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25 まだ可愛いから許されますけど

「毎日同じようなことを言ってるのになあ。どうして私の言うことは素直に聞けないんですか?」

呆れたシバの声が背後から降って来た。

慌てて振り返ったウィゴが赤い顔で怒鳴る。

「お前!盗み聞ぎしてたのか!?最低だぞ!」

シバが悪びれず笑う。

「聞かれて困るような話じゃなかったでしょう?ジュジュちゃん、ついでに机上の勉強の方のやる気も出させてくれない?脱走癖が酷いんだよ」

「そうなんですか?」

ウィゴを見ると、不貞腐れて横を向いてしまった。

「それも勿体ないですよ?賢くなることも強くなることです。胸糞悪い奴らに良いように操られて陰で馬鹿扱いされたくないのでしたら、ちゃんと勉強しなくちゃ駄目ですよ」

シバが笑った。

「そうですよ。ジュジュちゃんの言うことならちゃんと理解できますね?」

自分も再三言っているが、という体でシバが言った。


「私は今せっかくお城の図書館を利用できる状況にあるので、この機会を無駄にしない様に、出来る限り知識を増やそうと思ってます。大好きな人を守れるように、悪賢い奴らよりもっと賢くなろうと思って」

ウィゴが顔をこちらに向けた。

「大好きな人って?」

「そこですか?」

シバががっかりした声を上げる。

「家族みたいな人です。ウィゴ様も好きな人いらっしゃいます?守りたい人」

ジョエ以外に私を抱き締めてくれる唯一の人であるおばさんを思いながら、ウィゴに微笑みかけた。

ウィゴが考える。

「父上は好きだけれど、俺が守る様な方ではないし。後は、」

言い淀むウィゴにシバが助けの手を伸ばす。

「アビーとノエは好きなんじゃないですか?」

ウィゴがああと視線を上げた。。

「乳母とその娘」

シバの説明を受け頷く。

「陛下やシバ様ならご自分でも力をお持ちだし、周りに頼れる味方も多くいらっしゃるでしょうけれど、乳母様やそのお子様であれば何かの時ウィゴ様を頼りになさるでしょう?その方たちをウィゴ様も守ってあげたいですよね?」

ウィゴが膨れた。

「俺は王子だぞ。勉強なんか関係ない」

苦笑して首を傾げた。シバもウィゴを見下ろし苦く笑っていた。

「そうでしょうか。ウィゴ様が賢くなく弱いままだと、何からも守れないと思いますよ。えーと、例えば滅茶苦茶性格が悪くて変態で汚らしい権力者にノエ様が気に入られたとしますでしょう?」


ウィゴがその例えに、何を言い出すんだと言う顔をした。

「そういった類の、ウィゴ様がお好きでない輩がいますか?」

シバに尋ねるとにっこりと答えてくれた。

「ゾイルあたりかな」

「そのゾイルという男が、もしノエ様を気に入ったりしたら、ノエ様は権力者に逆らえず従うしかない訳です。そのままでは妻か妾と言う名の奴隷にされ、虐げられ心を病み自害されるに違いありません」

「言い過ぎ言い過ぎ」

シバが私を注意し、ウィゴが忌々しげに唸った。

「そんなことは俺が許さない。お前無礼だぞ」

「すみません。でも、ウィゴ様が今のままで嫌だ駄目だと言ってもきっと、ゾイルやその他の醜悪な奴らは、悪賢く卑怯な手で自分の欲望を叶えるはずですよね?そう言う汚い策略に長けているからこそ醜悪なのに権力者なのでしょうから」

ゾイルと言う輩のことなど何も知らないが、そう言う奴らは腐るほどいる。

力も地位もない私達は、腸を煮えくり返らせながら横暴に耐えるしかないのだ。幸いウィゴには地位がある。

「対抗できる賢さと力を持たなければ、地位だけで大切な人全てを守ることは出来ないと思いますよ。私も何かあったときウィゴ様を頼りたいです。頑張って賢く強い王子様になってください」

ウィゴがしばらく私を見つめて、目を逸らした。


「今は馬鹿で弱い王子だから頼れないってことだな」

「あれ、ようやく自覚しましたか?」

シバがからかい調子でそう言うので軽く睨みつけた。

「これからで良いんですよ。まだお小さいんですから」

「小さくない!」

シバを非難したつもりがまた裏目に出たようだ。

今までの無礼も咎められない様だし、それ程気を使わなくてもいいのだろう。

「そうですね。もう子供じゃないですよね。だからさぼっちゃ駄目ですよ?そんなことしてたらすぐに、大きいのに馬鹿で弱い王子になっちゃいますからね。今はまだ可愛いから許されますけど、そうなってしまったら最悪ですよ」

ウィゴが赤い顔で私を睨んだ。思わず頭を撫でてよしよししようとすると、ばしと叩き落された。

「子ども扱いするなって!」

「では早く賢く強くなってください」

「しつこい!分かったよ!真面目にやればいいんだろ!」

ウィゴが子供らしく叫んだ。


「お姉ちゃんのおかげでやる気がでました?国民を守るどうのこうのは、まだ早すぎましたね、ウィゴ様」

不貞腐れるウィゴの身近な人を守りたいという気持ちが、国民へ向けるものへと育ってくれることを願う。

私達の様な底辺の子供たちが、飢えに苦しまなくて済むような国を作って欲しい。

「ウィゴ様の素直な可愛いところを潰さないで下さいね。子ども扱いされてからかわれるのも、度が過ぎるととてもきついですから。捻くれちゃいますよ」

楽しそうにウィゴをからかうシバにそう苦言を呈すと、苦虫を噛み潰した様な顔をした。

「気を付けるよ」

小娘に意見されて腹も立てず、反省していると分かる素直な表情を見せるシバに、この人が側にいればきっとウィゴは良い王子になるだろうと思えた。







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