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10層ボス戦開始

 10層へと続くポートの前。

 モンスターと殆ど遭遇することもなくここまで来れたので、休憩は取らずにボス戦に向かうことにする。


「どんなボスでも慌てずにな。いつも通りやれば問題ないから」

「最初は私からね。タゲはしっかりとるわ」

「フィルのHPは私が回復し続けます!」

「狙える時はしっかり魔法でダメージを与える」

「勝つよ。私達ならできる」


 フィルが先頭で中に入る。順番に中に入り、最後に俺がポートをくぐる。

 ポートをくぐると、ゴブリンロードの時よりも広い森の中に開けた場所に出る。中央には崩れた遺跡のようなものが見える。

 遺跡か……予想するのならゴーレムといったところか。

 プロテクトをかけて準備を整える。フィルが戦闘エリアに入ると、地面が大きく揺れ、遺跡付近の地面が盛り上がる。砂埃が舞い一瞬視界を隠し、その中からは予想通りゴーレムが現れた。


「ウォークライ!」


 フィルのウォークライでゴーレムがこちらを見る。敵は1体のみ。あとは力がどれだけ強いか。

 ゴーレムが腕を振るいフィルの盾に打ち付ける。


「ヒール!」


 すかさずナナカがヒールを放つ。一撃の攻撃力はやはり高いようだが、今のフィルなら回復さえ切らさなければ問題ない。ガードさえミスらなければ、最初の内は問題なく戦える。

 意外と素早いゴーレムだが、対応できる速さなのでフィルは問題なく盾でガードし続ける。凛花の攻撃はそれほどダメージを出せないようで、ゴーレムのHPがなかなか減らない。

 持久戦になるとタンクが一人しかいないのでジリ貧になってしまう。凛花もそれがわかっているから攻撃の手を緩めない。少しずつだが、それでも確実にゴーレムのHPは減っていく。


 15分ほど経ち、そろそろフィルにも疲れが出てきている。自分にバフをかけ、剣を抜いてゴーレムに攻撃する。すかさず、凛花にも支援魔法をかけていき、ようやく俺にタゲが切り替わったのを確認してからフィルに一度休むように伝える。

 まともに攻撃を受けるときついので、ヘイストがかかった速度を利用してゴーレムの攻撃範囲ぎりぎりの位置をキープする。ここなら攻撃モーションに入ったらバックステップすれば当たらない。少し遅れてもガードしやすいので安全にタゲを取れる。

 フィルよりは守備力が落ちるのでガード上からでもそれなりのダメージをくらってしまう。動き回るせいで凛花もミナトも攻撃しづらく、与えるダメージは減ってしまうが、安全に倒すためには仕方ない。


 5分ほど経ったところで、フィルが再びウォークライを発動してタゲを取る。自動回復分でゴーレムに少し回復されたが、凛花が少しずづは攻撃してくれていたので回復量は微々たるものだ。


 フィルにタゲが切り替わってからは俺も攻撃に参加し、ゴーレムのHPを半分ほどまで減らした。


「うぉぉぉおおおお!」

「きゃ! ぐっ……」


 HPが一定ラインを下回ったことによる行動変化。急にゴーレムが唸り、スピードを上げてフィルに襲い掛かった。なんとか盾を出したものの、続けて迫ってきたパンチには崩れた体勢からガードすることができずにフィルが吹き飛ばされる。


「フィルちゃん!」


 吹き飛ばされたフィルに対してゴーレムは追撃せずにターゲットを凛花へと変える。フィルのもとに行こうとした凛花が、ゴーレムの動きに気づいて咄嗟に攻撃を回避する。


「ヒール!」


 ナナカがフィルにヒールをかけるが、フィルはピクリとも動かない。殆ど全快だったHPが連撃だけで全て削り切られたようで、HPバーは時間をかけて全て無くなった。

 ゴーレムの動きが速くなったことで、凛花も防ぐので必死だ。ヒールを飛ばして回復するが、一人では押し切られる可能性が高い。


「フィルの蘇生にどれだけかかる?」

「五分です」


 命の祈りは蘇生魔法だけあって発動までに時間がかかる。蘇生した後に、HPの回復や準備をしたとしても、フィルが戦闘に復帰するまで早くても六分はかかるか。


「復帰できるようになったら声をかけてくれ。ミナトもしばらくは魔法禁止で。タゲが移ると危ない」

「どうするんですか? フィルが落ちたらリタイアだったはずじゃ」

「いけそうだからな。最後まで粘ってみよう」


 アイテムがもったいない気もするが、ポーションくらいなら少し金を使えば良い。

 急な動きの変化について行けなくてやられただけだから、復帰できればフィルなら耐えられるだろう。


 集中しろ。この数日間必死に練習したからできるはずだ。ゴーレムの動きは問題ない。

 剣を握りしめ、ゴーレムを見る。フィルが復活するまでの間、俺と凛花でゴーレムを止める。


「代わるぞ」

「ごめん。ちょっと頼んだ」


 凛花が攻撃を弾いたタイミングでゴーレムの懐に飛び込み攻撃をする。上手くタゲが切り替わり、凛花が一旦息を整えるために下がる。

 凛花の調子は決して悪くない。むしろ、調子は良い方だと思うが、それでも押されるのか。ボスモンスターということもあり、ステータスで数段上回っているのだろう。俺がまともにくらったら一気に持っていかれる。


 目の前の行動に対して考えるな。どうせ、考えてから対応したところで間に合わない。

 ゴーレムの体が揺れる。前に進みながら強烈なパンチを打ち続け、距離を詰めようとしてくる。それに対して、剣と籠手で攻撃をさばくがダメージは徐々に溜まる。


「ヒール」


 ガードしていてもこれか。完璧なタイミングでガードしないと厳しい。

 もっと深く、もっと深く集中しろ。


「代わるよ」

「ああ、頼む」


 バフが切れかけたタイミングで凛花と交代する。今の数十秒の間は殆どダメージを与えられていない。凛花が一人の時もダメージは微々たるものなので、これは二人同時に行くしかないか。

 バフをかけなおし、余裕を持って凛花のプロテクトも効果を延長しておく。ヒールを凛花に飛ばし、気合を入れなおす。


「一緒にいくぞ」

「……うん! 隣は任せたよ」


 ニコッと笑顔を見せ、凛花が攻撃に移る。ゴーレムの懐に飛び込み切り上げ、すかさず横に逃げる。

 それを追って伸びるゴーレムの横なぎの攻撃を、俺が剣で打ち上げ凛花が再び攻撃に出る。


 相性ってものはどうしても存在する。凛花はオールラウンダーに近いが、どちらかと言えば自分から攻めるタイプだ。逆に俺は相手の動きを見て感覚的に読むタイプなので、相手の攻撃をガードする方が向いている。

 だから、凛花が特攻気味に突っ込んで、俺が凛花に飛ぶ攻撃を弾く。こうやって戦うのが一番俺達には合っている。


「ヒール」


 どうしても受けるダメージをヒールで回復しながら、二人でゴーレムを攻め続ける。徐々にゴーレムのHPは減っていく。だが、二人でも結構きつい。二人で位置を何度も変えながら攻撃の手は緩めないが、少しずつ疲労は貯まっていく。

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