40,組織は腐敗するものらしい。
気絶中のケイティを抱えて、〈暴力墓〉近くの村に行く。
そこの宿で一泊。
一泊すると回復する冒険者の生命力も、魔人ほどではないが凄いものだ。
宿の一階に食堂があったので、そこで朝食とコーヒーを取る。
コーヒーミルを買って帰ろうかな、と考えていたら、ケイティが降りてきた。
「あ、ソルトさん」
「あぁ、起きたか」
なぜか顔を真っ赤にして、視線をそらすケイティ。
「私たち、まさか昨夜はお楽しみでしたね?を?」
「いや、ぜんぜん」
「え、そうなんですか」
なぜか残念そうなケイティ。
冒険者の思考はたまに意味が分からない。
「あの、私の最後の記憶は、マンティコアにタックルされたところなんですが」
「だろうな。そこで気絶したし」
「では、ソルトさんがマンティコアを撃破して、私を運んでくださったんですか?」
「あーー」
バトルフォルムで殺したので、人間フォルムではまず歯が立たない。
ということは、ここは嘘をついておかないと、整合性が取れなくなる。
「いやマンティコア自体は、通りかかった上位冒険者が倒してくれた。おれは君を運んだだけだ。とにかく無事で良かった」
「助けていただき、ありがとうございます。ですが、あんなところにマンティコアがいるなんて。あれって、下級冒険者でも倒せるものなのでしょうか」
「まあ無理だろうな。マンティコアは、下手すると下級ダンジョンのボスを担当することもある──と、昔、先輩冒険者から聞いたことがある」
「はぁ。では、推奨レベル5にいるのはおかしいですよね?」
「まったくだな」
おれがコーヒーをすすっていると、ケイティは高速で朝食を取り出した。
スキルかよ、と思いたくなるほど速く。そして。
「では行きましょう」
「どこに?」
「冒険者ギルド本部です。マンティコア出現のことを知らせて、推奨レベルを変更していただかないと。今回、私たちは運よく助かりましたが、これでは推奨レベルを信じた新米冒険者たちが次々と犠牲になってしまいます」
「なるほど」
冒険者はギルド本部とかに訴えられるものなんだな。
魔人は幹部に進言することなどはできないが。
というわけで王都のギルド本部に行くと、知り合いがいた。
冒険者の顔見知りといえば、一人は〈炎の帝〉のコリーヌ。
こいつだとまずかったが、もう一人のほう、ドラゴンライダーのミシェルで良かった(そもそもコリーンのほうは、人間フォルムは見せていないか)。
ミシェルは、おれの姿に気付くと驚いた様子で。
「【破壊卿】どのではないか。なぜここに?」
「お前は思ったことを口に出すタイプだろ」
不可解そうなミシェルに対し、ケイティが少し怒った様子で。
「ソルトさんは、確かに【破壊卿】の本名と同じですが、だからといって【破壊卿】呼ばわりするのは失礼ではありませんか?」
ミシェルも事情を理解した様子で、
「あーー。そうだな、すまなかった。許してほしい。人間の、魔人幹部ではない、ソルトどの」
「いや、ぜんぜん。問題ない」
「では、ソルトどの。と、こちらは」
「ケイティだ。新米冒険者。おれと同じ。おれたち、新米冒険者」
説明過多か?
ケイティが頭を下げる。
「ケイティです。つい口調を荒げてしまい、申し訳ございません」
「いや、君の指摘はもっともだった。ところで、二人はここに何をしに? ギルドに売りたい素材を持ってきたようでもないが」
ケイティが説明した。
〈暴力墓〉にマンティコアが出現し、推奨レベル5はあまりに低すぎる。このままでは犠牲が増えるだけと。
ミシェルは難しい顔をしている。
「そのような訴えは、これまでも何度かあった。しかし一向に推奨レベルは変わらない。それどころか──」
周囲に視線をやってから、ミシェルが声を低める。
「そのような報告をした冒険者が、不審死を遂げているのだ」
「え? つまり、〈暴力墓〉の推奨レベルがおかしいと伝えた冒険者たちが、謎の死を? それって、もしかして暗殺、とかですか?」
「ああ。その可能性は否定できない。そもそも推奨レベルが5という時点で、少しでも〈暴力墓〉を経験している者からすれば、異常だと分かる話だ。私は、このギルド内に魔人と通じているものがいるのでは、とさえ考えている」
おれはハッとした。
さては、あれだな。
組織は腐敗する、の法則。
「どこも大変だな」




