表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/74

イベントは

 プラバスタのハイオーク戦が終わった後に、ナナカとミナトに情報を教えてもらった。

 情報としてはプレイヤー間で競うということと最初はポイントを集めて上位に入る必要があるということ。イベントとしてはよくある内容なので、これだけではどんなイベントなのかは予想がつかない。話自体もこの情報が出たすぐ後に、公式から新アイテムの情報がでたために、それほど議論されることもなく流れたようだ。

 プラバスタやアルブはそれぞれ他からの情報を仕入れているみたいだが、両者とももとから他のゲームでの繋がりやノウハウがあるんだろうな。準備の面では一歩、いや数歩遅れていることは確実だろう。どういうイベントになるかはわからないが、トライやサディの言葉からすると直接的に競うことは間違いない。俺や凛花の戦闘に関しては確実に分析されているだろう。それに対して、トライは実力を隠しているし、サディの戦闘は一度見ただけだ。凛花に関しては分析されたところでそれを上回ってくれるとは思うが、俺に関しては確実に後手に回る。


「どうしたの? 何かあった?」

「次のイベントがどうなるのか考えていた。確実に出遅れるだろうから、どうするのがいいのかと思ってな」


 自分の右手を見てみると机を指で叩いていた。いつもの癖だが、凛花が見れば俺が何かを考えているというのはすぐにわかるだろう。VR空間とはいえ、癖はでるのか。体がアバターに変わったとはいえ、動かす中身は自分自身だからな。それも仕方がない。


「考えたってわからないことは、諦めて出たとこ勝負だよ。それでも勝てるでしょ」


 隣に座る凛花がそう言って笑みを浮かべる。確かに考えたって仕方がないことだが、行き当たりばったりで勝てるのはお前くらいだよと言いたい。とはいえ、できることも無いのが現実だからいつも通りダンジョンでも行って、イベントの告知を待つしかない。

 どうせ、今から本気でやったところで、レベルが1か2変わるだけだ。その程度のことが勝敗に大きく関わるようであれば、先に準備を始めているプラバスタとアルブはもっと専念してレベル上げをしているだろう。


「いつも通りダンジョンでも行くか。イベントの告知があるまでは通常通り20層一番乗り目指してプレイ。イベントの告知が来たらできそうなことをしよう」

「うん! じゃあ、さっそく行こう! ナナカちゃん達はギルドで中継を見ているって連絡あったから」


 凛花に腕を引っ張られて立ち上がる。そういう連絡ってリーダーの俺にするものじゃないのか?俺はリアルでの連絡先は交換していないからORDEAL内でしか連絡は取れないが、フレンドリストからログイン状況を見て連絡してくれたら良かったのに。ほとんど凛花と一緒にいるから、凛花に連絡した方が手っ取り早いのは確かだが。





 ダンジョン探索を終えてギルドに戻ってくると、中継モニターのトップにはアルブの一軍パーティーが映っていた。映像の奥の方にはポートが見えるので、14層にはもうたどり着くというところか。早ければ今日。遅くても数日中に15層へのポートを見つけてくるだろう。さすがに三日連続のハイオーク戦はなさそうだが、差はほとんどないと言っていい。


「イベントが来るとしたら、今日か明日に告知があると思うんですが、まだ来てませんね」


 俺がモニターを見て立ち止まっている間に、ナナカが公式サイトを確認してくれたようだが、まだ情報は来ていないようだ。前回の新アイテムの情報は16時に告知されていたので、それを考えるとあと20分ほどは様子見で待っておくか。


「とりあえず、16時までは連絡が取れるようにしつつ自由行動で。そこでイベント告知が来ていなかったら、休憩を挟んで20時からダンジョン探索をしよう」

「はい! それでは掲示板に張り付いてます!」


 それは張り切ってするようなことではないと思うんだが、ナナカはやる気満々なので何も言わないでおこう。

 たぶんクランハウスに戻っていったであろうナナカをフィルが追いかける。ミナトと凛花は取引ボードに今手に入れたアイテムを出品しに行ったので、俺は少しご無沙汰していた訓練室へと向かう。



 訓練室に到着してランキングの書かれたボードを見ると、サディの負けず嫌いな様子がよくわかる。


1位 サディ 1019

2位 ツキヤ 1011

3位 オルム 260


 どれだけ回数を重ねたのかは知らないが、記録としては負けている。たった8ポイントの差ではあるが、俺も負けず嫌いなのは同じなので超えてやりたいとは思うが、今は時間がない。一発で成功したとしても16時には間に合わないだろうし、途中で連絡が来たりすると集中が切れて終わる。

 すぐに抜かしたいところではあるが、今は抑えておく。次に会うのはイベントの時になるだろうから、それまでには抜かしておいてやろう。イベントの告知さえ無ければ、この後にでも抜かしておく。前の時よりもこの体には慣れている。HPも上がっているので、少しミスったくらいなら集中さえ切らさなければ耐えられるはずだから、絶好調でなくても抜かす程度なら問題ないはずだ。


”ツキヤさん! イベント告知きました! クランハウスに来てください!”


 チャットログに表示されたその文字にテンションが一気に上がる。この間の新アイテムはそれはそれで楽しかったが、今回はイベント。これは急いで戻らないとな。




「あ、遅いよツキヤ」

「悪い悪い。で、イベント内容は?」

「PvPですね。第一陣プレイヤーの中で最強プレイヤーを決めるようです」


 最強プレイヤーね。直接戦闘による順位付けとしたらかなりの時間がかかるし、時間が合うかどうかの問題もあるから難しいんじゃないのか?期限も短いし、社会人は休みの関係もありそうなもんだが。

 ORDEALの場合インセンティブ制度もあるから、廃人的なプレイヤー以外にもトッププレイヤーの中には仕事を捨てた人もいそうだが。俺達ですら半月で7万くらい貰えているんだもんな。これに広告だったり記事で稼いだりもすれば、生活していけるだけの金は手に入りそうだ。


「運営とリスナーによる選抜で16枠と、4日間の予選で16枠の合わせて32人でのトーナメントになるようです」


 PvPだとすれば、攻撃手段に欠けるナナカとフィルは厳しいな。ミナトは近づかれるときついから難しいところだし、どうするのやら。


「レンヤさんとツキヤさんは選抜で選ばれるでしょうから、問題ないですね。参加賞は私達には必要ないので今回は応援に専念します!」

「私はサポートで。PvPは興味ない」

「私も応援しておくわ。タンクとして競いたい気もするけれど、攻撃手段に欠けるから勝ち目はないからね」


 三人とも不参加か。参加賞はポーションの詰め合わせと5万ベル。これ目当てに参加するプレイヤーは多いだろうな。参加しないプレイヤーと予選落ちのプレイヤーは勝敗予想での賭けも用意されているようだし、本選に出れなくてもうまみはある。俺達はポーションもミナトが作ってくれている分で問題無いし、金も余っているから出なくても大丈夫だ。


「通りで、この前今週の日曜日にインできるか運営からアンケート来てたんだね」


 そんなの来ていたか?メッセージ欄を見てみると、二週間前に連絡が来ていた。未開封のまま放置されていたので完全に俺の見落としだろう。これさえ見ていれば、イベントの開催日時の予想くらいできていただろうに。

 俺が一人で肩を落としていると、新着メッセージが入った。運営からのメッセージ。このタイミングで来るとしたらこれは確実にあれだろうな。中を開くと、案の定本選への参加依頼のメッセージだった。


「ツキヤもきた?」

「ああ。俺とレンヤだけか。トップパーティーなんだから全員に送ってくるかと思ったんだがな」


 基準がどうなのかは知らないが、一人一人の実力までしっかり見ているということなのだろうか。俺にまで連絡がきたということは、トライとサディ以外にも、デュークさん、シン、オルムは連絡が来ているだろう。リピドが微妙なラインだな。他に実力のあるプレイヤーを知らないから、俺としては入っていそうだと思うが、他にも上手いプレイヤーはいるだろうから難しいところだ。


「レンヤは参加するだろ?」

「うん! 面白そうだからね。楽しめるかなー?」

「じゃあ、俺は今回はやめておくよ。皆でレンヤの応援をしよう」

「ええ!? なんでですか! ツキヤさんの実力を示せる良い機会ですよ!」


 ナナカが胸倉を掴んできそうな勢いで詰め寄ってきた。俺の評判を一番気にしていたのはナナカだもんな。ここで活躍さえすれば、未だ微妙な評価をされている俺の評価は一気に覆るかもしれない。

 だが、俺としては掲示板での評判くらいならどうでもいいんだよな。むしろ少し悪くても、それで中継を見てくれるのなら、無関心よりは良いかもしれないと思っているくらいだ。


「入賞賞品もそこまで欲しいものではないだろ? トップ3の商品は限定か入手条件が厳しそうだから欲しいが、トップ3に二人とも入れる可能性は低い。それなら、レンヤの装備だけに力を注いで、レンヤが優勝してくれるのを皆で応援する方が良いだろう」

「それはそうですが……」

「本人がそういうのなら、私達が渋るわけにもいかないわね」

「ツキヤと戦いたかったけどなー。まあ、戦うなら万全の方が楽しいからね」


 トップ3の報酬は称号だったり、特殊効果のありそうなアクセサリーなので欲しいと言えば欲しい。だが、まだ第一陣のプレイヤーしかいない段階で、ぶっ壊れの限定ものは商品にしてこないだろうから、もう少し進めば代用ができたり、他にも入手方法のあるものだろう。


「だから、イベントまでの間はダンジョン探索しつつ、レンヤの装備補強のための素材集めを頑張ろう」


 レンヤと戦いたい気持ちはあるが、今の俺では勝てないのも確かだ。負ける前提で戦うのはしたくないから、今回は譲っておく。それに、訓練室の記録を抜いておけば、本選に出場しない俺に対してサディが面白いことになりそうだし。サディが目標をレンヤにでも切り替えて本気で挑めば、レンヤも楽しめるだろう。

 そうやって、イベントに参加しない言い訳を心の中で捻りだしていた俺は、何も言わずにじっと見ていたミナトに気がつくことはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ