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33話:それは濡れ衣です!

「無実を証明できると。本当なのかね?」


 校長室のソファには、校長、教頭が横並びで座り、ローテーブルを挟み、その対面にブルースと私が座っている。そしてブルースは自身の無実を証明すると言うことで、教頭が保管しているカンニングペーパーを、この場で見せるようにお願いしたのだ。


「僕は担任の教師に、すぐにそのカンニングペーパーだという丸められた紙を取り上げられ、中身を確認できていません。その紙を見せていただきたいのです」


「まあ、いいでしょう。教頭、見せたまえ」


 校長に言われた教頭は、証拠品とわざわざ書かれた封筒から、しわしわの紙を取り出す。確かにそこには、著名な作家の名前と代表作、それが発表された年度などが書かれていた。


「これは僕が用意したカンニングペーパーではありません」


「どういうことかね?」


「校長先生も教頭先生もご存知の通り、僕は剣術大会で右腕を痛めました。今もこの通り、包帯をつけた状態です。よってこのテストでは左手で回答を書いています。剣は十年以上、左手で扱ってきました。ですがペンを左手で持つようになったのは、二年生になってからです。剣術大会で利き手に怪我をしたらと思い、左手を使うようになりましたが、文字はこんなに流暢に書けません」


 そう言われて改めてカンニングペーパーを見ると、その文字は実に整っている。校長と教頭は何やらヒソヒソ話し、そして教頭が立ち上がった。


「なるほど。それは一理ありますな。今から教頭に、ここ最近のブルースくんの提出物を持ってきてもらいます。比較してみましょう」


 これを聞き、私はブルースと顔を見合わせ、ホッとする。

 見比べたら、一目瞭然のはずだ。

 そして――。


 数枚の紙を手に教頭が戻ると、全員で見比べることになった。


 左手で書かれたブルースの文字は、幼い子供の文字のよう。読めなくはないが、稚拙に感じる。カンニングペーパーの文字とは全然違う。


 これで濡れ衣だと校長も教頭も分かったはずだ。


「確かにこのカンニングペーパーは、ブルースくんが書いたものではないのでしょう。利き手である右手がそんな状態であれば、ご家族はさぞかし心配ですよね。これがカンニングペーパーとは知らず、代筆をしたのでは?」


 校長が私をじっと見た。


「校長先生! お母様にそんなことをさせるわけがありません!」


 これまで冷静だったブルースが、家族を巻き込んだと言われ、さすがに怒りをあらわにした。


「ブルース、落ち着いて。座って頂戴」


 ソファから立ち上がっていたブルースを座らせ、一考する。

 感情的になっても問題は解決しない。


 ならば。


「筆跡鑑定をいたしましょう」


「「筆跡鑑定!?」」


 校長と教頭の声が揃い、ブルースは驚いて私の顔を見る。

 前世に存在する筆跡鑑定は一応、この世界でも存在していた。

 だが犯罪捜査で使われているわけではない。

 どちらかというと商業などの分野で使われていた。


 というのもこの世界は、サインの文化で成立している。よってそのサインは、本人がしたものなのかの確認のため、一部で筆跡鑑定が採用されていたのだ。一部となるのは、王侯貴族が契約書などにサインをする時は、多くの証人が立ち会う。よってサインの偽造は、そもそも無理だった。


「このカンニングペーパーは、故意にブルースの席に置かれています。犯人はブルースの周辺の席の生徒ではないか――そう私は考えます。ですが私や主人が疑われているのであれば、私達も含め、該当する生徒達の筆跡鑑定を求めたいのですが。費用はこちらで持ちます」


 校長と教頭は顔を見合わせ、思案している。


「まさか筆跡鑑定を持ち出すとは……。ですが筆跡鑑定はごく一部で利用されているもので、一般的ではありません。信頼できる立場で筆跡鑑定をできる人間がいるのか……」


 校長の言うことは尤もだ。でもここで食い下がるわけにはいかない。


「見つけてみます。お時間をください。それまではブルースをカンニング犯と断定はせず、テストを受けさせていただけないですか? 先程の個室で構いません。教師の監視の下、残りのテストを受けさせていただきたいです」


 あんな懲罰部屋のような場所で、ブルースにテストなんて受けさせたくない。でもあの部屋であれば、ブルースを貶めようとしている生徒は近づけない。むしろ、好都合。


「……分かりました。特別に許可しましょう。フォード公爵家からは、毎年多額の寄付もいただいていますから」


 校長の口角が不自然に上がる様子に理解する。つまりこの配慮を汲み、今年の寄付額を増やせ、ということだろう。増やすかどうか、その判断はジェラルドがすることだ。だがここは「ご配慮痛み入りますわ。さすが校長先生です。主人に口添えしておきます」と微笑む。


 こうしてブルースは別室でテストを受け続け、私は筆跡鑑定を行う信頼できる人間がいないか、探すことになった。


 この日の夜、領地視察から戻ったジェラルドにこの件を報告すると。


「まったく。誰がこんな濡れ衣をブルースに? そのカンニングペーパーをブルースの席に置くことができた生徒は、どこのどいつなんだ!?」


 濃紺の寝間着姿で私の寝室に来たジェラルドは、怒り心頭だ。


 夕食の席では、ブルースがテストに集中できるようにと、ジェラルドは「わたしはブルースを信じる。筆跡鑑定もあるから、お前は何も気にせず、勉強に集中するといい。大丈夫だ」としか言っていない。


 でも今は私と二人きりなので、思いっきり、憤慨している。


「カンニングペーパーを置いた可能性がある生徒については……箝口令が校長から出て、ブルースも教えてくれません。どうやら爵位を考慮すると、我が家がその生徒の両親に圧力をかけるのではないか。そこを心配したようです」


「……なるほど。ではキャサリン。筆跡鑑定をできる人間の当てはあるのか? しかも相応の権威ある立場の人間が必要だ。だが筆跡鑑定なんてあまり重要視されていない。……領内に誰かいないか、通達を出し、探すこともできるが」


 ジェラルドが心配そうに、ベッドに座る私を抱き寄せた。

 白の寝間着を着た私はその引き締まった胸に顔をつけ、「大丈夫ですよ」と応じる。


 学園から屋敷に戻る前、王立図書館に立ち寄り、学術年鑑を閲覧したのだ。そこには様々な分野の研究者の名がまとめられている。そこで筆跡鑑定をできる専門家がいないか探し、王都でたった一人、それに該当する人物を見つけ出すことができたのだ。

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