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8話:彼の死を回避したい!

 ブルースが六歳の秋。

 ジェラルドは崖から転落死していた。


 それが私の読んだ小説に書かれていたことだ。そして今、ブルースは六歳。

 つまり。

 このまま手をこまねいてたら、最愛のジェラルドは小説の通り、転落死を……してしまう。


 そこからはもう、ジェラルドの死を回避するため、私はがむしゃらだった。


 ジェラルドは数行しか登場しない、小説の中のモブなんかではない。

 私はジェラルドを愛している。

 絶対に彼には死んで欲しくない!


 ヘッドバトラーが持って来たホワイトフォレストに関する本は三冊だけだった。

 足りない。

 王都中の本屋から、ホワイトフォレストに関する本を取り寄せ、血眼で読むことになった。


「……キャサリン、まだ読書なのか?」

「ええ、ごめんなさいね。ジェラルド」


 狩りまで、もう一週間しかなかった。

 崖がないか使用人に現地調査をさせたら、崖はあった。森の多くが崖沿いになっていた。これではどこの崖か、特定できない! しかも崖に近づくな、なんて当たり前のこと。危険と分かっているから、近づくことはない。ジェラルドにもここ何日も「狩りに行っても崖には近づかないで」と何度もお願いしている。


 最初は狩りの中止をお願いした。


 それに対するジェラルドの返事。


「キャサリン。すまない。今回の狩りはただの娯楽ではない。王太子と第二王子も参加するんだ。多くの有力貴族が随伴する。これはとても重要な社交のための狩りになるんだ。だからこそブルースも連れて行く。今回、君が留守番になるのは、あまりにも参加人数が多いからだ。他の貴族も奥方は留守番だ。同伴して、跡継ぎぐらい。分かって欲しい」


 もしかするとこれは小説のストーリーの強制力なのかもしれない。


 些末なイベントの変更は、小説の神様も目をつむってくれるだろう。だがジェラルドが狩りに行かないのは ……。


 狩りが不可避的に中止になるのは、悪天候。

 すでに逆さ坊主の準備はできている。

 どうしてもとなったら 、屋敷の窓という窓に、吊るす予定だった。


「キャサリン。わたしは自分がこんなに嫉妬深い人間だとは思わなかった」

「え?」

「君を虜にするこの本が許せない。そして我慢の限界だ」


 濃紺のローブ姿のジェラルドが、白のネグリジェ姿の私から本を取り上げてしまう。


「ジェラ……」


 キスで口を塞がれ、その後は……。

 本当はこんなことをしている場合ではないのに!

 でもジェラルドの嫉妬は溺愛という反動で私に返ってきて……。


 ◇


 初めて腰砕け状態で、動けなくなり、朝食をベッドで摂ることになった。

 ジェラルドは「申し訳ない」と、自ら私に朝食を食べさせ、「好きなだけ本を読むように」と告げ、執務に向かう。一方のブルースは、私を心配し、庭で咲いた秋薔薇を届けてくれた。本当に。心優しい子に育ってくれたと思う。


 まだ私も二十五歳。ジェラルドの体力に応えられると思ったが……。

 多分、あまりにも我慢を強いたから……。

 腰は砕けたが、幸せだったし、心は限りなく満たされている。例の件を除き。

 そう、ジェラルドを狙う死神の件を除き。


 こうして私はこの日もみっちり、ホワイトフォレストに関する本を読み、ジェラルドが崖からなぜ転落することになったのか。そのヒントがないか、探っている。本人は「崖に近づくはずがない」と言っているのだ。自らの意志で、近づくはずはなかった。


「はあ。いくら読んでも、似たり寄ったり。特にホワイトフォレストの名の由来になった伝説。これはもう弾き語りができるぐらい頭に入ったわ……」


 思わず独り言も出てしまう。


 ホワイトフォレストには、森の王と呼ばれる動物がいる。この森に特有と言われている動物で、それはとても珍しい白い毛を持つ鹿だ。そしてこの白い鹿は、森の王であるため、見かけても、決して狩ってはならない。もし白い鹿を手に掛けようものなら、その者は不慮の死を遂げるというのだ。そしてこの白い鹿が見られる森ということで「ホワイトフォレスト」という名がついた。


 しかしこの伝説は相当古い。


 私は本を読み漁り、お決まりのようにこの伝説が小話的に載っているので、頭に入っているが……。狩りに向かう大勢の貴族は、この話を知っているのかしら?


「お母様~!」


 間もなく夕方になる。さすがに夕食は起きてダイニングルームへ行こうと思っていたら、ブルースが部屋にやって来た。今日は、狩りに同行するという貴族の令息数名が、遊びに来ていたのだ。ブルースは彼らとのお茶会を終え、私に報告へ来たようだ。


「とっても美味しかったから。メイドには内緒だよ。それに今の時間、本当は甘い物を食べちゃダメなんだ。お夕食をちゃんと食べられなくなるから。でもお母様は病人でしょ。だから今日は特別だよ」


 ブルースの言葉に涙が出そうになる。躾の効果も出ているが、病人だから特別と言い、まだ珍しいホワイトチョコレートを私にくれた。「ありがとう、ブルース」と抱きしめると、ブルースはこんなことを話しだした。


「今回の狩りは、王太子と第二王子が参加するから、二人が認めるような獲物を捕らえた貴族には、褒美が出るんだって。だからね、僕、お父様にお願いするんだ。珍しい白い鹿を捕まえてって。コリンズ伯爵の令息キータが『白い鹿は、滅多にお目にかかれないんだ。だから捕まえたら一等賞だぜ』って、言っていたんだ。お父様が白い鹿を仕留めてくれたら、お父様は王子様から褒美をもらえるんだよ。それで僕は、みんなに自慢できる!」


 この話を聞いた私は「うん……?」と何かが引っかかっていた。

お読みいただき、ありがとうございます!

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