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44 家族の色だよ


「お前のいた場所は何処だ。何故お前を差別する?」

ウィゴが私に尋ねた。

「ロウエンとの国境から程近い場所です。両親が亡くなる前は、その街から少し離れた更にロウエンに近接する田舎にいた様ですけど、おそらくそこでは生きて行けずに兄が私を連れてその土地に移ったんだと思います」

「兄さんに聞いた話じゃないんだね?」

シバが私に尋ねるので頷いた。

「ええでも、その地に知り合いもなくそこが馴染んだ土地ではなかったことは憶えていますし、ジョエがそう言っていましたからおそらく兄から聞いていたんだと思います」

「君ら兄妹は本当に会話が足りないみたいだね」

「そうですね。私もそう思ってました」

溜息を吐くと、シバが苦笑いして私の頭を軽く叩いた。


「差別のない土地に移れば良かったんじゃないのか?」

ウィゴが再び尋ねた。

「ウィゴ様、食えなくて死にそうだったんですよ?長旅が可能な蓄えなどある訳はないし、死にそうなのに歩ける訳もないでしょう?幼い兄妹に生まれた地から遠く離れることが可能だったとは思えませんよ」

ウィゴが口を引き結んだ。

「うーん、そうですね。それが一番だったと思いますけど、多分子供で、あと、田舎で、無知だったので思いつきもしませんでした。この髪色の差別意識が土地柄によるものだとは知らなかったんです。どこに行ってもあんなものだと思っていました」

シバが私を見て笑う。

「兄さんは成長し、それに気付いて街を出る手立てを見つけ、ここに来たんじゃないのかい?ここは君の容姿にも優しいだろう?」

ああそうなんだろうか。そうかも知れない。

「はい。皆が私に優しくて驚きました」

「ロウエンとの争いはこちらの先愚王が陣取りゲームの様な感覚で始めたものだったからね。離れた土地の者は、ロウエンの民に対しても気の毒だったという感情しかないだろうけど、そんなくだらない戦で戦場にされて多くの命を失った地の者達の怒りがロウエンに向かっているんですよ。ウィゴ様、ジュジュちゃんに謝罪しましょう」

シバがウィゴに言った。

「え?待って下さい!ウィゴ様は関係ない、」

私の言葉を無視し、シバがウィゴの頭に置いた手で彼の頭を軽く下げさせ、同時に自分も頭を下げた。


「王族は簡単に人に頭を下げることは出来ないから、友として国がしたことを君に謝罪するよ。申し訳なかった」

頭を下げたままそう言ったシバが、促すようにウィゴの頭を揺すった。

「ロウエン人に対する差別も、お前らが育ったような荒れた場所がこの国にあることも知らなかった。ごめん。以前お前に言われた様に、国の隅々まで目が届き、子供が飢えない国にする。頑張る」

「ありがとうございます」

二人より低く膝にぺたりとつくぐらい頭を下げてお礼を言った。

顔を伏せた二人と目が合いシバが笑ったのにつられて、3人で笑った。


「シバ様も王族だったんですね。ウィゴ様と似ていらっしゃるからそんな気はしてましたけど」

顔を上げたシバの茶色の目を見ながらそう言うと、にこっと笑われた。

「そう。ありふれた色だけれどね。ウィゴ様とお揃いだろう?」

シバに持ち上げられた自身の真直ぐでサラサラの髪は、色の濃さは多少違えども確かにウィゴの短いそれとよく似ていた。

優しい茶色の瞳もお揃いだ。

ウィゴが若干嫌そうにシバを見る。

「髪色は違う」

不貞腐れるウィゴの頭をシバがかき回す。

「子供の証拠ですよ。出来上がりはともかく、私も王達も子供の頃はあなたと同じような薄い色でしたよ」

出来上がりって、パンの焼き色みたい。最終的な色合いは人それぞれだと言うことだろう。

「いいですね。家族だという感じがして」

シバがにっこりと笑う。

「でしょう?でも、君の色も僕たちには家族の色だよ。ねえウィゴ様」

「え?」

良く理解できず、首を傾げるとウィゴが頷いた。

「うん。お前の目の色は父上やおじい様達と同じだ」

「え?」

もう一度聞き返すとシバが楽しそうに笑った。

「私にとっても君の持つ色はとても馴染み深くて懐かしいものだよ」

「それではウィゴ様とシバ様の茶色は」

シバが当たり、と言う顔で朗らかに笑った。

「そう。ロウエンの色だよ。ウィゴ様は面識がないけれど、曾祖母がロウエンの姫だったんだ。私には祖母にあたる。君と同じ色を持つ優しくて暖かい人だったよ」

驚いた。私はあんなに差別されてきたのに王族の妃にロウエン人がいたなんて。

「知らなかったんだね。先先代の王弟妃だからね。新王が立つまで歴史に名が残るなどとは思われていなかっただろうね」

そうか。新王は先先代の王弟の孫だ。勉強したいなどと言っていたのが物凄く恥ずかしい。

「そうですか。知りませんでした。自国の事なのに恥ずかしいです。ロウエンとの関係が悪くなる前だったのですね」

シバが笑いながら首を振った。

「君がこの国のことに興味がなくても責められないよ。わざわざロウエンを持ち上げる様な話題の出る土地ではなかっただろうしね。まあでも、学校でも教えていないと言うのは問題だね。教師の質も悪そうだな」

そうだとしても恥ずかしかった。

「その方が素晴らしい方だったからこそ、ここの方達は私に優しいのですね」

シバが嬉しそうに微笑んだ。


「王族の歴史は教えてやれるぞ。一緒に勉強するか?」

私の顔を覗き込んだウィゴの年相応の得意げな顔が可愛くて微笑む。

「ありがとうございます」

「王家の秘密まで教えちゃ駄目ですよ。ジュジュちゃんが危険な目に遭いますからね」

「教える訳ないだろう?俺だってそのくらい分かる」

面白そうに笑うシバに一応尋ねる。

「もう、今更な気が多分にしますけど、私大丈夫ですか?そう言えば面倒事にはかかわりたくなかったはずなんですけれど」

「面倒ってなんだよ!無礼だぞ」

シバが声をたてて笑った。

「本当に今更だよ。次期王と現王の従弟に気に入られて、今更どう大丈夫なのさ」

シバの言葉を受けげんなりする私に、不安そうな顔のウィゴが言った。

「後宮が閉じられたら俺の侍女になるだろう?命令だぞ」

「疑問形の命令ですか?威厳が感じられませんよ、ウィゴ様」

シバにからかわれウィゴが不貞腐れる。

「ジュジュは威張る奴が嫌いなんだ。命令すると来ないかも知れないだろ」

「してるじゃないですか」

笑い続けるシバを睨んだウィゴが、私に視線を戻して言った。

「命令はしないけど、来て欲しい。考えておけよ」

真剣な顔を見せる可愛いウィゴの嬉しい台詞に、思わずきゅんと胸が疼いた。

「ありがとうございます、ウィゴ様。今の、恰好良かったですよ。きっとそれでお友達いっぱいできます」

「ちゃんと考えとけよ?」

念を押された。

「はい。兄にも相談してみます」

そう言うと、可愛らしい真剣な面持ちのまま頷いた。

本当に可愛いなあ。

シバも同じように思っている様で、ウィゴを見ていた視線が私と合うと優しく微笑んだ。






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