結果は
「まためちゃくちゃなことやったね」
「やりたくてやったんじゃねえよ。乗せられてやる羽目になったんだ」
わざわざ俺の前でこの間の対銃相手の試合の動画を見直して言う貝塚に少しイラっとする。
あれだけのプレイヤーが見ていて、中継もされていたので、あの試合が動画にならないわけもなく、五試合ともしっかりと動画になって残っていた。
「あれ銃弾見えたのか?」
「見えるわけないだろ。現実よりも遅いとはいえ、あの距離で視認できるほど遅くはなかったさ」
「そうだよね。やっぱりその感覚だけは俺には理解できないよ」
スポーツとかやっていればあると思うんだがな。それを無理やり引き出しているだけに近い感覚だから、難しい話ではないと思うが、人には理解してもらえない。
逆に、俺は理論付いて考える方が苦手だから、この感覚に頼るしかないのだけれど。
「銃の評価は一気に落ちたね。俺がORDEALをやることになれば、銃もありかなと思っていたんだけれど」
「銃に頼りきらなければいけるんじゃないか? サディのような移動系スキルと組み合わせたり、現実ではできないことと組み合わせたりすれば使えるとは思う」
銃そのものにシステムアシストは乗らないが、プレイヤーにはシステムアシストは乗る。武器に対するシステムアシストを捨てて、ステータス面に振り切れば銃そのものもそこそこの火力は出せるので、コストパフォーマンスさえ考えなければ使えるだろう。
他には、現実にはない魔法なんかと組み合わせたりとかな。よく漫画とかゲームでは魔法銃なんてものがあるが、そういった機構を作り出せば使えるだろう。弾丸並み、もしくは少し遅いくらいの速度で魔法が飛ばせれば、今よりも魔法をあてやすくなって良いとは思う。ヘイト管理がかなり難しそうな気もするが。
「それ単体に拘るのではなくて、せっかくのファンタジーな世界なんだから、ファンタジーな部分と合わさればいいってことだね。その組み合わせを見つけ出すのは大変そうだけれど」
「そういうのはやりたい奴にやらせておけばいい。楽しみ方なんて人それぞれなんだから、作る側と使う側が分かれたって、関与しない奴がいたっていいからな」
「欲張るのではなく、自然な流れでこそ良い結果は生まれやすいか」
今回も作るまでは良かったんだ。もっと控えめに売り出すか、商売に慣れ親しんだ奴に頼めば良かったんだ。
俺達が潰したような感じにはなっているが、放っておいても客からのクレームで潰れるか、職人連合あたりが潰していただろう。
「今回は、銃も製作の元が取れるくらいには売れたみたいだから、結果としては損をした人はいない良い結果だったのかもね」
評価が落ちたとはいえ、銃そのもののスペックは現実から少し落ちた程度のものだ。全く使えないわけではないので、ロマンを求めるなら買う奴だっている。
「君がまた人外な評価をされた以外はね」
「それに関してはもう諦めた」
あの試合が動画になったことで、同じようなことをしようと試みたプレイヤーは少なからずいた。
凛花がインタビューで答えた銃弾の見切り方を参考に、何度も死にながら試したプレイヤーが出した結論は、防ぐことは頑張ればできるが、銃弾を切ることは無理ということ。
俺だってもう一度やれと言われればできるかはわからない。あの時の感覚にさえもう一度入れればできるだろうが、同じ感覚にもう一度入れるかは状況次第だ。
「ORDEALって面白いか?」
貝塚の急な質問に、何言ってるんだと顔を覗くが、いつものように澄ました顔でこちらを見ている。
何が本心なのか知りはしないが、その問いの答えならば決まっている。
「面白いよ。あの世界でならまだまだ先に進める。あの世界でなら凛花にだって勝てるかもしれない」
ゲーム自体が純粋に楽しいというのもあるが、あの世界という存在が俺にとっては最高の環境なのだ。
「君はやっぱり──」「あれ? 二人ともまだ残ってたんだ。帰らないの?」
「いや、もう帰るよ。銃相手の試合の動画を見て夏樹をからかってただけだからね」
「弾丸を見切る化け物ってやつ? 前の四試合も魅せる試合だったと思うんだけど、全部夏樹に持っていかれちゃったよね」
担任に呼ばれて職員室に行っていた凛花が戻ってきたということは、二十分くらいはここで話していたということか。貝塚も続きを言う気はなさそうなので、俺も鞄を持って立ち上がる。
「クランメンバーの募集は進んでいるのか?」
「大々的には募集していないからさっぱりだな。誰でもいいってわけではないから、下手に応募がきても断るのが面倒だからいいんだが」
何人かは話を聞いたが、ログインする時間帯などの都合が合わなかったり、こっちが学生だから避けた奴らもいた。
トライの知り合いが第三陣でORDEALを始めるようなので一人は確保できているのだが、それ以外は全く決まっていない。
「条件が条件だからね。どうしても人が必要になったら私がなんとかするよ」
「さすがにそこまではいかないと思うよ。第三陣が来れば、何人かは来るよ」
「そうだといいんだがな」
凛花がなんとかするって、家で雇っている使用人か、凛花のお父さんの会社の人が来る可能性が高い。さすがにゲームの中のことで、そんな人達に頼むのは申し訳ないから、普通のプレイヤーに来てもらいたいものだ。
「30層突破頑張ってね。また明日感想を聞けることを楽しみにしているよ」
「ああ。無難に勝ってくるさ」
「よかったら中継も見てね!」
帰ったら準備をして30層に挑戦か。アルブが先に突破していて、ボスの情報もナナカがまとめてくれているので、今回はそんなに緊張感はない。
ボスの相性も今回は悪くないので、時間はかかれど大きなミスがなければ突破はできるだろう。
「さくっと突破して、貝塚くんに報告しないとね」
「負けたら負けたで楽しそうに絡んできそうだけどな」
「それはありそうだね。とはいえ、負けるつもりはないけど」
やるからには勝つつもりなのは間違いない。準備してくれているミナト達にも悪いからな。
ナナカとフィルは今回もボスの行動パターンなどの情報をまとめてくれているし、ミナトはアイテムの作製を頑張ってくれた。
プラバスタも手伝ってくれたから、いつもよりは楽だっただろうが、それでもパーティーのために頑張ってくれているのには違いない。
「じゃあ、向こうでね」
「ああ、またすぐ後で」




