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47 凄く恥ずかしいんだよ


「あの、シバ様」

「うん?」

剣を振るウィゴを眺めていたシバが、優しい茶色の目で私を見下ろす。

「ロウエンのことでお聞きしたいことが有るのですが、よろしいですか?」

「いいよ?と言っても私が答えられることかどうかは聞いてみなければ分からないけど。どうぞ」

「ロウエンの言語についてなんですけれど、ジュジュと言う言葉の意味をご存じですか?」

シバが嬉しそうに笑った。

「知っているよ。『可愛い人』だろう?愛しい相手に呼びかける為の言葉だよね。どうして?もしかして知らなかったの?」

そうか、本当の事だったんだ。ホッとして頷くと声を上げて笑われた。

「ああ、それで子供ではないはずなのに、私が呼んでも反応が悪かったんだね?」

「あ、では、私を名前で呼ばれていたのはからかってらっしゃったんですね?」

そうと気付き軽くシバを睨んだ。

「いやあ、私の魅力が通じないのかと思って結構ショックだったんだよ?良かったよ」

ショックと言いながらかなり笑っている。

「本当に人をからかうのがお好きですね」

うんざりと呟くと、頭をぽんと叩かれた。

「ごめんごめん。懐かしい言葉だったからさ、口に出してみたくなっちゃって」

シバを見上げると微笑まれた。


「私も幼い頃、祖母にそう呼びかけられていたんだ。懐かしくもなるだろう?」

考えてみれば当然の事かもしれないが、意外で驚いた。

目を丸くしているとシバが続けた。

「でも、人名に使う言葉ではないよね。ロウエン国外だからこそ出来たことかな。君は両親に愛されていたんだね」

首を振る。

「ここに入る為の偽名です」

「そう。君がこの言葉を知らなかったと言うことは、その仮の名を付けたのは」

シバが言葉を切った。

「はい。兄です」

「それは興味深いね。今彼は君にそう呼びかけているの?」

「はい」

シバが面白そうに笑う。

「そうなんだ。彼に意味を教えて貰ったのかい?」

「いいえ、図書館でロウエンについての本を見ていたら、教えてくれた人がいて」

シバがふうんと眉を上げた。

「兄さんは意味を知っているのかな」

「おそらく知っていると思います。でも分かりません」

「そう。君の両親が君にそう呼びかけていたのを聞いていて、君の本名だと勘違いしているとか、色々推測も出来るけど、意味を知ってて君をそう呼んでいるのならよっぽどだね」

意味が分からずシバを見上げると、声を上げて笑いだした。


「『ジュジュ』って、凄く凄く恥ずかしいんだよ?例えばこんな風に使うんだ」

シバが突然私の頬を両手で挟み、自分の鼻先を私のそれにくっつけた。

「え?」

とっさに身体を引いて離れようとしたが、全く動かなかった。

シバの手はジョエのものより細く骨ばっていたが、同じように熱く力強い男性のものだった。

顔が近すぎて、シバの瞳の中に自分の顔が映り込んでいるのが見える。

「ああ、私のジュジュ!なんて可愛いの!」

そう、やけに高い作り声で叫んだシバが、私の顔から手を放し、今度はぎゅうと力いっぱい私を抱き締めた。

予想できなかった事態に胸がばくばくと音を立てていた。

「シバ様!放してください!」

シバの固い上着の中でもがくと、更に強く締められた。

「もう、照れちゃって!大好きよ、私のジュジュ」

まだ小芝居が続いていた。最後は髪に口づけられる。

「シバ!」

ウィゴの怒鳴り声が近くで聞こえ、シバの腕が緩んだ。

シバの胸を強く押し、ようやく距離を取ることに成功した。

「何をやってるんだ!」

「まあまあ。落ち着いて下さい、私のジュジュ」

シバが憤るウィゴにそう言って頭を撫でる。

「はあ!?」

「間違いました」

「はあ?」

ウィゴが勢いを失した。

「ね?ジュジュちゃん。私はウィゴ様を好きだけど、これだと違和感があるんだよ。大抵は幼い我が子や孫へ向ける、物凄く恥ずかしい言葉な訳。さっきのは私が祖母にされていた事」

ばくばく言い続けている胸を押さえ、息を吐く。

「そうですか」

妹には使うのだろうか。それにしても強烈だった。

「後は勿論、愛し合う男女間でも使われるけど、それは聞いていて周りが物凄く恥ずかしい種類の言葉な訳だよ。もう、ベッドの中でやってくれって言いたくなるような。分かる?祖母が祖父に対してやっていたのをジュジュちゃんにやってあげようか?」

「結構です」

そう言う場面を目の当たりにしたことがないので良く分からなかったが、嫌な予感がしたので強く拒否した。

「なんだ。やりたかったのに、残念だな」

シバが非常に楽しそうだった。






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