16話 女伯爵グランドラ
ルベルトル山脈は、魔王城から西の方角にある。
「シルク、二人をお願いね」
カリンとデインはお留守番だ。本当は商売の様子を見ていて欲しいけど、今回は危険すぎるかもしれないからね。ファラーシャは何があっても自力で身を守れるだろうけど、彼らはそうはいかない。ただ、二人には今回どういう目的でグレンドラに会いに行くのかは説明しておいた。
「それではお姉様、参りましょう」
「ああ」
一緒に行くのは僕とファラーシャとナミラ。
僕は移動魔法の魔法陣を発動させる。光の向こうはもうグレンドラの居城だった。
石ころの転がる山の麓に造られた城は、無骨な丸太作りだった。太い木の先を尖らせて組んだ門が、城の周りに張り巡らされている。
「なんだぁ、お前ら」
入り口に立っていたオーガの門番は、とことこと近寄ってきた僕とファラーシャを見て、怪訝な顔をした。
「私はファラーシャ・イブリース。そしてジュアル・イブリース。この城の主、グレンドラ・バジンカに会いたい」
「ああ? グレンドラ様はお前らのようなガキには会わん」
門番はすっごく偉そうに僕たちを睨み付けた。――途端、ファラーシャの跳び蹴りを首にくらった。
「ぐああっ!?」
ファラーシャのスキルで硬化された重たい一発だ。門番の体がふいうちにぐらりと傾ぐ。
「無礼者め。私は家名を名乗ったぞ。魔王の血も軽く見られたものだ」
そうぼやきながら、ファラーシャは指を鳴らした。
「はいなー!」
ナミラが嬉しそうに大鎌の姿になる。
「次はお前の命を刈り取る。さっさと取り次げ!」
鎌の先を門番に突きつけ、ファラーシャは大声で怒鳴りつけた。
「ひいいっ! ……少々、お待ちください」
門番は転がるようにして門の中に駆け込み、僕は少し呆れた顔をしてファラーシャを見た。
「乱暴ですよ」
「は!」
少々たしなめたが、ファラーシャには一切響いてないようだった。
そうこうしているうちに、オーガの集団がわらわらと門のところにやってくる。
「ファラーシャ様、ジュアル様。ご無礼を失礼いたしました。主はお会いになるとのことです。こちらへ」
年かさの、まだ話の通じそうなオーガについて、僕たちは城の広間、広間というより広大な土間のような――相撲部屋の土俵がある所みたいな――場所につれてこられた。
「でっっっ……」
僕は絶句した。でかい。いや、その。
「やああ! こったらめんこい王女様と王子様がいらっしゃるなんてなぁ!」
声もでかい! グレンドラはただでさえ大きいオーガの中でも抜きん出てでかかった。声もでかいし、背もでかい! おっぱいも太ももも尻もでかい! ただ、顔は幼い感じで、くりくりとした目に控えめなおちょぼ口をしている。
「……どうも。グレンドラ・バジンガ女伯爵」
僕はすっかり度肝を抜かれて彼女を見ていた。女伯爵って言うからには妖艶な年増を想像していたのだけど。
「いや~~~~。嬉しいねぇ。伯爵っての、みんな認めてくれじゃんねぇ」
グレンドラは頬を赤らめて、身をくねらせている。と、いうのも伯爵ってのは自称だからだ。この魔族領で爵位を名乗るものは二種類。古くに魔王から爵位を授けられた者。あとは実力で爵位を奪うか自称した者。グランドラの場合は後者のようだ。
(見た感じ……三メートルくらいあるか?)
グランドラの体躯は他のオーガとは抜きん出て大きく、周りを力で制してきたのだろうことが伺われた。
「で? お二人とも何の用で来たんだべ」
グランドラが僕らに聞く。そうそう、本題に入らなければ。
「貴女の支配するルベルトル山脈には、ダイヤモンド鉱山がありますね」
「ああ、あるけんど」
「それが欲しいんです」
僕はそう口にした途端、あたりに緊張が走った。
そんな硬質な空気の中、ファラーシャは肩に担いでいた大鎌をグランドラに突きつける。
「鉱山を寄越せ。さもなくば私の支配下につけ」
それはどっちも寄越せって言っているね。とにかく穏便には済まなそうだ。なぜなら、先ほどまで、顔だけは純朴な乙女のようだったグランドラの顔が般若のようになっている。
「何を言うか! ここはおらの縄張りだべ!」
「だが、欲しくなったのだ」
「むきーー!」
グランドラが癇癪を起こして立ち上がった。すると一斉にオーガの男たちが彼女に駆け寄る。なんかみんな顔がいい。
「グランドラ様、落ち着いてください」
「このようなもの、我ら親衛隊が!」
「愛してます!」
イケメンオーガ親衛隊にどうどうといなされて、グランドラは少し冷静になったようだ。
「あのダイヤモンド鉱山は、おらが力で奪い取った物だ! 欲しければ力で奪い返してみよ!」
「ほう……望むところだ!」
ファラーシャは殺る気まんまんだ。
「ただし! お前が負けたら、お前の弟……ジュアル殿をおらの婿に貰うぞ! 魔王家との繋がりも欲しかったんだべ!」
ええ~!? このデカ女の婿になれって? つ、つぶれちゃうよぉ……! 僕は横目でファラーシャを見る。ファラーシャは僕の視線に気づくと、一瞬微笑んだ。
「かまわん!」
ええ~!? かまわんの? ちょっとお姉様!!




