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ゴーレム

 まだフィルの蘇生は終わらないのか。

 そう何度も思ってしまうほどに長く感じる戦い。特に俺よりも長くゴーレムと対峙し続けている凛花の疲労は半端なものではないはずだ。

 だが、そんな様子を微塵も感じさせること無く凛花は生き生きと剣を振るう。徐々にキレが増していっているように見えるが、本気で戦える相手を見つけたことにより成長していっているのだろう。

 これだから天才ってやつは。もともとのスペックが高いのに、そこからさらに成長していく。相手が努力した分、それに応じるように自身も伸びていく。


 ゴーレムのHPが残り三割に近づく。ORDEALでは残りHPが五割と三割と一割のラインでHPバーの色が変わるため、ここでまた行動パターンが変わる可能性がある。


「一旦下がれ。三割を切って行動パターンが変わらなければこのまま続けるぞ」

「うん。気を付けてね」


 俺と凛花ならば、俺が落ちる方が立て直せる可能性は高い。支援魔法はかけさえすれば俺が死んでも効果は続くので、HPポーションをフルに使えば凛花ならば立ち回れるはずだ。だから、ここは俺が前に出て初撃を受ける。

 凛花と入れ替わるように前に出て攻撃する。ゴーレムの攻撃を正面からガードするのでは耐えきれない。受けるよりも流すか弾くイメージだ。もっと、もっと速く反応しないと間に合わない。

 自分の体なのに自分の体ではないように感じる。ここはVRの世界なので実際には自分の体ではないが。横なぎが来ると認識するよりも早くに体は動きだし、体勢を低くし籠手でゴーレムの攻撃を弾き上げる。

 自分の腕の勢いでのけぞり無防備になった腹の辺りに剣を叩き込む。攻撃系のスキルが無いので、ダメージはあまり出ないがゴーレムの自然回復よりはダメージを出せているので、ゴーレムのHPは減り続ける。


「来るよ!」


 凛花の声が聞こえたのと同時に体を衝撃が襲う。なんとかガードは間に合ったが、踏ん張り切れずに体は吹き飛ばされた。


「かはっ! ……ヒール」

「追撃来るよ! 気を付けて!」


 HPの全損は免れたのですかさずヒールでHPを回復する。ポーションも使ってHPをほぼ全快まで持っていき、ゴーレムの攻撃に対応する。

 まだ速くなるのかよ! これじゃ、攻撃をさばくので精一杯だぞ。


「攻撃は任せて」


 凛花が再びゴーレムに詰め寄り攻撃を始める。俺が攻撃を受けているのでスキルを連発して一気にダメージを稼ぎにいく。


「蘇生終わりました! 準備ももうオッケーです!」

「ゴーレムの動きを見て、慣れてきたら参加してくれ!」


 さすがにすぐに戻ってくるのはきついだろう。ゴーレムの動きがかなり変わっているから、少し観察してから戻ってきた方がいい。

 とはいえ、二人で受け続けるのはかなりきつい。凛花はまだ平気そうだが、俺は集中がそれほど続かないから、そろそろやばくなってくる。

 凛花の攻撃が激しいのでタゲがすぐに移る。俺も魔法を無駄うちしながらヘイトを稼ぐが、タゲは二人の間を行ったり来たりしている。


 上手く戦闘を続けられていたが、俺の集中が切れかける。ゴーレムへの攻撃に対する反応が遅れ、横腹に拳が掠る。ダメージ自体は問題ない。すかさず使ったヒールでHPは回復したが、衝撃で息が詰まった。


「タゲ取ります! ウォークライ!」


 追撃をフィルがガードし、ウォークライを発動してタゲを取ってくれた。

 逃げるように後ろに下がり、深呼吸をして息を整える。いや、本当に危なかった。さすがにあの追撃をくらっていたら落ちていただろう。フィルがしっかり観察できたかは分からないが、ここはフィルに任せるしかない。よく機転を利かせて飛び込んできてくれたものだ。


「大丈夫ですか?」

「ああ。衝撃で少し動けなかっただけだ。HPは回復しているから大丈夫だよ」

「良かったです。それにしても、さっきまでの戦い凄かったです! レンヤさんとの息もぴったりでしたし、あの動きの速くなったゴーレムの攻撃をさばき続けてた姿は格好良かったです!」

「ぎりぎりだったけどね。じゃあ、さっさと終わらせてゆっくり皆で打ち上げをしよう」

「はい! リリーブ。私も最後までサポートします!」


 再び剣を握りゴーレムを見る。ゴーレムの攻撃はフィルがしっかりガードしてくれているので、攻撃に参加しても問題なさそうだ。さすがに守備力が高いので正面からガードしてもHPの減りはヒールで追い付く。それでも受けるたびに伝わる衝撃でフィルは辛そうな表情を浮かべているので、できるだけ早く倒した方が良いだろう。


「一気に畳み掛けるぞ。このまま削り切る」

「うん! このまま勝ちきるよ!」


 そこからはもうサンドバック状態だった。フィルがひたすらウォークライを発動してタゲを取り続け、左右から俺と凛花が攻撃する。フィルのHPは俺とナナカのヒールに、ミナトがHPポーションをいつでも使えるようにスタンバイして絶対に0にならないように管理する。

 何度も危ない場面はあったが、最後はあっけなくゴーレムのHPを削り切って、ゴーレムの体が崩れ落ちて砂へと変わった。


「10層のゴーレムも一発でクリア―!」


 凛花が背中から倒れながら拳を上に突き出す。あれだけゴーレムと戦い続けていれば、かなりの疲労だろう。今回も勝てたのは凛花のおかげだった面が大きい。

 俺も疲労がやばいのでその場に座り込む。それに続いて皆が座って、今回もここで少し休憩する流れになった。


「よかったよ。やっぱり夏樹が一番楽しませてくれる」


 ゴロゴロと俺の近くまで転がってきて、起き上がった凛花が俺にもたれかかりながら耳元で呟く。


「約束したからな。一緒に戦うって」

「うん。信じてた」


 背中に合わせに座る凛花が黙ったので俺も話すのはやめ、少し目を閉じて力を抜く。

 隣に立って戦うのも良い。だが、それだけでは満足できない。ゲームの中でも良いからいつかは凛花を超えたい。

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