40層に向けて
「納得いきません!」
バンと音を鳴らして机を叩くナナカ。怒ってますと言わんばかりに読んでいた記事の画面をバシバシと叩きながら文句を言う。
周りでその様子を見ていた俺達は記事の内容をだいたい予想できていたし、ナナカがぷるぷると怒りを堪え出したあたりから退避していたので被害はない。
「なんで、ツキヤさんの評価が3.8なんですか! 調子が悪かったのはありますけど、しっかり役割は果たしていたじゃないですか!」
10点満点で評価されるその記事では、今回凛花が9.2点で最高得点。フィルが8.1で二番目、ナナカが6.8で、ミナトが6.2、そして俺が最下位で3.8の評価だった。ちなみにプラバスタとアルブも含めての最高点はサディの9.4だ。
評価としては妥当なところだろう。凛花の与えたダメージや貢献度は誰もが認めるところだ。フィルは今回バフアイテムと攻撃手段を手にして活躍した。ナナカはヒールを切らさずヘイト管理も問題なかった。ミナトは最後に少しやらかしはしたが、魔法によるダメージは一発が大きかったのでダメージ量はそれなりに出している。
なら俺は?確かに元から決めていた役割はなんとかこなした。だが、それはこのメンバーだから割り当てられた役割であって、俺の位置に別のプレイヤーが入れば俺以上の活躍をしただろう。
それに今回はフィルがバフアイテムを手に入れたことにより、俺の支援魔法の必要性も少なかった。過剰なバフは動きを鈍らすし効果も一定以上になれば実感は減る。
周りを見ると自分でなんとかしろと言わんばかりの視線を向けられる。この状態のナナカを一人で宥めろと。
普通に宥めて落ち着くとは思えないし、俺もそこまで口が上手いわけでない。だったら少し抑えつけるしかないか。それもあまり得意ではないんだけどな。
「ナナカ」
「ツキヤさんもたまには直接文句言ってやりましょうよ! いつもいつも評価低くしてなんの恨みがあるんだって!」
別に不当に低い評価をされているわけではない。専門職の持つスキルが無い分、どうしても物足りなさが出てしまう。器用貧乏なプレイヤーが本当に活躍できる場面というのはそう多くない。
「完全に間違った評価じゃない。それは分かっているだろ」
「そ、それは……」
「俺もこのままでいるわけではないさ。結果を見せつけて評価を変えてみせる。だから、今は大人しくしていてくれ」
「ツキヤさんがそういうなら、私待ってます!」
やるべきことはわかっている。まあ、それが簡単にできれば苦労はしていないんだが。
でも、こうやって期待の眼差しで見られると、それに応えないといけないと思える。自分のためにも、ナナカのためにも、このメンバーのためにも超えなければいけない。
「36層からもモンスターの傾向は変わらないから40層はこのままでは苦戦するだろう。道中はダメージ覚悟で倒せばサクサク行けるだろうから40層にはすぐ着く。対策を考えないとな」
雑魚敵のようにHPが低ければすぐに倒せるから良いんだけどな。さすがに35層でもあれだけHPがあったから、40層のボスも一筋縄ではいかないだろう。
「策はあるの? 私のバフアイテムはミナトがもう少し揃えてくれるだろうけど、それだけで好転するとは思えないわ」
「私もあの機動力だとさすがに火力を出すのは難しいかな」
数レベル上がってアイテムも増えたとしても、リィンヴァルコよりボスも強くなるだろうから、差が埋まるよりは離される可能性の方が高い。
このままいけば、40層では初の足止めを食らう可能性もある。プラバスタとアルブに先に行ってもらって情報を得たとしても、一発突破は難しいと思う。
小さな進展程度では次はないだろう。俺がその時までに成長できるかと言えば、それも怪しいところだろうし。
「まあ、手はある。そのためにも頑張らないといけないことはあるが、まずは置いていかれないようにダンジョン探索だな」
「準備に手をかけてばかりで階層が進んでないと意味ないですからね。進めるだけ進みましょう!」
人が揃っているときは探索メインなのは変われない。皆がアイテム整理など準備を始めたところで、ミナトについてくるように視線で訴える。
たった一枚壁を挟んだ廊下まで出れば部屋の中の音は全く聞こえない。設定で聞こえないようにしておけば音漏れがないのがこの世界の便利なところだ。一応、スキルやアイテムで防音効果を無効化して中の音を聞く方法はあるが、そんな系統のスキルを育てているプレイヤーは少ないだろう。聞かれると困る話なんてしてないから潜入されたとして倉庫のアイテムに被害がなければいいだけの話だ。
この防音効果のおかげで、ちょっとした話をするなら廊下にでるだけで良いというのは便利だ。部屋の中でも個人チャットを送れば話はできるが、声に出して直接話す方が手っ取り早い。
「次のボス戦、厳しそうならあいつらを使うつもりだがいいか?」
「それはどっちの確認? 私自身が引くことか、それとも準備のことか」
察しが良くて助かる。ミナト自身もその可能性については考えていたのだろう。
「一応両方だ」
「……問題ない」
「間に合いそうか?」
「間に合わせるのが私の仕事。でも、できれば途中で代わりたい」
「厳しそうならまた言ってくれ。時間はあまりないだろうからな」
「わかってる」
ミナトなら間に合わせてくれるだろう。無理そうなら早めに探索から抜けてもらえばなんとかなるだろうし。
どのみちいつかはやることならば、早めにやる方がいい。40層に到着するまでの間にぎりぎり間に合うだろう。それなら、勝率の高い方に賭けるべきだ。
ナナカに話せば反対するだろうから、直前までは俺とミナトの間だけで話を進めるが、皆にも協力してもらわないといけないから、凛花にはバレるだろうな。
「二人は準備いいの?」
「俺は大丈夫だ」「大丈夫」
準備が終わったのか廊下に出てきた凛花達と共にダンジョンへ向かう。
さて、やれることはやらないとな。




