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最後のドロップは

「よっしゃああ! ドロップしたぜ!」


 コルドラゴンのHPがゼロになり崩れ落ちる。それと同時にトライが自分のログに表示されたドロップアイテムを確認して右手に持った剣を高く突き上げた。

 ようやくか。ポップ待ちの間や順番に休憩をとったりはしていたが、三時間弱にも及ぶ狩りの結果、ドロップアイテムが必要個数集まった。

 はっきり言って、俺はあまり必要ないかなとも思っているが、効果のオンオフは詠唱前にターゲット指定しなければ使い分けることができるので、持っておいて損はないだろう。

 ミナトが作ったタグリッドリングの改良版であるタグリッドブレスレットならば、ターゲット機能以外にも守備力の増加もあるので防具として装備しておくだけでもいい。


「あれ? 終わったの?」

「ちょうど終わったところだ。さっさとクランハウスに戻るぞ」

「はーい。最後は持ってかれちゃったかー」


 途中から交代でメシ落ちしていたが、凛花がメシ落ちしている間にドロップアイテムが集まったので、最後の瞬間に立ち会えなくて残念なようだ。食事をしながら片手間でプレイできないから仕方がない。ダンジョン内なら中継で見ることもできるが、ダンジョン外だと録画ならできるがリアルタイム配信は今のところする手段がないからな。




 クランハウスに戻り、ミナトが最後の一つの作製に取り掛かる。ミナトがアイテム作製をしている間はやることがないので、ナナカ達が打ち上げ用の食事と飲み物を買いに行ってくれていて、俺と凛花とトライがクランハウスの中で待っている状況だ。


「クランハウスってこんなに広いんだな。これでいくらくらいなんだ?」

「これは百万ベルだったな。一番安いクランハウスだ」

「1Mか。これでも十分に思えるが、規模の大きいクランになればもっと大きくないといけないか」


 俺達はそれほどクランメンバーを増やすつもりもない。中盤以降になれば、階層に合わせてメンバーの入れ替えなんかも必要になるかもしれないが、それでも二、三パーティー分までかな。

 ダンジョン攻略はできる限りトップ集団に入っていたいが、俺と凛花が完全に固定だと考えれば、人を増やしても反感を持たれそうだし。それに、有能なプレイヤーは大きなクランに引き抜かれるか、自分でクランを作るだろうからな。今は目立っているが、そろそろ大きなクランもでき始めてきたから、わざわざ俺達のクランに入りたいというプレイヤーは少ないだろう。


「プラバスタはクランを作らないのか?」


 クランハウスの話になったのでついでに疑問に思っていたことを聞いてみる。パーティーとして活動しているプラバスタは他のクランからパーティー丸ごとでもいいからと勧誘されたりもしている。今のところは断っているようだが、クランに入った方が便利な点も多い。入らないにしても、自分達のクランを作れば勧誘は減るからいいと思うんだが。


「今は金に余裕がないからな。装備もアイテムも買ったばかりだとなかなか金が貯まりやしない」


 生産職の仲間か知り合いがいないと厳しいか。最前線の装備なんて作れるプレイヤーが少ないし、NPC売りのものは性能が少し劣る割には高い。アイテムに関しても今まではクレスのヒールはタンクの二人にしか使っていなかったから、アタッカー二人はポーションで回復していたし、タンクもクレスのヒールだけで回復量が足りないときはポーションを使用していたため消費量は多い。

 俺達みたいにヒーラーができるプレイヤーを二人入れるのは現状火力面でもタンクの負担にしてもきつい。俺がヒーラーもアタッカーもタンクも状況に合わせて引き受けているからこそできる戦法だからな。


「クランについては考えてはいるさ。まだもう少しはこのままやっていくつもりさ」

「困ったことがあったら言ってよね。そんなことで自滅されたらつまらないし」

「じゃあさ、ポーション譲ってくれよ」

「いいけど、相場の八割でね」

「ええー、金とるのかよ!」

「当たり前じゃん。対価は必要だよ。それか私と勝負して勝ったら無料であげる」

「それはノーサンキュー。八割で買うぜ」


 つまらなさそうに凛花は口をとがらせる。凛花と好んで戦いたがる奴なんてそういないからな。トライなら競ってくれていたから戦ってくれると思っていたのだろう。


「ま、俺の予想じゃ近々戦えると思うぜ」

「え? どういうこと?」

「秘密だ。お前に対策でもされたら勝ち目が一ミリも無くなってしまうからな」


 ええー、と凛花は机に突っ伏すが、横から見えるその顔は楽しそうに笑っている。

 トライの言った言葉が嬉しかったのだろう。対策をされたら勝ち目が無くなる、つまりは対策さえされなかったら勝ち目があると言っているようなものだ。対等の条件ではないのかもしれないが、それでも勝てると思ってくれていることが嬉しいのだろう。


「頑張ってくれ。レンヤに勝てたら素材さえ用意してくれたら装備の提供もしてやるよ」

「まじか! こりゃ絶対に勝たなきゃいけないな!」

「簡単には負けないよー! 私だってもっと強くなってみせるんだから!」


 頑張ってくれよ、トライ。凛花の本気を見させてくれ。

 だが、最後にそれを倒すのは俺だ。そこは譲らない。


「できた」

「お疲れ様。今ナナカ達が食事を買いに行ってくれているから、軽く打ち上げでもしよう」

「うん。集中したからお腹空いた気がする」

「こっちで食べても太ったりしないからいいよねー。本当にお腹が空いてたら食べても満足しないけど、ちょっと食べたいなってくらいなら、こっちで食べたら満足できるし」

「お前らはもっと食った方が良さそうな見た目だけどな。もう少し肉付きが良い方が男はそそるぜ」

「トライはちょっと黙っとけ」


 親戚のおっさんかよ。最初のころはお兄さん的なイメージだったが、どんどん素が出てるのかおっさん化している気がする。楽しそうだからいいが、一歩間違えればハラスメントで警告来るから気をつけろよな。


「お待たせしました! いっぱい買ってきたので、じゃんじゃん食べましょう!」

「お! いいね! 今日はパーティーだ!」


 買い出し組も戻ってきてテーブルの上に料理を並べていく。ゲーム内だからかまだ湯気がでている料理もあって美味そうだ。

 こうやって大人数で騒ぐのもたまには悪くないな。

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