決戦前夜
ピオニエーレは墜落したアリシアが仲間のエルフに救助される様子を上空から目撃し、自身最大のライバルとなり得るアリシアが死ななかったことに舌打ちしている。
「チッ……運の良いヤツですね。ですが、ここで逃がすわけにはいきませんな!」
少しでも障害となるモノは今後の活動のためにも排除をしておきたいと、ピオニエーレは追撃をかけようとした。
しかし、体内に残る魔力量が減少しており翼を維持するのも難しい状態になっていて、これでは戦闘を継続するのは不可能だ。調子に乗って強力な魔弾を何度が放った事がパワーダウンの原因で、翼の運用にはもっと気を遣う必要があるとピオニエーレは反省する。
「まぁいいでしょう。コチラにはグライフィオスがあって、しかもソレをコントロールする資格がわたしにはあるのだから。チャージが完了次第、殲滅の雷を降らせてみせますよ」
と、既に勝利は確定しているかのように独り言を呟く。
強大な最終兵器を手にすれば、このような自信過剰さに囚われるのも仕方がないとは言えるが、勝負はまだ決していない。エルフ族も人間族も来たるべき決戦に向けて動き出していて、しかもアリシアを奪還したのだから手の打ちようもある。
だが、傲慢な態度を崩さないピオニエーレは敵エルフの一団に背を向け、グライフィオスへと戻って行くのであった。
疲弊したアリシアは、ミューアに背負われてスティッグミに到着した。ここはアリシアが最初に訪れた人間族の街であり、ミューアと旅をする決意を固めた場所でもある。
懐かしむようにスティッグミを見渡していると、豪勢な甲冑に身を固めた人物を発見した。その騎士ベルギットに手を振り、アリシアは自分の無事を知らせる。
「アリシア、キミなのか!?」
「はい、なんとか敵から逃げてきたんです。そこを偶然、ミューアさん達に助けてもらいまして」
「そうか! うむ、事態が好転してきたと感じられるな」
ベルギットは笑顔で頷きつつ、アリシアの帰還を喜ぶ。種族は違えど共に危機に立ち向かう同志であり、純粋に再会できたことが嬉しかったのだ。
「早速で悪いのだが、キミが捕まっている間に手に入れた情報があれば教えて欲しい。敵に対峙するためにも」
「分かりました。お役に立てるなら」
戦局を一変しうるほどの情報を得てはいないが、共有しておいて損は無い。
ひとまず、ゆっくり話を聞くためにも街の中心部から場所を移すのであった。
臨時の拠点としてベルギットが手配したのは公民館だ。ここは住人が集会を行う際に使用される場所で、多人数が一度に入っても余裕があるくらいに広いスペースがある。
建物の中には騎士隊のメンバーの他、スティッグミ警備兵などの有志が集っていて、これだけでも並みの魔物であれば簡単に撃破できる戦力だ。
「それで、ピオニエーレはキミと同じくハイエルフになったというのだな?」
「はい。つまり、ピオニエーレはグライフィオスを使えるということです。しかも…そのターゲットは王都だと」
「なんということだ……グライフィオスはもう撃てるのか?」
「いえ、王都全体を破壊するには最大出力が必要で、そのための魔力チャージには今日を含めて三日かかります」
「その間に敵を倒すしかないが、王都の女王陛下にもお知らせしなければ」
ベルギットは部下の騎士の一人を伝令とし王都へと急行させる。もしピオニエーレを阻止出来なかった場合、王都は未曽有の攻撃に晒されるわけで、女王には避難を進言するべきだろう。
「明日には出撃せねばならないな。明後日には攻撃が実行されてしまう」
現在の最大の目的は、グライフィオスの砲撃阻止である。そのためにはチャージが完了する前に村に突入しなければならず、明日が期限となるのだ。
「しかしベルギット、戦力は充分ではないんだろ? あたしの偵察で敵の数を把握できなかったし……どうする?」
「少しずつ増援が到着しつつある。後一日あればもう少し集まるだろうし、その時の持てる限りの力をぶつけるしかない」
ピオニエーレ軍へ総攻撃を敢行するべく、ベルギットは王国内の街や村に部下を送って援護要請を行っていて、それに呼応した者達が集まり始めていた。まだまだ足りてはいないが、無支援状態よりは遥かにマシである。
「作戦開始は明日の昼とする。キミ達は、それまで休んでいてくれ」
「ですが、私にも手伝えることがあるのなら……」
「キミは敵に捕まっていたのだから休息が必要だろう。我が特務騎士団はこういう時のために組織されたのだから、まさに本懐だ。それに、ハイエルフであるキミはグライフィオスへの対抗策と成り得るし、万全でいてもらうのがキミの役割さ」
ベルギットはウインクしながらそう言い、アリシアは渋々といった様子で承諾する。こういう時にもお人好しなアリシアは手助けをしたかったのだが、そこまで言われては従う方がむしろ役立てると判断したのだ。
アリシア達エルフ族は、促されるまま宿へと引き返すのであった。
それから数時間後、陽が暮れてすっかり辺りが暗くなり、明日の決戦に備えてエルフ達は就寝のために宿屋の宿泊部屋へ戻る。
「アリシアはココを使うといいよ」
アリシアは、ミューアが気を失っていた期間使用していた部屋に通された。ここの備え付けのベッドが一番質が良いらしく、対ピオニエーレやグライフィオス制御で要となるアリシアに使わせるべきだとミューア達が判断したのだ。
「でだな……なんというか、既視感を感じるようなやり取りになるんだケド、アリシアの入った部屋は二人部屋なんだ」
シーカールでも似たような状況になったことがある。あの時も二人部屋で、アリシアとの同室を巡って残り三人で対峙し、最終的にはミューアが権利を獲得した。
なので、今回もまた小競り合いが起きるかとミューアは思ったのだが、
「なら、ミューアちゃんに譲るわぁ」
「仕方ないのデス。アリシアお姉様はミューアさんに任せるのデス」
と、タチアナとルトルーはすんなりと引き下がったのである。
あまりにも予想外でミューアはポカンとし、すぐには二人の言葉を理解できなかった。
「マジで?」
「今のアリシアちゃんにはストレスを和らげられる存在が必要よぉ。悔しいけれど、それが出来るのはミューアちゃんだと思うのぉ」
「あたしが、アリシアの……」
「傍にいてあげてちょうだい。そして、癒してあげなさいなぁ」
タチアナは大人のお姉さんといった雰囲気を醸しながらミューアの肩をポンと叩く。アリシアのメンタルや体調を一番に考えた結果、今の状況ではミューアが寄り添うのが最適だと結論付けたのだ。
「でも勘違いしないでよねぇ。わたくし達は決してアリシアちゃんを諦めたわけではないわよぉ。今回は、あくまで特例措置みたいなものだからぁ」
「そうデス! まだまだ勝負は終わっていないのデス」
やはりというか、タチアナとルトルーはアリシアを手にしたいという欲望を無くしたわけではない。それをミューアに釘刺し、今後ともライバルであると宣言する。
「フッ……望むところさ。ま、あたしが最終的に勝つのは確定されているけどな」
「あらぁ、言ってくれるわねぇ。たとえどんなに時間が掛かっても、必ずアリシアちゃんを堕としてみせるわぁ。もしミューアちゃんに心惹かれていたとしてもぉ、絶対に寝取ってやるわよぉ」
そう言い残し、タチアナ達は去っていく。仲間に全てを託すようなクールさすら感じさせ、ミューアは後は任せろとばかりに扉の前に立つ。
「よし……」
少々緊張しながら、ミューアは扉を開けて入室する。アリシアと久しぶりに再会し、明日には重大な戦局を迎えるという夜ともなれば、普段とは違うソワソワとした感覚にもなるだろう。
「アリシア、あたしとの同室になるが構わないか?」
「えへへ、ミューアさんと会うのを楽しみにしていたのですから、むしろウェルカムですよ」
寝支度を整えていたアリシアは、いつもの戦闘着ではなく宿屋が用意した寝間着を着用していた。生地が薄く、若干サイズが小さいためボディラインがくっきりと露わになっている。
風呂上がりなことも相まって、ベッドに座るアリシアは艶めかしさと色っぽさを醸し出しており、それがミューアにはたまらなかった。
「コッチにどうぞ。窓から見える景色が良いんですよ。とっても月が綺麗で……」
アリシアに誘われるがまま、ミューアは隣に腰かける。
「ああ。確かに綺麗だ」
その呟きの対象は月ではない。
ミューアの目には、ただアリシアだけが映りこんでいた。
-続く-




