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チームワークは

 倒れていくゴブリンの姿を見て、ゴブリンロードは焦ったように攻撃をしてくる。本当に焦っているのか、単純にタイミングよく攻撃してきただけなよかは知らないが、どちらにしろその攻撃を受けてやるほど甘くはない。

 わずかに減ったHPですらヒールによって回復される。完全なるワンサイドゲーム。蹴散らされた雑魚ゴブリンのように、そのまま攻撃はゴブリンロードまでも襲う。


 勝てるだろうとは思っていたが、これほどあっさりいくものなのか。レベルアップによるステータス上昇よりも、VRに慣れたことと装備、そしてレベルアップによってあの時よりも増えた補助魔法の効果が大きいだろう。素のステータスだけなら、先に外でレベル上げをおこなっていたアルブの近接組とそこまで大きな差はないはずだ。それでも、あの時のアルブよりもさらにあっさりと倒していると思う。

 俺の補助魔法とカグヤの精霊魔法による補助の効果で、若干自分でも追いつかないほどのシステムアシストがかかっている。


「敵将討ち取ったりー!」


 ゴブリンロードのHPを削りきってカグヤが剣を突き上げる。楽しそうでなによりだが、反省点もいくつかある。というよりも、カグヤが張り切りすぎてソウヤの邪魔をしていただけなんだが。


「途中何回かソウヤに攻撃あたってただろ。もっと周りを見て攻撃しろよ。ORDEALだと攻撃があたった衝撃とかで動きが止まったりするから事故るぞ」

「痛みはかなり抑えられているけど、ゼロではないもんな。でも、あれはこっちの攻撃に合わせられないソウヤも悪い」

「たしかに最初の方は俺の立ち回りも悪かったよ。でも、途中からちょっと狙いにきてたでしょ」

「えー。なんのことかなー。のろのろ動いているのが悪いんじゃない?」

「こっちは戦士だから素早さのステが低いんだよ。動けるならもっと速く動いているから」


 決して険悪な雰囲気ではなく、楽しそうに笑いながら言い合えるのは、前からの知り合いだからだろう。

 たしかにカグヤの攻撃はソウヤや俺に対してもあたるように放たれてはいたが、それが無駄かと言われれば無駄ではなかった。範囲でダメージを与えるために味方への被害も少しあったと考えられる攻撃だ。わざとやっているので褒められた行動ではないが、効率を考えれば無しではない選択肢でもある。

 それに、無責任に味方を巻き込んでいたのではなく、しっかり俺の回復が間に合うようにしていたので、互いのプレイに信頼があるからこその行動ともとれる。


「今の感じで抜けられるなら、案外効率良いかもね」


 ソウヤが自分のステータス画面を俺に見せてくる。5層に入る前の経験値から考えると、時間当たりの効率というのはかなり良い方だ。ごり押しで倒し切れる強さだったのも良かった。それに、ボス部屋の初期モンスターの数は固定のようだし、4層のマップはだいたい解析ができている。ここを周回してレベル上げをするのも悪くないだろう。ここまではレベル上げもせず邪魔なモンスターだけ倒して突き進んだが、それがどこまで通用するかもわからないし。


「じゃあ、ここでレベル上げするか。二人とも経験値三倍のボーナスアイテムはあるんだろ?」

「一時間のスクロールが10個あるから、今日はレベル上げ日和だな」


 さすがに今日で使い切るつもりはないんだが。レベルが上がってくれば効率も落ちるだろうから、途中でダンジョン進行に戻るつもりだし。


「とりあえず、いけるとこまでいこうか。ただ、疲れてきたら言うこと。プレイが鈍ってやられでもしたら効率もへったくれもない」

「最初の一時間くらいは余裕だろ。鈍足の誰かさんが付いて来れるかは知らないけど」

「は? どこかのリアルでは運動音痴な年増よりはマシだと思う」


 ゲーム内ではいつもならカグヤの方が実力は上だが、この世界だとどうなるんだろうな。現実でなら、単純な足の速さや持久力なんかの運動能力だと、ソウヤは俺よりも上だ。カグヤはやる気がないのもあるが、性別の差を考えても俺達と競えるような運動神経はしていない。

 現実の身体能力か、ゲームの腕前か。どちらがより反映されるのかは難しいところだ。システムアシストによって身体能力はカバーできる。逆に、実際に動いているような感覚で戦うので、運動ができるということは慣れへのアドバンテージになるだろう。

 別に白黒つける必要はないが、互いに競えるのであれば良い刺激になるだろう。


「なあツキヤ! 私はまだ若いよな!?」

「まあ、まだ24とかでしょ? 若いんじゃないですか」

「そうだよな! まだ23だけど、若いよな!」

「そうは言っても、俺達の7個上ですけどね」

「具体的な数字を言うな!」


 24と言われるのは良くて、7個上と言われるのはダメなのか。それとも、ちょっと馬鹿にしたように言われるのがダメなのかどちらなのか。

 いや、まあどっちでもいいけど。うるさい二人の背中を押してポートを潜る。もう十分休んだだろうから、これ以上ここで言い合っていても時間の無駄だ。


「じゃあ、4層から5層へのポートの位置候補を教えながらポートを探すから、マップを視界上でもウィンドウでもいいから開いておいて」

「はーい。一回目は先導よろしく」

「遅れないようについていくよ」


 さすがの切り替えの早さに少し呆れながら、俺もポートの位置を思い出しながら一つ目のポートがありそうな場所に向かって走り出す。

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