19話 販路拡大
「また来たのか」
店に入ると、グレンは露骨に嫌そうな顔をして見せた。そんな顔してると、僕はわくわくしてきちゃうね。
「しかも子連れで! 商品を壊すなよ」
「おとなしい子たちですよ。僕の所で勉強させているんです」
「こんにちは……」
「こんにちは!」
カリンもデインもちゃんと挨拶ができた。グレンは二人をじーっと見た後、ふんと鼻を鳴らして座り直した。
「何をしに来た」
「これを売りたくて」
僕は布袋に詰めていたダイアモンドを取りだした。といっても研磨してないから石ころにしか見えない。だが、グレンはすぐに何か気づいたようで、すぐに手に取ると、じっくり確かめだした。
「……ダイアモンドかい?」
「ご明察です。いかがです?」
「あのなぁ……」
僕の問いかけに、グレンははーっとため息を吐いた。
「うちは魔道具店なんだぞ? そりゃあ魔石や貴石の類いは扱っちゃいるが」
「無理ですか」
「正直、うちでは持て余すな」
「そうですか。マンドラゴラだけではない商品をと思ったのですが」
僕がそう言うと、グレンは再びため息を吐く。
「うちじゃ加工も出来ん。客層も違う」
「そこをなんとか」
僕が頼み込むと、カリンとデインも頭を下げる。
「お願いします!」
「おねがいします!」
キラキラとした子供たちの視線に、グレンがうっと怯むのが分かった。
「なら、商会を紹介してやる」
「えっ、本当ですか!」
「ただし、お前の胡散臭い出自は正直に言うぞ。それでもいいって相手が言ったらだ」
「はい、わかりました!」
「ジュアル様、商売上手くいったんですか?」
カリンがおっかなびっくり聞いてくる。僕は黙って頷いた。
「やったー!」
二人は手を取り合って喜んだ。
「では三日後の午後一番にここに伺います」
「あいよ。それまでに話をつけとくぜ」
商売に進展があった。まだ売り先が確定してたわけではないが。もし商会と取引出来たら、他の品物も売れるかもしれない。売れそうな物をまた探さないと。
「じゃあ、街を見物して行こう」
「はーい!」
ん、二人揃ってよいお返事。ここは世界一の大国の首都だ。きっと学ぶものも多いだろう。魔道具店から出て大通りに出ると、そこには沢山の店が並んでいる。
「ここには洋服や日用品、食べ物なんかの店が並んでいるよ」
「物がいっぱいならんでますね」
「お姉ちゃん! あれはなんだろ!」
デインが、興味の赴くままにお店のウィンドウから中を覗きこむ。
「これは本屋だね。欲しいものを言いなさい。買ってあげよう」
「えっ、いいの?」
デインはぱっと顔を輝かせたが、その手をぐっとカリンが引き寄せた。
「駄目よ。私たち、まだあんまり字が読めないじゃない」
カリンは変なとこ遠慮するんだよな。魔族にしては慎ましい性格だ。でもね。
「いいんだよ。好きな本を読むのが一番勉強になる。もし君たちが読まなくなっても、次に勉強にきた子が読むだろうし」
僕は笑いながら本屋の中に入った。その後をカリンとデインがついてくる。絵本のあるあたりで、あれがいいかこれがいいかと尋ねると、二人はそれぞれ本を手に取った。カリンはうさぎの可愛らしい絵がついている本。デインは生き物図鑑だった。
「ジュアル様、ありがとうございます」
「ありがとう!」
「うん。勉強がんばるんだよ」
店を出て、僕は例の通りを目指す。
「どこに行くんです?」
いけない少し早足だったかもしれない。駆け足で二人が追いつくのを待って、通りの先を指さした。
「これからね。特別な美味しいものを食べさせてあげる。この間シルクと食べたんだ。ファラーシャお姉様にも教えてない」
「ええ……?」
そう。アイスクリームだ。僕のもったいぶった言い方に、二人の顔がぱあっと輝き、期待に頬はバラ色に染まる。素直で分かりやすいな。僕もつられて微笑んで、僕は二人を連れて先へ進んだ。
「さ、ここだ」
アイスクリーム屋についた。二人にコーンに乗ったアイスを手渡す。
「食べてご覧」
二人は未知の食べ物に、くんくんと匂いを嗅いで首を傾げたあと、ぱくりと一口食べた。
「つ、冷たいです」
「甘くてとろける……」
カリンはその冷たさにびっくりし過ぎたみたいだけど、僕が頷いて見せるとペロペロとアイスを食べ始めた。マイペースなデインはただただ夢中で食べてる。
「溶けてしまうから、持って帰れないんだよ」
「それでなんですね」
カリンはしげしげとアイスクリームを眺める。
「これって特別?」
目をキラキラとさせて、デインが聞いてくる。僕はその頭をくしゃりと撫でて、頷いた。
「人間は凄いね。手に手をとって工夫して、新しいものを作り出すんだ」
「魔族には出来ないんでしょうか」
カリンがしょぼんとしてしまった。
「そんなことないさ。個々の能力は人間とそう変わらない。ただ、魔族は力あるものが全てだって考えが強いから。全部がそういう考えじゃないとしてもね」
力があるものが権力を得て、それ以外の者は下に置かれる。人間だってそういうところはあるだろうけど。物を作ったり、育てたりする者が軽く見られるっていうのは、国を貧しくすると思うよ。
「僕はね。魔族領を豊かにしたい。その為には魔族が協力することが必要だし、その為にはお金や手間を惜しんではだめだ。カリンやデインのような子を立派な大人に育てて、未来を作らないと」
僕はカリンとデインの手を握った。
「君たちこそ、僕の力になるんだ」
そう言うと、二人はまだよく分からないといった顔をしたけれど、今はそれでいい。今日食べたアイスの美味しさや、手にした本の中身がどういうものか、沢山積み重ねて君たちは大人になるんだ。




