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ミールストーム作戦

 焼き払われて荒廃したエルフ村にかつての面影は無く、あまつさえは裏切りのダークエルフであるピオニエーレの軍事拠点と化していた。至る所に配置されている無機質なティタン・ゴーレムが警戒を行い、無害な動物の侵入すら拒んでいる。


「本当に大きな塔だな。アレでは最上階まで昇るのは一苦労だ」


 村の中心部にはグライフィオスという名の巨大な塔がそびえ立ち、その塔に備え付けられた魔道砲が発射の時を静かに待っている。

 この魔道砲は可動式で、今はピオニエーレによる制御を受けて王都へと照準が向けられており、騎士隊とアリシアは砲撃を阻止するべく攻め込もうと進軍しているのだ。


「いっそ、私がグライフィオス上部にあるコントロールルームまで飛んでいきましょうか?」


「飛行能力を作戦に組み込むのを失念していたよ……とはいえ、単独で動くのは危険だ。キミの力はイザと言う時に使ってもらうさ」


 と、話している内に村の外郭近くへと到達する。そこには先行していた増援部隊の一つが待機しており、十数名がそれぞれに武器を構えて戦闘開始に備えていた。


「あ! ラミーさんじゃありませんか!」


 増援部隊の中に懐かしい顔を見つけたアリシア。以前に訪れたソトバ村で共闘しパラサイトモスカを撃破した魔弓使いのラミーである。

 

「アリシア!? やっぱりこの戦場にいたんね!」


「来て下さったんですね。また会えて嬉しいです」


「ソトバ村に王国騎士がやって来てな、エルフ村が何やら大変だって言うんよ。となれば、アリシアやミューアもいるんだろうと思ってな。前に村を寄生虫みたいな魔物から救ってもらった恩もあるけん、今度はアタイが一肌脱ごうと思ったんよ。まあ、アタイは大した戦闘力は無いんで、足手まといにならんよう頑張らにゃならんけどね」


「ラミーさんの気持ち、とても有り難いですよ。本当に感謝です」


 ラミーはミューアからエルフ村の惨状を聞いていたこともあり、自分の故郷が滅亡しかけた経験と重ね合わせていた。だからこそ他人ごとではないと、こうして協力を申し出たのである。


「よし、準備は整ったな。これより、ミールストーム作戦を開始する! 目標はエルフ村の解放、及び事件の首謀者であるピオニエーレからグライフィオスを奪還することである」


 ベルギットが口にした”ミールストーム”とやらが今回の作戦名らしい。これは彼女に行軍プランを提示した部下の名前から取ったという。

 そんなマメ知識はともかく、目指すべき場所であるグライフィオスにアリシアは視線を向ける。あの塔に巣食う邪気を祓い、エルフ族の悲劇に終止符を打たねば、これまでの苦労は全て無駄になってしまうのだ。


「既に陽動攻撃を行う部隊は配置されている。合図をもとにして突撃を開始する手筈でな、その合図をアリシアにやってもらいたい」


「どうやるんです?」


「簡単さ。魔弓で矢を飛ばしてくれればいい。空に向けてな」


 魔力の矢は強い光を伴う。隠密性がゼロで奇襲には適していないが、逆に目立ちたいのならば視認性は抜群だ。昼間でもあっても虹を描くように見え、この特性を活かせば信号弾の要領で使うことも可能である。

 特にアリシアのメガ・アロー・ランチャーの矢は通常の魔弓以上に輝くので、この任に最適だろう。


「じゃあ始めますよ。幕を上げます」


 仲間達一同の頷きを確認したアリシアは、黄金色の魔弓を空へと向ける。チャージされた魔力が矢を形成し、発射の準備は整った。


「メガ・アロー・ランチャー……いくよ」


 小さな呟きの直後、閃光が解き放たれる。雷が大地から放射するように昇る姿は、ミューアには神秘にも思えた。

 しかも、アリシアは単に矢を飛ばしただけではない。上空に打ち上げてから射線を曲げて、グライフィオスのコントロールルームへと差し向けたのである。

 これは、上手く操作してピオニエーレの狙撃を試みるというアリシアの案で、そのまま巨大な塔に直撃するかに見えたが、


「そんなバリアーを発生させられるの!?」


 矢はグライフィオスの手前で何かに阻まれ霧散する。恐らくは、半透明の魔力障壁が展開されていて、あらゆる包囲からの攻撃を防いでいるのだ。


「アリシア、あれもグライフィオスの能力なのか?」


「わ、分かりません。グライフィオスのコントロール機に触れたのは、ちょっとの時間だけでしたので……」


「そうか……しかし、魔力障壁とはいえ無敵ではない。ダメージを与え続ければ崩せるハズだ」


 ベルギットは味方を鼓舞し、合流した陽動攻撃部隊に予定通り突撃するように指示を出す。


「じゃあアタイも行ってくるけん。また後でな」


「頼みます、ラミーさん」


 エルフ村に進軍するラミーを見送るアリシアは、自分もすぐに攻め込みたい衝動に駆られる。だが、それでは作戦は台無しであり、ラミー達の無事を祈りつつグッとこらえた。

 かくしてミールストームは開始された。アリシアの矢を切っ掛けとして各所に配置された部隊が一斉に動き出す。

 

「ティタン・ゴーレムは見事に釣られているな」


「私達はいつ突入するんです?」


「もう少し待て。ティタン・ゴーレムが分散し、陽動部隊との交戦が本格的に始まってからだ。そうして敵の防衛ラインを手薄にして一気に制圧する」


 アリシア達が待機する森まで戦闘音が聞こえてくる。村の至る所で戦闘が始まって、目的通りにティタン・ゴーレムの軍勢は迎撃のため散らばっていく。






 エルフと人間の連合軍による強襲を察知したピオニエーレは焦りを感じていた。村を包囲した敵は全方位から攻め込んでいて、自信満々に投入したティタン・ゴーレムでも抑え切れていない。

 これでは防衛線を突破されてしまうのは時間の問題であり、いくらグライフィオスを魔力障壁で防御しても保ちはしないだろう。


「ピオニエーレ、どうする?」


「これは予想外でした……こうも早く戦力を揃えるとは……正直なところ侮っていましたよ」


 ピオニエーレは高を括っていたのだ。本来なら軍備を整えるには時間がかかるものであり、騎士隊の臨機応変な対応があったとはいえ想定を上回る戦力が集結している。

 そして、これはアリシアの功績でもあった。彼女が旅の中で各街や村のトラブルを解決したため、人員を割けるだけの余力が生まれたのだ。

 結果、支援要請に応じる事が出来て、ピオニエーレ一派を追い込んでいるのである。


「じきに魔力障壁も突破されるでしょうね。敵にはアリシアがいますし、ヤツの大技であれば破壊するのも容易い」


「じゃあココを放棄するしかないのか?」


「せっかく手に入れたグライフィオスなのですから、せめて一矢報いなければ…!」


 ピオニエーレはイラ立ちを隠せないまま、コントロール機からグライフィオスのシステムにアクセスする。

 探し求めていた最終兵器を手中に収めたというのに、それを使わずして破棄するなど有り得ない。苦し紛れだとしても、一撃は放っておきたかった。


「村中にいる敵を焼き払えばいいんじゃないのか?」


「射角の問題で不可能なんですよ。確かに魔道砲は角度調整で様々な方向を狙えますが、ナナメ下への可動域は狭く、半径五百メートル以内の陸上は死角のようになっているんです」


 上方、及び横に対する射角変更は容易いのだが、至近距離の陸上に対する攻撃性能は無い。これは、グライフィオスは遠方への砲撃を主体としているためで、近距離まで迫った敵の対応は防衛戦力に依存しているためだ。

 そもそも、大火力兵器を足元に撃ったら自身も損害を被るのは目に見えているわけで、だからこその設計なのである。

 敵は魔道砲の死角内で戦闘を行っているため、直接的には撃てない。


「ならば、やるべきことは一つ。即ち、当初の目的通りに王都を狙撃します」


「しかし、出力が足りないんじゃないのか? もともと後一日必要だったうえ、アリシアが炉の一つを破壊したせいで、充分な魔力を溜めるまでに余計に時間がかかると言っていたじゃないか」


「確かに、障壁用の魔力を砲に回しても想定の約四割分にしかなりません。これでは王都の全てを焼き払えないでしょう」


「それじゃ意味無いんじゃ?」


「王都の壊滅は無理でも、城を破壊するだけの威力は出せるはずです。あの城こそ権力の中枢であり、ブッ壊してしまえばビロウレイ王国は麻痺する。そうすれば、我々が戦力を立て直すだけの猶予を作れますよ」


 本来の計画では王都を破壊して駐留する王国軍の主力を消滅させ、他の街には砲撃を仕掛けるぞと脅しをかけて支配を進める予定であった。

 だが、そう上手く事態が進まないと分かった今、やれるだけの事をするだけだ。


「目にモノを見せてやりますよ…!」


 ダイレクト・リンクシステムを通じ、ピオニエーレは魔道砲の起動準備に取り掛かった。

 塔の魔力が続々と集約されていく……


         -続く-

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