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73 まだ頑張れるもんね?


私が着いたとき、既に3人が揃っていた。

私を呼んだウィゴが、嬉しそうな顔でもなく心配そうな顔でもなく微妙な顔をしていた。

多分早く来てしまった自分が恥ずかしくて、どっちの顔も出来ないでいるのだろう。

「お早うございます。ウィゴ様、心配して早く来て下さったんですか?有難うございます」

勝手に決めつけてそう礼を言うと、見る見る赤くなった。

可愛い。

「ぎゅうしたいくらい可愛いですよ、ウィゴ様。ジュジュちゃん、体調は良くなった?」

シバがウィゴをからかいながらにこにこしている。

「はい。もうすっかり。ウィゴ様にあんなことを言っておいて、自分が熱を出してしまいました」

「本当だよ。私の方こそ君の足を拭いてあげるべきだったねえ。気になってたんだよね、結構濡れてたみたいだったから」

「いえ、遠慮します」

過ぎたことだが一応きっぱりと断ってから、お兄さんに挨拶した。

来たのは私なのに、立ってくれている。


「お早うございます」

「お早う。元気になって良かったね。ジョエが昨日、熱は下がったけど恐ろしいものに監禁されてるとか言ってたけど」

優しい笑顔だったお兄さんが心配げに首を傾げると、シバが声を立てて笑った。

ああ、ぽかぽかのこの場所でシバの明るい笑い声が聞こえると、本当に気分が良くなる。

「姫様だろう?昨日ねえ、私達もお見舞いに行きたかったんだけどね。きっとジュジュちゃんの寝室には何人たりとも入らせては貰えないだろうと思ってね」

「そうですね。私ですら入らせて貰えませんでしたから」

3人がきょとんと固まって面白かった。

「寝室に入ると本を読むだろうと言われて。監禁の上に監視されてました」

お兄さんとウィゴが納得した顔をして、シバが堪え切れないと言った様子で苦しそうに笑っていた。


「面白いね、君の姫様。やっぱり昨日行ってみたら良かったな」

「シバ様とのやり取りを見てみたかった気もします」

シバがまた吹き出した。

「私と姫様を?」

「はい。良い勝負になりそうな感じが。でもやっぱり、向こうが諦めた感じで引くでしょうね。笑顔で嫌味を言いながら」

「そうなんだ。じゃあお見舞いは可能だったね」

シバが笑い続ける。

「君の所の姫様はそんなに強いの?シバ様と渡り合えるなら、城でも怖いものなしだよ?」

お兄さんが若干怯えた感じで会話に入って来た。

「え?そうなんですか?」

シバに尋ねるが、面白そうに笑っているだけだった。

「そいつ、滅茶苦茶性格悪いからな。騙されてるんだぞジュジュ」

「あ、酷いですよウィゴ様。ジュジュちゃんは私のこと優しいって言ってくれてるんですから。ねえ」

シバがわざとらしい甘い顔で私に微笑む。

「そうですね。あ、分かりました。あれですね。私が授業を受けたシバ様が城での姿なんですね。あれは酷いです」

シバが顔を面白そうなものに戻した。

平然と表情を変えるところはよく考えれば怖い。

兄さんなんかシバの手にかかれば赤子同然かも知れない。

兄さんも本心を隠し笑顔を作ってはいるけど、私を拒絶する空気が滲みだしているもの。

「やっぱり、うちの姫じゃシバ様には太刀打ちできそうにありません」

「そう?君をあんまりいじめる様なら叱りに行ってあげるからね」

そう言ったシバの目は、やっぱり優しくて、この優しさが作られたものだとは最早思えなかった。

優しくて明るいシバも、嫌味で恐ろしいシバもどちらも本当の姿なのかもしれないけれど、私には結局いつだって優しいシバだ。

「うーん。いつお願いすれば良いのかよく分かりません」

シバがあははと笑った。

「そうだね。いつ行っても良さそうだけど、私が口を出すのはもうちょっと待とうかな。まだ頑張れるもんね?ジュジュちゃん」

頷きながらも恐らく情けない顔をしていた私の頭を、シバがぽんぽんと撫でてくれた。

ああ、シバに兄さんへの恋心を話しても、笑って貰えるだろうか。


「姫のせいで、宿題は全く出来てません」

「堂々としてるね。宿題を忘れた生徒はもう少し悪びれるべきだよ?罰を受けたいの?」

シバが顔を寄せて来た。

「止めろシバ!」

ウィゴの声に一応シバが止まった。

「忘れた訳じゃありませんし、今日はお兄さんが先生でしょう?罰ならお兄さんから受けますから。シバ様は剣のお稽古に行かれて下さい。ほら、あっちに」

寄って来るシバの身体を腕を突っ張って押すと、シバが不貞腐れた顔を作って私の鼻をつまんだ。

「言いたい放題だね。セイの様な天才的な才能は持たないけど、君程度なら私でもまだ十分教えられるんだよ?君の専属教師になってあげようか?」

「絶対嫌です。シバ様に教わってたら勉強が嫌いになるのは確実ですから。離れて下さい、お兄さんが困ってます」

後ろに下がりすぎて、お兄さんが私の背中を本で押している。

シバがやっと身体を起こした。

「ホント失礼な上に、からかい甲斐がないったら」

「じゃあ、からかわないで下さいよ」

「ジュジュちゃんが可愛いのが悪いんだよ」

笑いながら私の眉間のしわをつつくシバにうんざりしていると、後ろからお兄さんの呟きが聞こえた。

「これじゃ怖いシバ様の想像はつかないよ」

そうなんだ。あの鬼教師姿よりもっと怖いんだ。

シバの明るい笑顔の裏に、底の知れない恐ろしさを見た気がした。





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