システムアシストは
中央に大きな川がある11層。探索していると大きな川もそこに注ぐ小さな川も行動を阻害するので邪魔でしかないが、休憩している時には川に遊びに来ているかのような感覚になれる。この層は少し暑いので、川の近くの涼しさが心地良い。
馬鹿みたいに暑い現実の世界で遊びに行くよりも、VRでこれだけのリアルさがあるのならこっちでゆっくりしている方が楽でいいや。
「ツキヤもこっち来なよー!」
座りながら川に足を突っ込んでバシャバシャと水を蹴る凛花がこちらを見て手を振る。
足の装備を外し素足のきれいな肌に水が絡んでなんとも眼福な光景ではあるが、そこに近づく勇気は無い。だって、これ中継されてるんだぜ。俺以外のパーティーメンバーは女の子だし、さらに皆かわいい、その中でも凛花はファンも多い、俺がそこに行って楽しそうに話している姿を中継に映せば、掲示板なんかで叩かれること間違いなしだろう。
「俺はいいや。もうそろそろ探索はやめてクランハウスに戻るか」
「そうだね。ポートも見つけたからあそこまで頑張って終わりにしよう」
12層へのポートはこの休憩をとる前に見つけてある。ただ、丘の上からぎりぎり見えただけなので距離はまだあるが、周りを探索しないのであればいけるだろう。ここまでの経験上、ポートの付近はモンスターの数が多い傾向にあるので気を引き締める必要はあるが。
本日最後の戦闘に向けて、休憩はしっかりとる。VRのせかいだとどうしても疲れで動きが鈍るので、あと少しだとしても焦ることはできない。凛花のようにもともとのスペックが高くとも、ミスをなくすことはできない。それでも肝心なところではミスらないのが凛花なので頼りにはしている。
自分の装備である黒いコートがこの気温だと熱くて邪魔に感じるが、さすがにこれを脱ぐと守備力が心もとないので休憩が終われば嫌々装備する。環境適応の魔法もあるようだが、まだ覚えられないのでしばらくは我慢だ。女性陣はミナトの作る装備が薄手のひらひらとした装備なのでましだろう。寒い地形が来れば悲惨だろうが。
今日、プラバスタがゴーレム戦に挑むわけだが、無事に勝って11層にきたらデュークさんやリピドは鎧装備だからきつそうだよな。クレスさんが環境適応系の魔法を覚えているようなら条件を教えてもらおう。
「よーし。これを倒してあのポートは確保だ!」
「はい!戦闘準備オッケーです!」
「頑張って」
「じゃあ、行くわよ。ウォークライ!」
フィルがヘイトを集めて敵を集めると、凛花は剣を手に飛び出す。
支援魔法をかけ終わり、俺も攻撃に参加しようかなと思ったところでミナトが隣にくる。
「狙う先指示して」
「ん? ああ、いいぞ」
俺が攻撃に参加しても殲滅速度が少し速くなるだけだからな。凛花に合わせるにはもっと集中しないといけないからきつい。邪魔にならないように動くことはできるけれど、それではあまり役に立たないからな。
ミナトが詠唱を始める。水辺だからかヤドカリのような見た目のヤドザミが動き回っているが、まだ比較的当てやすい。ヤドザミは急な旋回ができないから、動いている方向をしっかり見ればどのあたりに魔法を放てばいいかはわかる。
「あそこらへんかな」
「わかった。ファイアーボール」
俺が指で示した場所に向かってファイアーボールが飛ぶ。ヤドザミがあたりに来たかのようにちょうどその場所へと来てファイアーボールが直撃した。
「おお。さすが」
すかさず次の詠唱を始めるミナトの表情は少し嬉しそうなので、次もあてられそうなヤドザミを探す。もう少し魔法職が使いやすくなるような何かはないのかな?このまま第二陣が来てしまうと、本当に攻撃魔法系の職業を選ぶ人はいなくなりそうだ。ただ、運営が動く気配は今のところないから救済措置的な何かがゲーム内に用意されていそうではあるが。
そういったことに関しては、ダンジョン攻略しかしていない俺達ではなかなか気づくことができないから、どこかのプレイヤーの情報を待つしかないな。
ミナトの魔法も4発中3発あたったので十分な活躍を見せ、ポートにたどり着いた俺達はダンジョンを出る。今のところ物理防御力の高いモンスターが多いから、ミナトの魔法があたるだけで殲滅速度がかなり上がる。この配置が何も考えずに行われたものでなければ、魔法を使わせようとしているということのはずなんだけれど。
「何悩んでいるの? 眉間にしわがちょっと寄ってるよ」
「魔法のことをちょっとな。やはり魔法を飛ばすのは難しいから、運営も何か救済策を用意しているはずだろうとは思うんだけれどなって」
「ツキヤもフィルちゃんに飛ばすときとかはたまに外しているもんね。使い続けたりしていればホーミングとかも覚えられるんじゃない? 剣でもスキル無しで振るのはアシストも殆ど無いから上手く切れないし」
「剣もスキルがないとダメージ出すの難しいよな。動きながら力を載せた攻撃なんてなかなかできやしない」
「慣れてきたから前よりは力も乗せられるようになったけどね。やっぱり重心の動かし方と、体をしっかり使って力を伝えるのが大事だね! そのためにも、しっかり動きを見るのも大切!」
それは簡単に言われてもできることじゃないんだよな。もとより何か武術をやっていたりしないとすぐにできるようなものではないが、それを自力で身に着けてくるのはさすが凛花だ。
俺も剣はまだまだできないな。まだ魔法を飛ばす方が楽かもしれない。そのあたりは人の得手不得手というところか。
「考えたところですぐにはわからないよ。簡単にわかることなら、今頃掲示板や攻略サイトなんかで情報が出回っているはずだから。それにこうやって試行錯誤しているのも楽しいし、それで得るものもあると思う。だから、今はプラバスタの皆を応援しに行こ」
「そうだな。早めに行ってギルドに来たところで声をかけるか」
「うん。この間は現実の方で見たから声をかけられなかったからね。頑張ってって背中でも叩こうかな? 漫画みたいで格好いいし!」
「思いっきり叩いてやれ。そのくらい気合入れてもらわないとな」
システムアシストにも限界はあるから、プレイヤースキルを磨くにはアシスト無しでも動けるように練習する方が良い。今は練習だと思って我慢するか。




