されたとでも思ったのか、勇者少女が強気になって言う。
「この私が、いまさら幹部でもない魔人を恐れるとでも?」
「いやいや。あいつは恐れたほうがいいぞ。それに君とは、勝ち気な性格が似ている」
「気があいそうってこと?」
「殺しあいそうってことだよ。とにかく、帰れ」
ふいに寂しそうな横顔を見せる勇者少女。
「帰る場所はないわ。サリアの転生ということを思い出したとき、これまでの人生は捨てたのよ」
「……じゃ、冒険者ギルドのドラゴンライダー、ミシェルという子に会いに行け。彼女も、魔人と冒険者の崩れるバランスを憂いている一人だ」
「その人がお世話してくれるのね?」
「あーーー」
ミシェル。世話焼きそう。
「そう。ミシェルが世話してくれる。おれも、こっちの用件が片付いたら、会いに行くから」
勇者少女がサリア様の転生者ならば、やはり何か意味があるのだろう。
それに、冒険者が亡びるという予言は、聞き捨てならないしな。
ひとまず勇者少女と別れて、妹のもとに向かった。




