銃は
初めてのイベントが行われた会場。一対一でのPvP目的で作られた会場は、その後も練習目的での対人戦や、ゆるい決闘の場としてプレイヤーに解放されて使用されている。
非公開での戦闘というのができないので、この場所を使おうとは思わなかったため、ここに来るのはイベントの時以来だが、あの時と同じくらいのプレイヤーがこの場所に集まっていた。
「もうそろそろだな」
トライの言葉に時間を確認すると17時58分と予定の時間である18時ぎりぎりだった。
今日、この場所で銃のお披露目会が行われる。この周りのプレイヤー達もそれを見るために集まってきたのだ。
誰か知り合いがいるかなと見渡すが、人が多すぎてよくわからない。そもそも、俺の知り合いなんて少なすぎて見つけられる可能性なんてほとんどないわけだが。
「お待たせしました」
急に聞こえてきた声とともに会場がざわつく。会場の中心に現れた一人の男の手には拳銃が握られている。あの男が、今回の騒ぎの張本人だろう。
会場のざわつきが少し小さくなるのを待ち男は話し始める。最初は公開された動画を見せながら補足を加え、銃の性能について説明をしていく。
内容自体は動画をしっかり見ていればわかる内容なのでどうでもいいような話だが、ここにいる全員が銃についてそれなりには興味があって来ているので、真剣に話を聞いている。
その後に整備や弾の価格などの話がきて、ようやく実際に銃の性能を見せるようだ。
「それでは、ここに守備力25の鎧を着けた人形を用意します。10メートルの距離から、この人形を撃った時のダメージをお見せします」
床から生えてきた人形から10メートル離れて男は拳銃を構える。気持ちを落ち着かせるように息を長く吐き出して目標を見据えた。
パァンッ!と大きな銃声が鳴り響き、あれば心臓の位置だろう胸の辺りを貫いた。
「ダメージ量は524です。これは近接職を二つ設定したプレイヤーのレベル20の際のHPくらいの数字です。近接職のダブルを一撃で落とせるほどの火力を出せる! これが銃の力というものです!」
確かに凛花のレベル20の時のHPは510だったはずなので間違ってはいない。
だが、守備力25というのはミナトが作ってくれた最初の装備のステータスにすら届かない。プレイヤー本人のステータスも加味すれば、レベル20の近接職のダブルであればダメージは半分程度にまで落ちるだろう。
「悪くない……のか?」
周囲の盛り上がりにトライが首をかしげる。数値だけを見れば悪くないように見えるが、実際あの数値から現状の環境に照らし合わせれば、そこまで突出した値ではない。
「よく考えろよな。周りに流されるなよ」
「あれなら、スキルコネクトで二つ繋げれば余裕で抜けるよ」
誰でもできるという点ではスキルコネクトよりも上だろう。止まっている相手や人の何倍もある大きさのモンスター相手ならあてることはできるだろうから、10メートルのアドバンテージもあって悪くはない。
「そんなものなのか。数値からすぐに計算できないからよくわからなかったが、それだと微妙だな」
クレスさんに持たせるなら悪くはないが、そこまで必要としていないし、タゲの関係やスキル回しへの影響が心配だ。アルブのミディスも攻撃魔法を持ってはいるが、ヘイトの問題なのか、畳み掛ける時などしか使用しない。
銃と魔法でどれだけヘイト値が違うかはわからないが、遠距離攻撃は全般的にヘイト値が高いことを考えると、銃とヒールを連発していればタンクのタゲ取りが間に合わなくなる可能性だってある。
「君達も銃に対しては否定的なようだね」
「オルムか。全否定ってわけではないが、今の銃では使い物にはならないのは確かだ」
オルムとサディが俺達に声をかけてきた。よくこの人混みの中で俺達を見つけられたものだ。俺は誰かいないかと探して諦めたというのに。
「僕達も同じ意見だよ。だが、予想以上に他のプレイヤーは盛り上がっているみたいだね」
周りのプレイヤー達を見て飽きれたように言う。確かに本気で欲しがっているプレイヤーも少なくはないようで、中央のステージに少しでも近づこうと前の方はぎゅうぎゅうだ。
「まあ、使い始めたらすぐに気づくんじゃないか? どうせ精々FPSのガンゲーで銃を使ったことがある程度の奴らだろうし」
PCゲーでもARゲーでも、実際の銃を使うわけではない。PCならばキーボードやマウス、はたまたゲームパッドのひと押しで弾は放たれる。ARでは専用のコントローラーや動作、音声などのトリガーで撃てる。
だが、どちらも本当に銃を撃つわけではない。手元のブレはゲーム内で決められた範囲でしか起こらないし、撃った時の反動を受けるのはゲーム内の操作キャラで自分自身にはコントローラーが震える程度のギミックがあるか全くないかだ。
一発撃った時点で衝撃に驚いて二発目を撃つのに躊躇するか、ブレブレの照準に相手の素早い動きで全く弾があたらずにやられてデスペナルティーを受けた状態で拠点に戻ってくるかといったところだろう。
そして、その恐怖と怒りを販売者に向けて責任を押し付ける。それで終わりだ。
「せっかく新しい道を切り開いたプレイヤーを潰したくはないだろう?」
「システム外の物でも使えるということを示してくれたのは良い仕事をしたと思う。だが、それを私欲のために使おうとして自滅する奴にまで手を差し伸べる気はないな」
「ははは。なかなか厳しいことを言うね」
もっと順序を踏まえて、こんな煽るようなやり方を避けて、正しい情報を伝えていれば、こんなことにはならなかっただろう。
目立ちたい、稼ぎたいという気持ちがもう少し弱ければそのことにだって気づけただろうに。
「それに、今更どうしようもないだろう。ここで俺達が何を言おうと、印象強い目の前の出来事を上塗りして止められるとは思わない」
テレビショッピングのような通販と同じだ。汚れが落ちますと実演されれば、それが見せかけだったとしても信じて買う人は多くいる。あれ微妙だったよと教えられても、それでも衝撃を受けるほどの影響があった物ならば、大半の人は買うだろう。
ましてや、俺達みたいなトップ争いをしているプレイヤーが止めようとしたところで、ライバルを蹴落そうとしているのかと勘違いでもされて無視されて終わりだ。よくても、まだ揺らいでいるプレイヤーを止められる程度が関の山と言ったところだろう。
「止められるさ。今からその機会が巡ってくる。場さえ用意できれば手伝ってくれるかい?」
「本当に止められるのか?」
「それは逃げ。やらずに後悔するくらいなら、やって結果が出ない方がまし。それに、今回は成功する」
無意味な挑戦ほど嫌いなものは無いんだが。
オルムとサディは自信があるようなので、今回は乗ってやるか。
「場さえ用意できればな。それに関しては手は貸さない」
「問題ないよ。向こうが勝手に用意してくれるからね」




