記事は
掲示板や短編など用の設定集的作品を公開しました。
読まなくても本編だけで楽しめます。細かい本編中で語られない設定が出てくる感じになっています。
一応こちらです→ https://book1.adouzi.eu.org/n0795en/
15層を俺達が突破した翌日、プラバスタも15層へのポートを見つけ、ハイオーク戦への挑戦を発表していた。
プラバスタのことだから、ハイオークも問題なく突破するだろう。デュークさんがいれば、タンク二人でのヘイト管理もきっちりとこなすだろうから、崩れるとしたらヤドザミの処理が追いつかないパターンしかない。それも、ハイオークのHPさえ気にしなければアタッカー二人で叩くことで処理はなんとかなるだろう。
昼過ぎにログインしたが、今日はまだ誰もいない。凛花にも連絡せずに来たので仕方ないが、たまには一人でゆっくりするのも悪くない。
なんでこんな色にしたのか聞きたくなるような青色の液体を飲みながら、ナトリが書いた記事を探す。ピーチティーのような味がするので意外と飲めるなと思っていると、人気記事のトップにお目当ての記事があった。
「凄い人気だな」
昨日のハイオーク戦後に公開された記事だというのに、すでに閲覧数は一万を軽く超えている。ハイオーク戦の前に独占で情報を手にしていたのもあるだろう。今までの記事を見ると、閲覧数は悪くないがこれほど飛びぬけてはいない。
記事の内容を確認すると、公開までの早さの割にかなり分析をしっかりしているようだ。ハイオークの行動パターンまでちゃんと書いているとは思わなかった。ナトリが推測する攻略の安定パターンなどが書かれ、その後に今回の俺達の評価などが載っている。
凛花の評価が一番高い。やはり安定度とダメージ量はかなりのものだったからな。全員悪くない評価だが、一番低いのはナナカか。ヒーラーの重要性については評価されているが、ヒーラーとしては並との評価だ。今回はヒールを飛ばしたりもしていたが、タグリッドリングが出てからは飛ばす練習をしているプレイヤーも増えたから評価は低めか。
次に悪いのは俺の評価だ。プレイヤースキルについては評価されているが、どうしてもタンク役をする際のHPの減りや攻撃時のダメージ量が足を引っ張ている。職業的に仕方のないことだが、支援魔法についてももう少し触れてほしいな。
「あれ? ツキヤだけ?」
「まだ皆来てないな。昨日遅くまで遊んでいたから、今日はゆっくりしているんじゃないか」
「そう。じゃあ、ここでゆっくりしとく」
俺の隣にミナトが座る。記事の続きを読もうと視線を戻そうとしたところで、俺の前に置かれたコップを見ていることに気づいた。インベントリにまだ残っていたので、同じものをもう一つ取り出してミナトの前に置く。
「それ、あの記者の記事?」
「ああ、ナトリの記事だ。今回はミナトの評価がパーティーで二番目に良かったぞ」
「頑張った。でも、やっぱりレンヤは強い」
「あれは別格だからな。一つでも張り合えるものがあれば十分だろ」
俺の知っている限りではスキルコネクトなんて、戦闘中に使えるのはレンヤだけだ。中継で見たことのあるプレイヤーだけだからもしかしたら他にもいるかもしれないが。
スキル頼りのプレイスタイルであるトライやサディですらスキルコネクトなんて使っているのは見たことが無い。それを、大事な場面で確実に決めてくるあたり、現状では凛花の実力が頭一つ抜けているのは確実だろう。
「そうだね。レンヤに勝つのはツキヤに任せる」
「俺も勝てる気はしないんだよな」
現状では無理だろう。せめて装備でレンヤに一段階でいいから差をつけないと。
「私も手伝う。ツキヤにはお世話になってるから」
「まあ、戦う機会なんて無いから無理する必要もないさ」
それに、無理して俺の装備を強くするよりは、レンヤの装備とフィルの装備でも強くしている方が、よっぽどパーティー的には強くなれる。
再び記事に目を通すと、最後の部分で魔法職について触れられていた。俺が言ったことからあらかじめ考察してくれていたのだろう。
”今まで不遇と言われていた魔法職が日の目を見る日は近い。タグリッドリングの効果もそうだが、それ以降研究されている呪文の詠唱変更による魔法の改造が成功すれば、一気に化けるだろう。また、現状においても、ヒーラー・魔法アタッカーは戦闘において重要になりつつある。今後、兼任であったとしてパーティーに一人は必要になることは間違いない”
そうやって締めくくられた記事にはコメントもかなり多い。魔法職の不遇が改善されるように願う声が多く、ナトリは魔法職について今まで否定的な意見をしてこなかったようでそれを称えるコメントも多い。
俺達のパーティーに最初に接触してきたのもナトリだ。一番目立っていたとはいえ、あの時に魔法職三人というパーティーはかなり奇抜だっただろう。それでも、ナトリの態度は俺達を馬鹿にするようなものではなく、むしろ俺達がこのままトップにいることを予測していたかのようだった。
多分、20階層ではさすがに追い付かれるだろう。先を越される可能性もあるが、それでもこのパーティーでやっていけるということを見せてやらないとな。
「ツキヤ。私役に立った?」
「十分だよ。いや、むしろ想像以上だった」
十分役に立った。ハイオークを俺と凛花で止めに行った時、あの時に凛花が後ろを見なかったのがその証拠だろう。今までの凛花なら、ハイオークを相手にしながらも、ミナト達の様子をうかがっていたが、あの時は完全に任せきっていた。そのせいで、普段以上にキレが良くてついていくのに俺が必死だったけど。
「ありがと。奥で昨日使ったポーションの補充でもしてくる」
「ああ。皆が揃ったら呼ぶよ」
「うん。これはお礼」
ほっぺたに柔らかい何かがあたり、それに合わせてふわっと風に乗って甘い香りがする。
匂いまで再現しているのか。なんて一瞬現実逃避を挟み、慌ててミナトの方を見ようとすると、ハラスメント警告で通報しますか?とポップアップが表示された。
「じゃあ、また後で」
「え? あ、ちょっと待って!」
呼び止める声に反応することなく、いつもアイテム作製をする際に使っている部屋に入っていったミナト。伸ばした手が届くこともなく空をさまよう。
お礼……いや、何も考えないでおこう。ただ、頬にキスされただけだし、何か言われたわけでもないし。
とりあえず、ハラスメント警告のポップアップはキャンセルしておき、落ち着くために残りのピーチティー擬きを一気に飲む。
「あ、記事見てるんですね! 魔法職のこといっぱい書いてくれてて良い記事ですね!」
「ぶっ! な、ナナカか。そうだな。しっかりまとめてくれていて良い記事だった」
急に現れたナナカに驚き咽たが吐き出しはしなかったのでセーフだろう。咽たのを利用して息を整えるついでに気持ちを落ち着かせる。
「大丈夫ですか? これもツキヤさんやミナトさんのおかげです!」
「だ、大丈夫。ナナカもヒールやリリーブも飛ばしてくれていたから良かったと思うよ。皆で作り上げた結果だ」
誰かが欠けていたら勝てたかどうかすら怪しい。この五人だったから上手くいったというのはあるだろう。上手さだけでなく、連携や信頼がないとパーティー戦では勝てないからな。
「そうですね! このパーティーで良かったです!」
とりあえずここで一区切りです。一応設定的には2章は20層クリアまでになりますが、その中でもここまでとここからで話のメインが変わります。ここまではミナト編で、このあとはまた夏樹と凛花に戻る予定です。




