10層を目指して
案の定、プラバスタのゴブリンロード討伐は、双天連月の休養日に成功していた。そこから一日後には互いに階層を1層ずつ更新し、今は俺達が8層の探索をし、プラバスタは7層の探索をしている。
両パーティーとも攻略には全く行き詰っていない。それだけボスの存在は大きいようで、ゴブリンロードと比べるとこの辺りの敵は楽に倒せる。つまりは、10層のボスでまたかなり厳しい戦いが待っているということだ。
プラバスタとアイテムの取引をしたこともあって、ゴブリンロード戦では装備の更新ができなかった俺とナナカとミナトの装備も更新されてはいるが、10層のボス前にはまた装備を更新しないといけないだろう。
「ウォークライ」
「一旦、レンヤさん引いてください」
「はーい」
「リリーブもかけておきます」
「ありがとう。ちゃちゃっと倒してくるね」
ゴブリンロード戦の影響か、それとも暴走して色々言ってしまって吹っ切れたのか、ナナカが自分から魔法を使用しヘイト管理も行うようになっていた。
ナナカは白魔導士と巫女の回復職の併せ持ちだったので、俺よりも回復系スキルの効果は高く、HP回復以外にも様々な種類の回復魔法を持っている。レベルが10を超え、巫女の職業で蘇生魔法の命の祈りを覚えたのが大きい。今まで俺達のパーティーで戦闘不能者が出たことはないが、これからを考えるとあった方が良い。ボス戦なんかは長期戦になる可能性もあるから、どこかで誰かがミスをして戦闘不能になるなんてのはいくらでもあり得る。
順調に敵を倒しながら進む。モンスターも積極的に倒しにいき、経験値とアイテムを手に入れることは忘れない。
「あ、レベルが上がったみたい」
フラワーソルジャーという頭に花が乗せられた二足歩行の謎の生物。多分体の部分が茎なんだろうが、緑色の変な生き物としか思えないモンスターを倒し終えた凛花が、自分のステータスを確認する。
レベルも順調に上がって凛花がこれで14になった。俺が13でフィルが12。ナナカとミナトが10で並んでいる。10層のボスに挑むまでに俺と凛花とフィルは15レベルまで上げたい。ナナカとミナトもできるだけ上げておきたいので、しばらくはレベル上げも重視しないといけない。
* *
ダンジョン探索を終えクランハウスでゆっくりとする。結局今日はポートを見つけることが出来なかったので、また明日もポートを探して8層の探索だ。
「最近は戦闘もかなり安定してるね」
「自分の役割も定着して、周りが見えるようになってきたのが大きいだろうな。レベルも全体的に上がってきたからっていうのもある」
「ツキヤの仕事が無くなってきているよね。フィルちゃんも一人でタゲを持っても崩れにくくなったし、そのおかげで私が自由に動けてナナカちゃんからもヒールしてもらえるようになったから」
「ぐっ……10層までには仕上げるから」
「ふふ。無理はしなくていいよ、ツキヤのおかげで安心して戦えるっていうのがあるし、支援魔法があるだけで楽だからね」
「そうですよ。私だけではヒールが回らなければヒールをして、フィルのHPの減りがきつければタゲを取って、最近は武器を作ったから攻撃にまで参加しているので大変でしょうから」
まあ、俺の場合支援魔法使いの職業で覚えられる自己バフと味方にも使える支援魔法のバフを自分にかければステータス的には万能タイプになれる。守備面が少し低いが、避ければタゲも持てるし、白魔導士の職があるからヒールは普通に使える。今までは攻撃アップのバフが無かったからダメージが出せなかったが、レベル12になって自己バフで攻撃アップを覚えられたから攻撃もできるようになった。
タンクとしてはフィル以下、回復にしてもナナカ以下、火力も凛花以下と完全に器用貧乏な感じだが。
話をしながら時間を潰しているとトライからチャットが届いた。トライの方も探索を終えたようで、ギルドに戻ってきたとのことだ。
「今日はちょっとトライと会う約束をしているから、少し出てくるよ。何かあったらいつでもチャットをくれればいいから」
「じゃあ、また明日も探索頑張ろうね」
クランハウスから出てギルドに向かう。ギルドの前で煙草を吸いながらトライが待っていたので、合流して目的の場所に案内してもらう。
「一応ミニゲーム扱いみたいで、一定記録を超えると段階的に商品があるようだが、今のところ誰も一番下の商品すら手に入れてないらしい。俺も一度だけやったことがあるが、正面からでも避けるのは難しかった」
「感覚に慣れるための練習だからな。商品は運が良ければもらえるもの程度に思っておくさ」
「ま、違うなと思うならさっさとやめて、普通にモンスターでも狩るんだな。一回200ベルもかかるから、むきになると意外と金が減る」
「さすがにこんなことで金はすりたく無いから気を付けるよ」
案内してもらったのは訓練場と看板に書かれた施設。中には魔法や遠距離武器の練習ができる動く的から、デスペナルティ―無しで模擬戦のできる部屋、トレーニングしてどうなるのかと問いたくなる筋トレができるジムのようなものまである。
その中に、この体の感覚のズレに慣れることのできそうな施設があったから、場所を知っているトライに案内してもらったわけだ。
10層に向けて、今のままでは駄目だから、俺もできることはしておかないと。




