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システムとシステム外は

 それは突然の出来事だった。

 いつも通りのORDEALの街中。メインストーリー上四番目に行くことになる大きな街であるラクティブ。その街のメインストリートで乾いた炸裂音が鳴り響いた。

 弾が命中したプレイヤーは街中だったこともありダメージはなかったが、体を貫かれる感覚がしたと証言している。

 その少し後に、犯行声明ともとれる一つの動画がORDEALのサイトに投稿された。


"職業による優劣はなくなった。システムに囚われない最強の装備である銃を我々は作り出すことに成功した"


 その言葉から始まる動画の中では、確かに銃を使用して魔物を倒す様子や、プレイヤーを狙撃してキルする様子が映されていて、本当に銃が存在することは確定的だろう。

 掲示板でも様々な情報が飛び交い、ある意味お祭り騒ぎのように盛り上がっている。




「それで、お前らはどう考えるよ」


 動画や掲示板の情報をまとめた資料を俺と凛花に渡してきたトライが、読み終わった俺達に尋ねる。


「銃自体は本当に作ったんじゃないか?」

「そうだね。内部の構造なんて調べればすぐにでてくるから、後は技術さえどうにかできればこの世界でも銃は作れるだろうからね」


 この数日間、追加した設備で色々試した結果、本当に現実で作れるものならこちらでも作れるということはわかった。

 今も俺の手には凛花が革を縫い合わせて作ったグローブがつけられていて、これが守備力を3増加させていることが、その証明だ。


 銃自体の構造に関しては、ネットで探せば幾らでもでてくるだろう。金属の加工については、専門の知識と技術が必要だが、プレイヤーの中に数人くらいはその技術を持った奴がいたっておかしくはないし、本気で作る気になれば時間さえかければ無理ということはないだろう。


「どれだけの力があると思う?」


 ぐいっと体を乗り出して尋ねるトライの顔は真剣そのものだ。単純に銃がどうこうという話ではなさそうな雰囲気なので、もしかするが馬鹿なことを考えているんじゃないだろうな。


「お前……もしかして買う気か?」


 確かに動画の最後には銃の販売についての情報も載っていたが、馬鹿みたいな金額だった。それこそ、プラバスタが俺達にクランハウスの費用として渡してくれた額の倍以上の値段だ。


「あれで火力不足が補えるなら、少しくらい高くたって買うべきだろ」

「はあ……」


 呆れたように溜め息が二つ重なる。

 確かに、銃自体は現実ほどとまではいかないが、それなりの強さはあるだろう。

 だが、ここはORDEALというゲームの中だ。急所を攻撃すればダメージは大きくなるし、PvEならば本当に急所を貫けば一撃死できるモンスターもいる。

 PvPでも急所はダメージが大きいし、相手を怯ませることもできるが、スキルなしで一撃死を狙えるかと言われればそうではない。心臓を撃ち抜かれようが、脳天を撃ち抜かれようがステータス的に耐えられるのであれば生き残ることはできる。


「何がダメなんだ?」

「銃自体はORDEALに存在しないアイテムだ。補正なんて全くないんだぞ」


 補正なしでの戦闘の辛さは体験したことのあるプレイヤーならばすぐにわかるだろう。

 現実でも動いている標的を撃ち抜くのは難しいというのに、現実よりも数段身体能力の高い標的相手に補正なしであてることができるのかが、まず問題になる。

 スキルによる高速移動。サディが得意とするそのスタイルならば、100メートルを最速で三秒程度で駆け抜けることができる。時速約120キロメートル。高速道路を制限時速オーバーで走り抜けているバイク相手に弾をあてるようなものだ。


「それに、動画を見た感じダメージ量もそこまで大きいわけではなさそうだね。映っていたモンスターも耐久力はそれほど高くないモンスターだし、スナイプされてキルされたプレイヤーも後衛職だった。もしかしたら、現状のステータスでもタンク相手なら耐えられてしまう程度の火力しかないんじゃないかな」


 効率的な狩場が発見されていないせいもあるが、レベルキャップに到達したプレイヤーさえいない現状で、装備も揃いきっていないタンクに耐えられるのであれば、今後すぐに使えなくなるだろう。

 それこそ銃とは言わず、対戦車ライフルだとかパンツァーファウストだとかを作れば火力的にも対抗できるのかもしれないが、結局はスキルの火力を大幅に上回ることはできない気もする。


 それだけORDEALという世界の中ではスキルだったりシステム的な補正というものは大きなものだ。

 そうでもなければ、現実かと思えるほど精巧な世界で、剣を片手に自分の何倍もあるモンスターと戦おうとなんて思えないだろう。そういう点では、このゲームのバランス調整というものは、それなりにしっかりしている。


「結局、銃を使うにしても、それなりのステータスがないと棒立ちで撃って勝てるほど甘いゲームではないってことだな」


 移動系のスキルと組み合わせたり、スナイパーとして戦えれば使えるかもしれないが、あてることの難しさは消せない。システム外のプレイヤー自身の能力でそれさえ補うことができれば良いのだが、それができるように練習するよりも、システムを使った戦い方を練習する方が手っ取り早い。


「はあ……スキル回しを考えて、スキルコネクトも実戦で使えるように練習するか」

「それが一番だな。どうせ銃を買ったところでメンテナンスもできないだろうし、弾代で金がどんどん消えるだけだろ」

「そういやメンテナンスも必要になるのか。ORDEALならジャムってやられるなんてことも普通にありそうだ」


 耐久度の設定されたゲーム内のアイテムならば、そう簡単に壊れることはないし性能の落ちも現実よりは緩やかだ。剣でモンスターを切っても、すぐに切れ味が悪くなることもなく、徐々に落ちていくといった感じになる。

 だが、耐久度の設定されていない普通の物に関してはその限りではない。この間も、釘を打とうとして斜めに打ってしまいクニッと曲がってしまったし、料理用の包丁は肉を切ったら脂ですぐに切れ味が悪くなる。システム上で保護されていない物に関しては、現実と同じように壊れたり劣化したりするので、システムに存在しない銃という存在は、普通に故障する可能性がある。

 それも、専門の知識があるかすらわからない知らない誰かが作った銃だ。念入りにメンテナンスしておかないと不安で仕方ないだろう。


「まあ、どんなものかは一回見ておいてもいいんじゃないか? 明日の夕方に公開で性能のお披露目があるんだろ」


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