凛花は
「それでは、両者とも準備ができましたので、決勝戦を始めましょう! 奇しくも、決勝戦はダンジョン攻略の最前線を争う二パーティーのメインアタッカーによる争いです」
「今回のルール上、近接アタッカーが有利になるので両者とも近接職ですが、スタイルは違うので見ものですね」
「どちらが勝つのか最後までわかりません。では、試合開始!」
試合開始の合図とともに剣を構えるが、二人とも動かない。凛花は力を抜いて楽しそうに剣を構え、トライは集中しているのか顔は険しい。まだ向き合っているだけだが、優位なのは凛花か。トライも普通には勝てないとわかっているから、一瞬たりとも気を抜かないようにしているが、そのせいで集中力はガリガリと消耗していく。
「来ないの?」
挑発するかのように凛花が剣をトライの方へ伸ばす。普段のトライのスタイルなら、どちらかといえば攻めるタイプだ。だからこそ、凛花も待っていたが、トライが攻撃に出ないので、そろそろ自分から攻めようというところだろう。
「お前相手に舐めてかかることなんてできないからな。俺はこっちの方が得意なんだよ」
「そうなの。じゃあ、私は攻める方が得意だから、遠慮なく攻めさせてもらうね!」
「ちょっとは手加減してくれよ」
「ちょっとだけね!」
凛花がトライに詰め寄る。トライの口が動いたように見えたが、何を言ったのかはわからない。凛花も気にする素振りもせずに攻撃をしていく。
さすがにトライも簡単に負けることなく、凛花の攻撃をさばき続ける。剣と剣が激しくぶつかるたびに、観客から声があがる。ステータスでは凛花の方が上なのか。互いに同じように攻撃を加えるが、HPの減りはトライの方が多い。凛花の職業は剣士と軽剣士で剣による攻撃へのステータス補正は高い。トライの職業は剣士があることは知っているが、もう一つの職業が何かは知らない。レベルはトライの方が高いのにダメージが低いということは、ステ振りがどうなのかはわからないが剣士や戦士系の職業ではなさそうだ。
だが、だとすれば何をとったのか。プラバスタには生産職がいないと言っていたから生産職ではないだろう。それに、凛花に勝つために隠していたとするなら戦闘に関わる職業なはずで、タグリッドリングを求めなかったということは、攻撃魔法系でもないとは思う。
「そこには見えない壁がある」
「えっ!?」
凛花の剣が空中で弾かれる。トライは動いていないということは、あれが隠し玉の一つか。
「がら空きだぜ? スキルコネクトはお前だけの技じゃねえ」
スラッシュからのエアブレイドの繋ぎ。凛花が一番最初に中継で見せたスキルコネクトをトライが再現する。弾かれた体勢からでは防御が間に合わず、スラッシュは左腕を捉えたが、エアブレイドは剣でのガードが間に合いHPは半分を少し切ったところまでで耐えた。
「さすがに、これだけでは押し切れないか。だが、これでHPは逆転したぜ」
「驚いたよ。ずっと使えるのに隠してきたんだね」
「ゴブリンロード戦で見た後に必死に練習したからな。そこからは使わなくても勝てたから使わなかったが」
「ただ、ハイオーク戦でスキルをキャンセルしたのは失敗だったね。私の仲間がしっかり見つけてくれたおかげで二撃目には警戒できたよ」
「まさか、あれを見つけられるとは。ちょっと焦ってミスっちまったか」
ナナカとフィルのおかげで助かったというところか。それにしても、本当に隠し玉でスキルコネクトまで持っていたとは。できるとしても簡単に成功するものでもないはずなんだが。
「俺の職業は剣士と奇術師。純粋な力比べでは負けるが、なんでもありの戦いでは俺は強いぜ」
「そうみたいだね。でも、勝つのは私だよ」
ネタばらしをしたトライの動きはさっきまでとは違い、奇術師のスキルであろうスキルをふんだんに組み込んでいる。見慣れぬ技になかなか凛花も手こずっているが、それを攻略するのもまた楽しいようで表情は明るい。
「さ、さっきからスキルコネクトを何度も使っていますが、こんなに簡単に使えるものなのでしょうか?」
「システム開発の関わった者として言わしてもらうと、普通はできないです。二人がそれだけ飛びぬけたプレイヤーということでしょう。たしかに、奇術師にはシステムアシストとしてスキルキャンセルの受付時間の延長がありますが、それでも難易度は高いですね。本来、スキルコネクトはもう少し進んだところで練習用の施設と、難易度緩和アイテムが得られる予定でしたので」
スキルキャンセルの受付時間の延長とは、また奇術師らしいと言えばいいのかピーキーなシステムアシストだな。それ以外にも、あのスキルは上手く使えば他の職業にはない立ち回りができるから、これを見た第二陣からは奇術師を選択するプレイヤーが少し増えるかもしれない。
「楽しかったけど、もう終わらせるよ」
「望むところだ! そこには見えない壁がある」
凛花の二撃目のエアブレイドが壁に弾かれ、すかさず放ったスラッシュでトライのエアブレイドを弾く。凛花のエアブレイドはクールタイムが終わっていないのでトライの続けざまのスラッシュを止める術がないと思いきや、凛花の剣が光る。
「取っておいてよかったよ。夢散華」
連撃スキルの最初の二撃でトライの剣を弾き上げ、残りの四連撃がトライのがら空きになった胴体を捉える。最後の一撃が本当にぎりぎりでトライのHPを削り切った。
「決まったああぁぁ! 第一回最強プレイヤー決定戦、優勝した最強プレイヤーはクラン双天連月所属のレンヤ選手です!」
「本当に凄いものを見せてもらいましたね。最後のスキルコネクトは計九連撃の大技でしたが、難易度もかなり高いのでよく成功させたといったところでしょうか」
「それでは、優勝したレンヤ選手にまずは一言いただきましょう。率直に感想をお願いします」
司会者の質問に答えていく凛花を見ながら、そわそわと気持ちが落ち着かない。
質問に答えている凛花と視線が合ったような気がしたが、すぐに逸れたのでこちらに気がついたかはわからない。
「最後に何か言っておきたいことはありますか?」
「優勝できたのは嬉しいです。でも、私は一番戦いたかった相手と戦えてない」
会場の中央にいる凛花が、観客席にいる俺を真っ直ぐに見つめる。
「今回はサポートに回ってくれたから諦めていたけど、いつの間にか装備も整っている。最後に本気の戦いを見たくはないですか?」
「ここでもう一戦したいということでしょうか?」
「はい。闘技大会と同じルールでの戦闘で大丈夫です」
実況の人が何やら確認を取っているようだ。あの実況の人も運営の一人だろうが、一人の判断で決められることでもない。
とはいえ、結果はすぐに出た。この状況で反対する奴はいないだろう。
俺の前に、戦闘を許可しますかとウインドウが現れる。
「さあ、勝負しよう。このために、君をこの世界に誘ったんだ」
ああ、良いとも。
俺も久しぶりに勝負したかった。天才と呼ばれる凛花に勝つために必死に努力をした。けれども、現実では男女の差のせいで肉体的な勝負では本気で戦えない。もどかしい思いのまま燻っていたが、ここでなら互いに全力を出したところで何も問題ない。




