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出陣の戦士達

 いよいよ決戦の日となり、アリシア達は宿を発って騎士隊の待つ公民館に向かう。まだ陽が昇って間もない時間で、作戦開始は昼頃なのだが落ち着いてはいられなかった。

 村を壊滅に追い込んだピオニエーレやナスターシャという怨敵を撃破し、エルフ族とビロウレイ王国の平和を掴み取るチャンスが目の前となれば仕方ないだろう。


「なんだかヒトが多いな」


 ミューアの呟きの通り、小さな街であるスティッグミを沢山の人間族が行き交っている。そうした人間族は住民ではないようで、それぞれが様々な武器や装備を携えて物々しい雰囲気であった。


「もしかして、ベルギットさんの言っていた増援の方々でしょうか?」


「かもしれないな」


 ベルギットは部下を派遣し、ビロウレイ王国内の街や村に支援要請を行っていた。その要請に応じた者達が急いで駆け付けてくれたのかもしれない。

 当初はアリシアのチームと騎士隊のみの戦力で、ピオニエーレ一派と交戦するには心許なかったが、これならば充分に戦う事が出来るだろう。

 そうした人々にアリシアは心強く感じながら歩いていると、


「ん、あの方々は……」


 見覚えのある女性二人組を発見した。武具を満載した荷車を引くのは、スティッグミで武器屋を営むカーレとノブルで間違いない。

 お揃いの赤いスカーフを巻いているのが特徴的な親子で、母親のカーレの依頼で娘のノブルを捜索したのが知り合ったキッカケである。

 

「おや、アリシアさん達じゃあないかい!」


 カーレとノブルもアリシアに気が付き、両手を振っている。久しぶりの再会であるが彼女達もしっかりアリシアを憶えているようだ。


「アンタ達も戦うんかね?」


「はい。エルフ村を制圧した敵を倒さなければ……それで、この武器類は?」


「騎士さんに頼まれたものでねぇ。今日の戦い用にって」


 戦闘中に武器が損壊する可能性を考慮し、予備を準備しておいて損は無い。いくら強力な戦士であっても素手で魔物に挑むのは自殺行為だ。

 カーレは大儲けだと豪快に笑い、ノブルはアリシアに感謝を伝える。


「コレらは私がロートの街で仕入れたものなんだ。あの時、アリシアさん達に助けてもらったからこそ、こうして商売を続けて重大な局面で役に立てる……本当に感謝してもしきれないよ」


「私こそノブルさんに感謝しているんです。ノブルさんに譲って貰った黄金の魔弓が旅の中で大活躍でして、自分だけでなく色んな人を守ることが出来たのですから」


「おお、それは良かった! 武器屋冥利につきるよ」


 嬉しそうにグッと親指を立てるノブル。

 調達した武器が魔物などの脅威から人々を守ったというのは最高の結果であり、武器屋を営む者としてはこれ以上にない報告だ。

 

「私達はこういう支援しか出来ないけど、アンタ達を応援しているかんね」


 頷くアリシアは、こうして知り合った人々のためにも負けられないなと気合を入れ、魔弓を背負い直しながら騎士隊との合流を急ぐのであった。






 騎士隊が臨時拠点として徴用した公民館付近の動きはせわしなく、決戦の時は刻一刻と近づいてきているのだなと嫌でも緊張感が高まる。

 そんな臨戦態勢が取られる中、アリシアはベルギットに声を掛けた。


「お忙しいようですね。出直した方がいいですか?」


「キミ達か。いや、丁度いいところに来てくれた。作戦の立案が終わってな、キミ達にも確認してほしい」


 ベルギットらは不眠不休でエルフ村攻略作戦を考案し、続々と到着する増援の人々の配置なども適宜決定をしていた。各地から集まった戦力を、その場その場で取りまとめる必要があるという流動的な状況で、さすがの騎士隊でもてんやわんやなようだ。


「想定以上に味方が集結してくれるという嬉しい誤算だ。その分、指揮を執るのは大変だが国家の威信に懸けてやり遂げる所存さ」


 公民館の奥、パーテーションで区切られた区画でエルフ村を模した雑な模型が作られている。これを使って進軍方法などをシミュレーションしていたらしい。

 そこに案内されたアリシア達はベルギットの説明に耳を傾ける。


「急造の部隊であるから細かな連携を行うのは現実的ではない。そこで、古典的且つ単純な戦法でやるつもりだ。まず、増援の者達を六つのグループに分け、エルフ村を囲うように配置する」


 ベルギットは話しながら、エルフ村模型の周囲に等間隔で六個の小さな石を置く。この石が戦闘部隊を示しているようだ。


「合図をもとに各グループには村に突撃をしてもらい、ティタン・ゴーレムを引き付けさせる。要するに陽動をするのだな」


「なるほど。ティタン・ゴーレムを分散させるための陽動なのですね?」


「ああ。そして、これが上手くいったら作戦は第二段階に移る。私が率いる主力攻撃隊が塔を目指して一気に進撃するんだ。敵戦力が分散された状態であればスムーズに辿り着けるハズ」


 陽動に敵が引っかかれば防衛ラインは手薄になる。そこを一点突破し、塔を制圧する算段らしい。

 この単純な戦い方は拠点攻略には有効であり、現状では最も成功率が高いものだ。


「最大の討伐対象はピオニエーレだ。ハイエルフの才能を持つヤツさえ倒せば、敵はグライフィオスを制御出来ない。もし、何かしらの仕掛けが起動していても、アリシアならどうにか対処可能だろう?」


「アレのコントロールって結構難しいので、ご期待に沿えるか分かりませんが……なんとかやってみます」


「頼む。では、キミ達は時間までココで待機していてくれ」


 全体の指揮を執るベルギットは、部下に指示出しをするため指揮所を出て行く。徹夜でありながらもエネルギッシュに働く彼女は使命を全うする気概に満ち、そんな心強い協力者の存在はエルフ達を勇気づける。


「最初は絶望的にも思えたけど、これなら勝てるな」


「ですね。ピオニエーレやティタン・ゴーレムを上回っていますよ、私達は」


「コッチには飛べるアリシアもいるし」


 ピオニエーレとの空中戦を思い返し、アリシアは次こそは勝つと飛行時の体の動かし方を脳内でイメージトレーニングする。

 前回は後れを取ってしまったが、あれは突発的なことに困惑していたからであって、真の力を自覚したアリシアは全力を出して対峙すると決意していた。

 






 待機中の体感時間は、まるで時空が引き延ばされたかのように長く、アリシアは気を揉みながら魔弓を抱きしめている。口の中は乾き、普段よりも脈打つスピードの速い鼓動の音がドクンドクンと鼓膜を震わせていた。

 仲間達も同様に落ち着かない様子で、いつも飄々としているタチアナですら無口になっている。


 だが、沈黙は破られた。

 遂に時は訪れたのだ。


「作戦が始まる。キミ達も私達と共に」


「はい」


 ベルギットに付いて公民館を出ると、そこには数十名の騎士隊が整列している。この精鋭集団とアリシアらエルフで構成された主力攻撃隊が要であり、ベルギットによる出陣の挨拶が始まった。


「我々特務騎士隊は、国家の安寧のために結成された組織である。女王陛下の勅命の元、これまでも様々な脅威を取り除いてきたわけだが、此度の事案は過去に類を見ない規模だ。ビロウレイ王国建国以来、最も危機的な状況と言っていいだろう」


 部下の前に立つベルギットは勇ましく、まさに隊長格といったオーラと威厳があり、皆の耳目を自身へと集める。


「だが、恐れることはない。いくら敵が強大であろうと今までに培った経験を活かして冷静に立ち回るのみだ。それに、我々には頼もしい味方がいる」


 そう言ってベルギットはエルフ達を示す。特にアリシアは騎士からの注目度は高く、一同から期待を込めた視線が飛んでくる。

 何か一言をもらいたいと促され、アリシアはアワアワとしながらも一歩前に出た。


「皆さん、ええと……この度は、私達エルフ族の同胞がご迷惑をお掛けし、大変申し訳ありません」


 と、まずは謝罪から入る。別にアリシアが悪いわけではないのだが、同じ種族の者が引き起こした惨事ということで謝りたいという気持ちがあったのだ。


「ピオニエーレというエルフはグライフィオスで王都を破壊し、ビロウレイ王国に災いをもたらそうとしています。私達の故郷を破滅させ、あまつさえは人間族の方々をも攻撃しようとするエルフ…私は、そんなピオニエーレを許しはしません」


 ピオニエーレへの怒りがこみ上げてきて、アリシアの語気は強くなっていく。同じエルフ族とはいえ決して相いれない存在なのだと宣言し、アリシアは新たに獲得した魔力の翼を背中から展開した。


「ハイエルフとして覚醒した力の全てをピオニエーレにぶつけて打倒します。そしてグライフィオスを奪還すると誓います」


 その純白の翼を広げるアリシアは天使のように輝いて見え、ミューアは勿論のこと、アリシアを目撃した多くの人々が見惚れている。


 こうして士気の高まった騎士隊と共に、アリシアはスティッグミを後にする。

 種族を超えて同じ目的のために共闘する彼女達は、果たしてピオニエーレに勝利できるのか?


        -続く-

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