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巨塔への突入、反撃の時

 グライフィオスから裁きの雷が放たれ、ビロウレイの城は灰燼に帰した。半分以下の出力であったのにも関わらず、遠く離れた場所に位置する巨大建造物を捉えたのである。

 その脅威を間近で目撃したアリシアは、もうピオニエーレの好きにはさせないとグライフィオスに突入し、宿敵の姿を探していた。


「ピオニエーレ……きっと上層部にあるコントロールルームにいるはずです」


「なら、サッサと叩き潰すぞ」


 アリシアの推測を聞いたミューアが先行して階段を駆け上っていく。グライフィオスの塔下層部には敵の気配はせず、最後の防衛戦力は主要部である魔力精製炉とコントロールルームに配置されているのだろう。

 エルフの先導を受ける騎士隊も含めれば、その戦力は二十人近くにもなり、しかも一人一人が確かな実力を有している。以前は不意打ちによって圧倒的不利に陥ったが、正面切っての戦闘ならば簡単には負けはしない。

 一同は絶対に勝利を掴むという気合と共に、一気に中層まで辿り着いた。


「出たな…! ナスターシャめ!」


 グライフィオスの中間部は広い空間となっている。ここは物資搬入のために用意された場所で、航空輸送機用のカタパルトが設置されていた。古く錆び付いたカタパルトは塔側面のハッチへと繋がっていて、そのハッチを解放することで外部に出入り出来るようになるらしい。

 今はハッチが閉められているので広大ながらも閉鎖空間と化し、しかもナスターシャとピオニエーレ、ティタン・ゴーレム五体が待ち構えていたのだ。


「ミューア……こうもあたしの邪魔をする貴様だけは許さない」


「そりゃコッチのセリフだ! テメェのようなクソカスこそ許されると思うなよ。選定戦の時の不始末は…ココでケリを付けてやる!」


 怒れるダークエルフのミューアは、剣先をナスターシャへと向ける。今度こそ因縁を終わらせようという固い決意も同時に向けられて、それを理解するナスターシャも刀を引き抜いた。


「アナタ方にはここで死ぬ権利を与えてあげますよ。本当ならばエルフの雷で焼き払って差し上げたいところでしたがね」


「二度とアナタにはグライフィオスの魔道砲は撃たせません!」


「ふん……もう次射のためにチャージを始めていますよ。さぁて、今度はドコの街を狙うとしましょうかねぇ」


「それを阻止するために来たのですから!」


 アリシアはメガ・アロー・ランチャーで狙撃を試みる。勿論、ターゲットはピオニエーレで、ティタン・ゴーレムの指揮者である彼女を討伐すれば勝利に近づけるのだ。


「わたしを狙っていると分かっているのだから!」


 対するピオニエーレは、ティタン・ゴーレムへの指揮機能を付与した独自の杖をかかげ、自身の周囲に魔力障壁を展開する。ハイエルフとして完全に覚醒したピオニエーレの高濃度魔力を使用していることもあり、まさに鉄壁の防壁となってアリシアの射撃を防いだ。

 その障壁を突破するには、もっと攻撃を叩きこむしかないが、ティタン・ゴーレムが大暴れしているために狙いを定めるのも困難になってしまう。


「このゴーレムの群れをどうにかしないと…!」


 岩石の腕部から繰り出されるアームパンチを回避しながらも、アリシアはピオニエーレを視界に捉え続ける。

 その乱戦の中で、アリシアは一つの対抗策を考えた。今戦場となっている場所は天井も高く球場ドームほどに開けているので、これならば翼を用いて敵の上をとることが可能なのだ。


「ティタン・ゴーレムからの妨害を受けないためには飛ぶしかない!」


 アリシアは全身に魔力を漲らせ、ハイエルフの力を解放する。そして背中には半透明の白い翼が展開されて、アリシアは金属製の床を蹴って浮遊した。


「射線を遮る物が無い…これなら脳内コントロールをしなくとも直撃をかけられます!」


 あとはピオニエーレに集中砲火を浴びせればいい。そうすれば魔力障壁を砕き、ピオニエーレ本体を撃ち抜けるはずだ。

 しかし、アリシアの意図をピオニエーレも見抜いている。このまま頭上から一方的に撃たれる気など毛頭も無く、防御の姿勢から攻勢に転じた。


「わたしとてハイエルフだということを忘れないでいただきたいな!」


 ピオニエーレもまた翼を生やし、杖でアリシアに牽制の魔弾を発射する。

 二人のハイエルフによる空間戦闘が開始され、互いに遠距離武器を用いた撃ち合いとなった。


「チィ…! いくら広い空間とはいえ、動きにくさはありますわな……」


 矢をギリギリで躱したピオニエーレは舌打ちをしながら上昇をかけた。

 彼女の言う通り広大とはいえ屋内であるため、飛べる高度には限界がある。特にアリシアの追尾攻撃を避けるには大きく逃げる必要があり、ピオニエーレは手狭に感じてフラストレーションを溜めていた。


「ならば……戦場を移したほうが良さそうですね」


 反転し、ピオニエーレは上の階を目指して飛翔する。この上は魔力精製炉が置かれた部屋があり、そこからなら外に出ることが出来るからだ。ちなみに、物資搬入庫のハッチを開けるためにはコントロールルームから制御する必要があるので、今ここで操作は出来ない。


「逃がしはしません!」


 怨敵の動きを逃走だと思ったアリシアは必死になって追撃していく。このまま彼女を逃がしてしまっては、なにも解決にはならないのだ。

 

「アリシアを一人にするわけには…!」


 そんなアリシアを心配するミューアはナスターシャの斬撃を受け流しつつ、どうやってアリシアを援護するか考えていた。飛行能力は無いので直接戦闘に介入は出来ないが、大切なアリシアを一人で危険な目に遭わせたくない。


「ミューアちゃん、ここはわたくし達に任せなさぁい」


「タチアナ…?」


「アリシアちゃんを頼んだわ。ゴーレムは、わたくし達が引き受けるからぁ」


「ああ……頼んだ!」


 背中合わせにタチアナと並んだミューアは、彼女の言葉に頷き駆け出していく。

 

「貴様の相手はあたしだ! 行かせるものかよ!」


 だが、当然ながらナスターシャはミューアの好きにはさせない。刀を翻してミューアに襲い掛かり、この場で仕留めんとばかりに殺意を籠めている。

 そんなナスターシャをタチアナとルトルーが邪魔するが、軽くあしらわれてしまった。


「しまった…! ミューアちゃん、ナスターシャが!」


「大丈夫だ。ナスターシャを始末しつつ、アリシアの援護もしてみせる。そっちはティタン・ゴーレムを!」


 ナスターシャの一人くらいならば負けはしないと、ミューアはグッと親指を立てた。ティタン・ゴーレムの妨害があっては苦戦もするだろうが、一対一の決闘であれば対処のしようは充分にある。


「片手間にあたしを倒すだと…! そういう思い上がりをする貴様が鬱陶しいんだよ!」


「テメェには言われたかないわ! ブッ潰してやるから、来れるもんなら来やがれナスターシャ!」

 

 ミューアはナスターシャを剣戟で弾き飛ばし、アリシアの後を追って螺旋状に設置された階段を駆け上っていく。ハイエルフではないので物理的な移動手段しか出来ないのはもどかしく、アリシアの隣を歩みたいと願望するミューアは情けなさを感じて下唇を噛んでいる。


 こうして、アリシア対ピオニエーレ、ミューア対ナスターシャという構図となり、宿敵同士による激闘が始まろうとしていた……






 ピオニエーレは魔力精製炉の隣をすり抜け、自分で破壊した壁の大穴を目指す。その先には無限にも思える空が広がっていて、狭苦しい屋内から飛び出して大きく息を吸いこんだ。


「こうして見下すのは気分がいい……城の連中もこうやって王都の人間を下に見ていたのでしょうな」


 勝手な妄想をしながらも、後方から迫ってくるアリシアの気配を感知していた。最初はアリシアに対して弱者というイメージしかなかったが、今の彼女は強いプレッシャーを感じさせる存在となっていて、ハイエルフとして覚醒したこともあり無視できない相手である。


「アリシア・パーシヴァル……この世界にハイエルフは二人といりません。わたしだけが選ばれし一人となればいいのですよ」


 杖を差し向け、魔弾を使って迎撃するピオニエーレ。今度こそアリシアを撃墜してみせると気合の入った一撃が勢いよく直進していく。


「やられるわけには…!」


 対するアリシアは射線上から退避し、魔弓に魔力をチャージした。


「もう終わりにしましょう。アリシア・パーシヴァルがアナタを倒します!」


「ふん、小娘如きが調子に乗っちゃって! グライフィオスはわたしの物なのですから!」


 エルフ村上空にて、再びの空中戦が繰り広げられる。互いの魔力を帯びた遠距離攻撃はビームのような残光を描き、殺意を籠めた撃ち合いとなった。

 前回、このような射撃戦になった時は魔力量を忘れてパワーダウンに陥ったが、アリシアとピオニエーレはその反省を活かし、残存魔力を考えながら一発一発を大切に撃ち出している。

 しかし、縦横無尽に動ける相手に直撃させるのは難しく、掠めることはあっても仕留められずに損耗戦の様相を呈していた。


「いつまでも避けられるとは思わないことです!」


 次第に焦れてきたピオニエーレは、両手で杖を支えて狙撃の体勢に入る。


 グライフィオスを巡る戦いは佳境に差し掛かった。

 果たして、この場に集う者達の運命は……


           -続く-

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