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サディは

「どう? いけそう?」


 ミナトが作ってくれた新しい装備に着替えて体の動きを確認する。新しい装備だが、今まで装備していたものとほとんど変わらない着心地なので、これなら問題ないだろう。こんな薄い装備で問題ないのかと聞きたくなるほど軽くて柔らかい。


「問題ないな。違和感がなさすぎて怖いくらいだ」

「よかった。守備力に関してはほとんど上がってないから気を付けて。その代わり、ガード時の反動とダメージは限界まで減らした」

「それはありがたい。どうせ、俺のもとのステータスを考えれば、装備で少し補ってもそんなに大きな差はないからな」


 どうせ、一発受ければそこから畳み掛けられるのだから、もとより攻撃は受けない前提で戦わないといけない。スキルコネクトで畳み掛けられれば、ガードの上からでもダメージは相当くらうだろうから、そこを減らすことのできる装備は有能だ。


 ミナトがウィンドウを開いて何かを確認して頷く。


「まだ準々決勝の途中みたい。私はもう一回休んでから行く」

「ありがとう。ゆっくり休んでくれ」

「うん。私も、ナナカもフィルも、二人のことを応援してる」





 剣と盾のぶつかり合い。ほとんど互角の勝負に見えるが、HPはオルムの方が早く削れていく。プレイヤースキルには大きな差はないだろう。デュークさんの方がガードは上手いが、攻撃はオルムの方が上手い。

 ステータスの差だろうか。二人の職業が何かはわからないが、そこのステータス差で勝敗が決まるほどの拮抗した実力だ。


「さすが鉄壁と言われるだけのプレイヤー! まともにくらった攻撃はここまでありません!」

「しっかりと攻撃の軌道を見てますね。オルム選手の攻撃も悪くはないですが、相性が悪いと言ったところでしょう」


 オルムもメインはタンク役なだけあって攻撃に特化しているわけではない。ガードの上からでも削れる攻撃力か、圧倒的な速さなどそういった何かがないとデュークさんのガードは抜けないだろう。

 相性的には俺も悪いな。デュークさんのガードを抜ける気はしない。オルムが相手でもきついというか、タンク系が相手だと火力に乏しい俺ではきつい。正直、本選には出なくて良かったと思う。


「あ! レンヤさんは順調に勝ってますよ!」

「次はサディが相手か。ミナトは大丈夫そうだ。もう少し休んで、来れそうなら来るってさ」


 今やっている試合が準々決勝のラストか。準決勝はレンヤとサディの組み合わせと、この勝者とトライの組み合わせか。皆順当に勝ち進んだようだ。

 これでデュークさんが勝てば、準決勝の片方はプラバスタ同士の戦いになるから、温存のためにデュークさんが棄権するだろう。


「実力では君の方がやっぱり上か」

「そうでもない。タンクにのみ専念したか、パーティーのために合わせることにしたかの差だ」

「そうであれば嬉しいよ。今回は俺の負けだ」


 剣を盾で弾かれ体勢を崩したところにデュークさんの剣が伸びる。残り三割弱まで減っていたオルムのHPはそれに耐えることはできず、勝敗が決まった。


「準決勝最後の一枠に進んだのは、ダンジョン攻略組パーティーであるプラバスタのメインタンクを務めるデューク選手だ!」

「これで準決勝に進む四人が決まりました。準決勝第二試合はプラバスタ同士の戦いになりますが、どうされますか?」

「タンクとしてのトップは決まった。あとはパーティーとして優勝するために、俺は準決勝は棄権する」

「ということで、デューク選手の棄権により、決勝進出の一枠目はトライ選手に決定です!」


 デュークさんを応援していた観客からは残念そうな声がでるが、優勝を目指すならここでトライを温存するのは仕方がない。チーム内での譲り合いということなので、デュークさんに賭けていた金額がそのままトライに移るようなのでそこの不満はなさそうだ。


「では、さっそく残りの一枠をかけた準決勝を始めましょう! 一人目は、ダンジョン攻略組トップを走る双天連月より、その見た目からは予想もできないほどのプレイヤースキルを持った全てを切り開く勇者ことレンヤ選手!」

「ここまでも圧倒的な実力を見せつけましたからね。プレイヤースキルだけで言えば、全プレイヤー中トップなのは間違いないでしょう」


 凛花がフィールドに現れると歓声が溢れかえる。急に起こった歓声に驚きながら凛花を見れば、表情からはまだまだ余裕が見えるので問題はないようだ。


「対するは、ダンジョン攻略組最大クランのアルブより、目にもとまらぬ速さで敵を翻弄するプレイスタイル。最速を自負するのは伊達ではない。その速さは勇者をも切り捨てるのか、サディ選手です!」

「こちらも圧倒的な試合を見せてきました。タンク相手でもポーションを使う暇すら与えない連続攻撃で削りきるスキル運び。どちらが勝つか本当にわかりません」


 サディの登場でまた会場のボルテージが上がる。凛花とサディが向き合い剣を構えると試合開始の合図が告げられた。

 凛花は受けに回るようだ。盾は装備せずに剣だけを持ち、サディの動きを待つようにその場から動かない。

 しびれを切らしたかのようにサディが息を吐きだして凛花を見据える。体勢低くし剣を前に出す。

 最速。そう自分でも言うようにサディが一瞬で凛花に詰め寄る。移動してからの攻撃。それでは凛花の守りを抜くには遅い。剣と剣がぶつかり、共にスキルによる攻撃だったためにステータスの低いサディの剣が大きく弾かれ前に倒していた体が起き上がる。だが、凛花の追撃よりも早くその場を離れ、互いにわずかにHPを減らしただけに終わった。


「速いね。でも、このくらいなら問題ないよ」

「まだ小手調べ。もっと速くなる」


 その言葉が嘘ではないと証明するかのように、サディがまた攻撃に出る。移動スキルから攻撃スキル、そしてまた移動スキルと繋げることで、絶え間なく動き続け様々な方向からの攻撃が凛花を襲う。それを剣一本で確実にさばき続ける。


「激しい攻防が繰り広げられています! これぞトッププレイヤー同士の争い。果たしてどちらが勝つのでしょうか!」

「サディ選手が責め続けていますが、クリーンヒットは今のところゼロ。スキル同士のぶつかり合いによるダメージでHPの減りはサディ選手の方が多いですね」


 10分間の試合時間が過ぎれば総ダメージ量で勝敗が決まる。このままサディが同じように戦い続ければ、凛花が防ぎきって勝つだろう。ただ、凛花もそんな勝ち方は望んでいないだろうから、サディがこの後に何か隠していなければ、自分から攻めに行って勝負を終わらせるだろう。


「速いけど、それだけだね。その速さに自分の能力が追い付いていない。そんな程度じゃ、ツキヤにも勝てないよ」

「あんな臆病者になんて負けない。この程度が限界だなんて思わないで」


 つばぜり合いをやめ、サディが一度大きく距離を取る。これで決めるつもりだろう。互いに集中するために息を大きく吐きだす。


「サディ選手の敏速値は全プレイヤー中トップです。通常のシステムアシストによる恩恵のほとんどを受けているため、人間の反応速度ではぎりぎりのライン。システムアシストの制限を解放すればまだ速くなりますが、これ以上速くしたところで自分の思考が追い付かずに自滅するでしょう」

「システムアシストの限界値ということですね。種族と職業二種とも敏速値特化なだけありますね」


 システムアシストは一定ラインで制限がかかる。とはいえ、一時的にならそのラインを超えることはできる。だが、それをすれば、相手の動きを見て行動することができなくなるので、本当に一撃必殺のつもりで動かなければいけない。


「大丈夫でしょうか……もし、あれ以上速くなるのだとすれば、レンヤさんでも避け切れないかもしれません」

「レンヤならいけるわ」


 答えになっていない願うようなフィルの呟くような声とともに、サディの体が動き出す。

 ほぼ一瞬でゼロから最速に切り替わるサディの動き。移動からの攻撃だろうが、動き出しがさっきまでのそれとは何か違うように見えた。

 遠くから見ていても早いサディの動きに凛花の反応が一瞬遅れたのか、剣の出だしが遅い。凛花を横なぎにしてそのまま通り抜けるような軌道で駆け抜けるサディに対して、凛花は前に出た。

 サディの体がその勢いで宙に舞い、そこを凛花の剣が襲う。あっけにとられたような顔のままサディのHPはゼロになり、凛花の勝ちが決まる。凛花以外の全員が何が起こったのかわからずに固まり、少し遅れて歓声があがった。


「どうなったのでしょうか?」

「単純にサディの腕を掴んだだけだよ。振るわれる腕をステータス差で無理やり抑え込んだ結果、走り抜ける勢いだけ残って逆上がりするかのように体が浮きあがっただけ」

「よく見えたわね」

「見えてはないさ。レンヤならそう動いただろうってわかるだけ」


 ステータス差があったとしても、動き出す前の腕を完全に捉えないと止められないだろう。最後の攻撃はそれまでと違い、移動と攻撃を別々のスキルで繋げたものではなく、一つのスキルで行っていた。だからこそ、反応が追い付かなくとも切り捨てられるとサディもあの速さで突っ込んだのだから、初見でその動きを見切って捉えるなんて無茶苦茶な芸当ができる方がおかしい。それならまだ、適当に振るった剣がタイミングよく当たったなんてことの方がましだと思える。

 わざと狙ったのだろうな。偶然勝ったのではなく、実力で勝ったことを見せつけるために、あんな無茶な方法で捉え切ったのだろう。

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