表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

82/86

光芒のグライフィオス

 ピオニエーレが苦肉の策を講じている中、ベルギットは戦況の進み具合を見て行軍を決意する。確実に陽動は上手くいっており、これならば敵陣を突破するのも容易であろう。


「出撃の時だ! グライフィオスを目指して進軍!」


 その号令を聞いたアリシアは、待ってましたとばかりに立ち上がる。別に彼女は戦闘狂というわけではないが、これほどに参戦を待ち望んだ戦いは無い。

 魔弓を装備し、突撃していく騎士隊を追うようにしてエルフ村に足を踏み入れる。


「ピオニエーレとの因縁に決着を付けてやります!」


「ふふ、気負いすぎよぉ。ここは冷静にねぇ」


 闘志に溢れるアリシアを守護するようにタチアナが近くに控え、ルトルーも盾を前面に構えている。

 そうして一直線にグライフィオスを目指すが、その道中は思ったほど楽ではない。彼女達に気が付いたティタン・ゴーレムの二体が立ちはだかり、鉄壁の防御布陣を形成していた。


「邪魔だてするのならば叩き潰す!」


 しかし、その程度でミューアやベルギットといった猛者の足を止めるなど不可能だ。むしろ、行き掛けの駄賃とばかりに襲いかかっていく。

 迎撃の姿勢を取るティタン・ゴーレムに対して肉薄し、剣を一気に振り抜いた。


「砕けろよ!」


 ミューアの剣戟がティタン・ゴーレムの装甲を砕く。頑強な岩によって形成されているのだが、魔力を帯びた強烈な一撃には耐え切れない。

 しかも、後続の騎士達がよろけたティタン・ゴーレムに集中攻撃を仕掛け、一瞬にして撃破した。

 この流れるような連携で敵陣を突破していき、グライフィオスまでもう少しの距離へと近づいていく。






 そんなアリシアらの強襲をピオニエーレも見逃していない。もはや乗り込まれるのは時間の問題だ。


「ふん、損切りのような決断をしなければならないのは癪ですがね……わたしの恨み、ここで晴らさずしていつやると言うのか!」


 ピオニエーレは魔道砲の充填が終わったことを確認しながら、呻くように呟く。約四割の出力しか確保できなかったが、それでも打てる手を打たねば気が済まない。


「異種族間交流の名目で、雑用やら面倒な仕事を押し付けてきた城の者共め……女王直属の政務官だかなんだか知りませんがね、調子に乗っていて本当にムカついていたんですよ。だから、この瞬間を待っていたんだ、わたしは!」


 極めて個人的な恨み節を並べるピオニエーレ。

 実のところを言うと、王都を砲のターゲットにしたのは戦術的な観点からではない。彼女の語った理論は、あくまで建前である。

 本当の狙いは、城に勤める者達を抹殺することにあった。ピオニエーレは外交官でありながらも城から様々な仕事を押し付けられて、それが彼女にとってストレスとなっていたのだ。

 ナスターシャはピオニエーレと出会った時に鬱憤が溜まっているように見えたとアリシアに語っていたが、その根本の理由がコレなのである。


「エルフ議会も追加の人員派遣を断るなど……村での安寧とした暮らしを手放したくない一心なのは分かっていましたよ…!」


 そして、エルフ議会にも怒りを露わにする。外交官はピオニエーレ一人だけで、補充の要請を行うも却下されていた。

 このことからピオニエーレは故郷から見捨てられたと思ったのだ。五十年も放っぽり出された状態では次第に同族だという意識も薄れていき、だからこそ襲撃計画を考えるのにも躊躇いは無かった。


「ピオニエーレは……デボラはココにあり! もう誰の道具にもならない! むしろ、貴様共がわたしの支配下に置かれて管理される未来を享受するのです!」


 感情を持つ知的生命体は精神に負荷がかかれば簡単に狂ってしまい、理性だとか秩序をかなぐり捨て、感情任せに全てを裏切り破壊するのも厭わなくなるのだ。

 今のピオニエーレはまさに狂人化しており、誰の声も届かない。


「パワハラ管理職どもがァ! これで死ねよやァ!!」


 憎悪を籠めた叫びがコントロールルーム内に響き渡り、直後、ピオニエーレは魔道砲のトリガーを脳内操作で引く。

 この瞬間、ピオニエーレは未だかつてない高揚感、そして万能感に包まれていた。 

 まさに裁きの一撃が、彼女の意思のもとに世界を照らしたのだから……

 





 それは、一瞬の事であった。

 轟音と熱波、閃光が空を駆けたのだ。


 まさに空振、時空が壊れたかのような波動が村の中にいる者全てを襲う。


「なんの光ッ…!?」


 アリシアは理解の範疇を超えた出来事を前に、身を屈める事しか出来ない。本能的な恐怖が襲い、動けずに竦んでいた。

 

「魔道砲が…エルフの雷が…?」


 手で光を遮りつつ、目を細めながら事態の元凶を目撃した。

 彼女達が目指していた塔の側部、巨大な筒のような形状の魔道砲が破壊の煌めきを放っていたのだ。

 エルフの雷と伝承で形容されていたのも納得で、薄い黄色の魔弾が、それこそレーザー照射のようにエネルギーを撒き散らしながら飛翔していく。


「ま、まさか! チャージには後一日以上は必要だったはずなのに!」


 驚愕と絶望に苛まれつつ、魔道砲が王都を狙ったのだと直感する。アリシア達を掃射せず、ピオニエーレが狙撃をする場所など一か所しか思いつかなかった。

 それはベルギットも同じで、アリシアの近くにいた彼女も王都の危機を察知している。


「ヤツらめ、追い込まれたからと最大充填に足りずとも発射を強行したのだな!」


 ベルギットはピオニエーレの考えを理解したが、時すでに遅しだ。

 具現化した殺意は三十秒ほど大地を照らして、ようやく収まる。残り香のような魔力の粒子が四散し、戦闘音も無くなった村が静寂に包まれた。




 エルフ村を起点に照射された魔力光弾は、ビロウレイ王国領土を一直線に迸る。その光跡はディガーマやシーカールからも観測されて、何も知らない人々は世界の終焉かと恐れおののいていた。

 しかし、この奔流が終わりをもたらす対象は王都に築かれた城である。


「なんだろう…?」


 城に勤務する職員の一人が窓の外に目を向けた。太陽とは違う煌めきを目撃し、その正体を知りたいと思ったからだ。

 だが、その職員は光の正体を永遠に理解することはない。

 何故なら、自らの肉体が光の中に溶けていき、跡形も無く消え去ってしまったからだ。

 

 王国の象徴でもあった城は、一条の光線によって焼かれ、崩れていく。

 その内部にいた人間に退避する時間などなく、ピオニエーレの目論見通りに消滅し、断末魔さえ残らなかった……




「くそっ…女王陛下の安否は…!?」

 

 今すぐにでも王都に帰り、女王の無事を確認したいところである。

 しかし、目の前の敵を殲滅しなければ事件は解決せず、再びの脅威として立ち塞がるだろう。

 

「前進…前進だ! ピオニエーレは逃がすわけにはいかん!」


 アリシアも頷き、根性で心を奮い立たせて魔弓を構える。一時的に機能停止していたティタン・ゴーレムが動き出し襲い掛かってきていたのだ。


「これ以上はやらせません! やらせはしません!」


 怒りが魔力を増幅させたのか、強烈な一撃となって敵を捉える。思考はまだ乱れてはいたが、矢の軌道を変えてティタン・ゴーレムの頭部を貫通した。


「エルフの雷を悪用し、あまつさえは味方を撃つなど……これは皆の命を、故郷を守るための力なのに!」


 ハイエルフがどのような思いでグライフィオスを建造したのかは分からないが、過去の魔物との戦いでの運用を見る限り、アリシアの言うように仲間達を脅威から守るためであったのだろう。

 そして、その強大なる性能が悪意ある者に利用されないよう、厳重に封印をしていたのである。更には種族全体に厳しい掟を課し、そもそも悪が栄えないよう策を講じていた。

 だが、大昔のハイエルフが危惧していた事態は現実のものになってしまったのだ。


「ハイエルフの能力を継承したというのに、なんで!」


 アリシアの叫びは戦場に呑み込まれていく。


「アリシア、止まるな! アタシの近くに!」


 絶叫のせいで動きが鈍っているアリシアをミューアが援護し、抱き寄せるように手を引いた。戦場で止まってしまっては的にしかならない。


「その怒りはヤツに直接ぶつけてやれ。魔力の矢に乗せてさ」


「はい、ミューアさん!」


 二人は強力してティタン・ゴーレムを排除しつつ、ピオニエーレが居城としているグライフィオスの側面まで辿り着いた。


「グライフィオスの魔力障壁は消えている! これなら突入も可能だ!」


 ミューアは、魔道砲起動前までは存在していた魔力障壁が消えていることを確認した。このバリアーは万物の侵入を防ぐが、砲にパワーを流用したために消滅したのだ。

 アリシアはミューアに続き、いよいよグライフィオスへと侵入を果たす。


           -続く-

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ