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2話:あれはハッピーエンドではないわ!

 美少年の名前、それはブルース・ヘンリー・フォードだった。


 その名は、私が図書館に返却しようとしていた小説『婚約破棄されても幸せになります!』で、ヒロインに婚約破棄をつきつけるダメ令息の名だ。


 つまり。


 ここは小説の世界であり、私はダメ令息のまさかの母親に転生していた。


「奥様、顔色が悪いですが、大丈夫ですか?」


 ハッとして侍女を見る。彼女の名は……モナカ。

 頭の中で、キャサリンの記憶と前世の私の記憶が、スパコン並みの速度で処理されている。

 だが、高速すぎて、クラクラしていた。


「最中……モナカ、悪いけれど、少し休みたいの。ブルースを連れ、フラミンゴの庭園でも見ていてもらえるかしら?」


「えー、僕、アナコンダを見たい」


 !? なぜ、アナコンダ!?

 アナコンダって、人間を丸飲みする巨大ヘビよね!?

 90年代の映画で、売れる前のジェニファー・ロペスが出演していた。


 なんでそんなものを、この子は見たがる!?

 子供って、ライオンとかキリンが好きなんじゃないの……?


 ううん、待って。

 前世で弟と動物園に行った時も、アイツ、「俺、タランチュラとコモドオオトカゲを見るからな」と訳の分からないことを言っていた。


 そうか。


 子供は……大人の想像のはるか斜め上を行くのかもしれない。


「ブルース。アナコンダはパパと一緒の時に見ましょう。ゾウの時のように、襲い掛かって来るかもしれないから。丸飲みされると困るわ」


「えっ、アナコンダって人間を丸飲みするの!?」


 すると侍女の後ろにいるグレーの作業服姿の飼育員が、眉を八の字にして遠慮がちに口を開く。


「こ、公爵夫人、ゾウは襲ったわけでありません。あれは親愛の情を示しただけで……。それにアナコンダは、体を獲物に巻き付け、絞め殺すことはあると、現地人から聞いています。ですが人を丸飲みには……」


「まあ、そこの飼育員! 公爵夫人に失礼な!」


「いいのよ、モナカ。私はアナコンダの生態に、詳しいわけではないから。良かったら飼育員さん、息子に付き添っていただける? 動物の生態について、息子に解説してくださるかしら?」


 これにはブルースの目が輝き、モナカは驚き、飼育員は戸惑う。そこでモナカに目配せをすると、まさに袖の下からスッと紙幣を渡す。飼育員は「!」となるが、ありがたく受け取り、侍女とブルースを連れ、休憩室から出て行った。


 そこで私はボロボロの革のソファに座り、一息をつく。


 しばらくは、キャサリンと前世記憶の融合。

 終わるのを目を閉じて待つ。

 数分でそれは終わり、私は……盛大なため息をつく。


 どうやら間違いなく、私はあのブルースの母親のようだ。

 喪女からいきなり夫がいて子持ちなんて。

 しかも前世記憶の覚醒、遅すぎる!

 というかですよ、小説の世界に転生したのは、よーく分かった。

 何せその小説が、私の前世最期で一番近くにあっただろうから。

 でもよりにもよって、婚約破棄をヒロインにつきつける令息の母親に転生ではなくても、いいのでは?

 女性の登場人物は、他にもいたわけでしょう?

 転生したら「十代だわ!」じゃないの?

 ううん、待って。

 キャサリンは十八歳で結婚し、ハネムーンベイビーに恵まれている。息子は六歳だが、私はまだ二十五歳。前世よりは、一応若返っている。

 とはいえ、なぜキャサリンに転生しているの、私?


 あ、でも……。


 私は正直、ヒロインのような婚約者を逃すなんて、ブルースは大バカ者だと、前世で思っていた。でもブルースは、子爵令嬢のハナと浮気するような、クソ野郎。そんなブルースとゴールインしても、結局、ヒロインは不幸せ……?


 違うわ! そうとも限らない。もしブルースを、あんな高飛車なことを言わない令息に育てることができれば。ヒロインと婚約破棄なんて、しないのでは?


 そうよ、きっとそうだわ!


 ヒロインはヤンデレ第二王子と結ばれ、ハッピーエンドということになっているが、あんなの束縛エンドだから! あんな男(スチュアート第二王子)に渡すくらいなら、私が責任をもってちゃんと育てたブルースと結婚した方が、ミユは幸せになれる。私だって嫁いびりなんてしない。


 婚約破棄を言い放つ令息の母親に転生! でも安心してください。軌道修正してハピエンにいたします!


 私は心の中で誓いを立てる。

 きっとこの誓いのために、私はこの世界にキャサリンとして転生したに違いない。


「!」


 もう、戻って来たの!?


 さっき出て行ったばかりのブルースは、侍女に抱っこされ、戻って来た。六歳なのに侍女に抱っこされ、しかも……。


 なんでソフトクリームを両手に?


「ブルース、もしかしてこのソフトクリーム、一つはお母様の分かしら?」


「違うよ~。ソフトクリームはチョコレート味とバニラ味があったから、両方食べたかったの。お母様は、食べたい物は何でも食べていいって、言ったよね~? それにお母様は公爵夫人でしょう。食べたければ自分で買えばいいよね。お金あるんだから」


 くっ、こんなに愛らしい美少年なのに。ここは「うん、お母様に一つあげる~!」ではないのね。やはり高飛車の気配がそこはかとなく感じられる。それよりも!


「モナカ! ミックス味をなぜ買わないの!?」


「!? でも坊ちゃまが両方食べたいと……」


「両方食べたい人のために、ミックス味があるのでしょう! ソフトクリームを二個も食べたら、カロリー摂り過ぎよ。もう帰って夕ご飯なのに!」


 モナカは目を白黒とさせている。

 その気持ちは……分からなくもない。

 キャサリンのこれまでの記憶を見る限り、ブルースのことは甘やかし放題だ。

 二個食べたいなら、二個食べさせる。カロリーなんて概念はなく、夕ご飯が近かろうと関係なかった。


 うん……。

 もしかしてブルースが、子爵令嬢と浮気したり、婚約破棄なんてやらかすのは、親の育て方が間違っていた……?


 そうだ、そうよ。間違っていたからだ!

「お母様は、食べたい物は何でも食べていいって」――これ、間違った教えだから~!


 軌道修正が必要なのは、息子だけではなかった。母親であるキャサリンもそうだ。


 ここは息子と二人三脚で、ヒロインの束縛エンドを回避するために、頑張ろう!

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