18話 学園祭会議
あとがきに重大告知あります!
かくして、エルメスが学園に留まることを決めてから数日。
最初の二日と比べれば波乱のない、平和な日々が続いていた。
Bクラスにおけるエルメスに対する扱いは、彼を蔑んでいた筆頭だったアルバートがあの日以降奇妙に沈黙している。
そのため他のクラスメイトもどう扱っていいか分からず、相変わらす浮いてはいるものの露骨な侮蔑は無くなっている状態だ。
数日間は、Aクラスとの魔法演習もなく。ある意味で粛々と、安定した日常が続き。
──けれど、この学園。そしてエルメスという存在がいる以上、それで済むはずもなく。
週明けの初日。
エルメスはとある用事で、サラについていく形で廊下を歩いていた。
先を歩く彼女の顔に浮かぶのは、緊張の一色。
それもそうだろうと思いながら後を追い、とある扉の前に立って。
一つ深呼吸をしてから──扉を、開け放った。
「──やぁ、Bクラスの諸君」
出迎えたのは、無駄に爽やかな声色。
以前のことなど無かったかのように、表面上はにこやかな笑みを浮かべて。
けれどサラに向ける目線は執着を、エルメスに向ける目線は憎悪を感じさせる。
そんな男子生徒──クライド・フォン・ヘルムートは、後ろにカティアを伴った状態で場を支配するように手を広げ。
「それでは始めよう。──来たる学園祭に向けた、クラス代表者会議をね!」
そういうわけなのだ。
この魔法学園は、来月に学園祭が開かれる。仮にも貴族子弟の晴れ舞台なので、比較的多くのしかも立場の高い人間が訪れる一大行事だ。
そしてこの学園では通例として、学年単位で出し物を行なっている。
故にその出し物の内容を詰めるために、両クラスのクラス長と学園祭代表者を加えた計四人での話し合いが開かれたのである。
ちなみに、何故そんな場に編入一週間程度のエルメスがいるのかと言うと。答えは単純、他に誰もやりたがらなかったからである。
それもそうだ。……考えてもみて欲しい、学園祭代表者になればこの会議に参加できる、つまり自分の意見を通すことができる──
──わけでは、断じてないのだ。少なくともBクラスにおいては。
だって、この学園で。学年単位──つまり、AクラスとBクラスが合同で出し物をする上で。
Bクラスの意見など、受け入れてもらえるはずがないだろう。
実際過去においても、基本的にこの手の出し物はAクラスの提案そのままになり、Bクラスはその下準備等の手伝いを一方的に押し付けられるのがある種の慣例となっている。
そんな会議に参加し、しかもAクラスの嘲弄を真っ向から受ける役割など誰もやりたくはないだろう。
よってエルメスにその役目が回り──否、押し付けられたと言うわけである。
「……しかし、あれだね」
以上の理由からここにいるエルメスに、クライドが嘲りを隠さない視線を向けてくる。
「Bクラスの人を見る目は大丈夫かい? こんな編入したばかりの得体の知れない人間を代表者に据えるだなんて。これでは何が起こるか分からない、そもそも同行させられるサラ嬢が可哀想だ」
「……」
「サラ嬢、ご安心を。自分勝手な意見には惑わされず、僕と貴女の二人で有意義な話し合いをしていきましょう」
サラに向けてのみにこやかな表情を浮かべるクライドだが──よもやこの男、以前の昼休みの件でサラが言った言葉を覚えていないのだろうか。
「……四人で、です。わたしはエルメスさんも、カティア様も信頼しています」
控えめにしっかりと返答するサラにクライドは不機嫌そうな顔を浮かべ、更に何事かを言おうとするが。
「──クライド、早く始めなさい。会議の時間も無限じゃないのよ」
見かねたカティアが口を挟み。クライドはそれを受けて気分悪そうにため息をついた。
そうしたいのはこちらだ。
「……まぁいいさ、始めよう。──それじゃあ僕の提案だ」
彼はある意味驚くべきことにすぐ気を取り直すと、宣言通り会議を始め、すぐに自分の提案を告げる。
まるでその案が通ると疑っていないかのように。いや、実際そうなのだろう。
「僕は常々、AクラスとBクラスはもっとお互い交流するべきだと思っていてね。謙虚にお互いを思いやり、尊重し合ってこそ良好な関係を築けると思うんだ」
「……」
例によって微妙に的の外れたところから始まるが、そこを指摘すると面倒になると分かっているので今は大人しく聞き流す。
「そしてここは魔法学園。やはり出し物は魔法に関連するものにするべきだろう。そこで僕は考えた、学園祭に来てくださる方に我々の研鑽の成果を見せ、かつAクラスとBクラスがより密接に交流できる案を。すなわち──!」
そしてようやく本題に入ると、クライドは自信満々に、その案の内容を告げてきた。
「──Aクラス対Bクラスの集団魔法戦だ。どうだい?」
「……」
そうきたか、と思った。
あまり嬉しくない話だが、クライドがこの案を考えるまで至った経緯は大凡見当がついてしまった。
多分クライドは今、先日の合同魔法演習の一件が響いてクラス内での信頼を失いつつあるのだろう。
今回の提案は、その補填。クラスメイトに良い気分を味わわせて信頼を取り戻す。……詰まるところご機嫌取りだ。
大勢の貴族たちが観に来る大舞台で、自らの魔法を存分に発揮してBクラスの魔法使いたちを叩きのめす──なるほど、Aクラスの連中にとってはこの上ない快感、自己承認欲求を満たすには持って来いの場所だろう。
それに、とエルメスはクライドを見やる。
彼の顔に浮かぶのは自信と、確かなエルメスに対する敵意と愉悦。
──集団戦なら、他のクラスメイトたちと協力してエルメスを潰せる、と言う本音が透けて見えていた。
「……何故集団戦なのでしょう。一対一を繰り返す案は無いのですか?」
「それでは見応えがないよ。あくまで出し物だ、観にきている方々を楽しませるものにしなければ」
「クラス対抗である理由は? 実力を合わせての混成チームでは駄目なのでしょうか」
「クラス間の団結が深まらないではないか! クラス内で力を合わせて、クラス間で正々堂々戦う。これでこそ正しい交流ができると言うものさ!」
流石にこれくらいの質問は予期していたか、すらすらと予め用意しておいた回答を並べ立てるクライド。
「そもそも従者くん、どうして混成チームなんて案が出てくるんだい。……まさか、普通にやったら絶対にBクラスが負けるとでも考えているのかい? クラスメイトの実力を信じることもできないんだね、なんて嘆かわしい!」
よくもまぁこんな白々しい台詞を吐けるものだ。
誰よりもBクラスの敗北を疑っていないのは他でもないお前だろうに。
……だが。
「エル」
そこで、これまで後ろで見守っていたカティアがエルメスに向かって声をかける。
何か自分に不都合なことを言われるかと思ったクライドが声をあげて静止しようとするが──
「カティア嬢! 最終決定権は僕にある、あまり場をかき乱す──」
「黙ってなさい。エル──気付いてる?」
一言で黙らせると、彼女は端的に確認してきた。
その意味を正確に把握して、エルメスも頷く。
ええ、気付いていますと。
──これは、チャンスだ。
なるほど、確かにクライドの提案は見事なものだ。Aクラスでの信頼を取り戻し、エルメスに対する私怨も晴らせるまさしく一石二鳥の案だろう。
だが、あくまでそれは。
絶対にAクラスが勝つ、という前提の下での話に過ぎない。
故に、これはチャンス。
この学園に蔓延る固定観念を打ち壊す好機であり、エルメスのこの学園を見限らない判断が正しかったのか確かめる機会。
彼は、合同魔法演習等を通しての魔法や技量の分析。
そしてこれまでの経験から、こう予測している。
もし、彼の所属するBクラスが、以前のアルバートのように考えを変えることができたのなら。
真摯に、魔法を学ぶ姿勢を取り戻すことができたのなら。
──Aクラスの勝利は、必ずしも絶対のものではない。彼らの努力次第では、ひっくり返せるものだと。
だから彼は、まず隣のサラに確認をとる。
エルメスをよく知る彼女も、彼の考えに行き着いたのだろう。あなたができると思うのなら、と頷いてくれたので。
「……分かりました。貴方の提案でいきましょうか」
決意と期待を胸に、エルメスはクライドにそう返答し。
ここに学園祭の出し物──Aクラス対Bクラスの魔法対抗戦が、決定したのだった。
というわけでいよいよ、二章メインエピソードの一つにして学園もののド定番──
クラス対抗戦編の、スタートです!
是非、楽しんで頂けると嬉しいです!
以下、ちょっと長めだけど重大告知!!
本作「創成魔法の再現者」ですが、皆様の応援のお陰で──
書籍化&コミカライズ、現在企画進行中です……!!
皆様がたくさんこのお話を読んで、評価して頂いたおかげで目標の一つに辿り着けました。本当にありがとうございます!!
レーベル等詳しいことは追々活動報告等で明かして行けたらと思っています。
つきましては、書籍化作業に伴うこれからの更新頻度について。
まず、本話から始まるクラス対抗戦編ですが、ここまではほぼ流れが決定しているので恐らく毎日更新を続けていけます!
その後の二章後半以降は、ひょっとすると毎日更新は厳しくなるかもしれません。けれど出来る限り高頻度で行きたいと思っています……!
お話を楽しみにして下さっている皆様をお待たせするのは心苦しいのですが、その分より良い本作を書籍やコミックの形でもお届けできるように頑張ります!
これからもどうか「創成魔法の再現者」を応援して下さると嬉しいです!
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