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舞い降りる希望の翼

 アリシアがハイエルフとして真の覚醒を果たした頃、ミューアは偵察任務に従事していた。タチアナとルトルーと共にエルフ村へと向かい、敵戦力の情報を手に入れようと動いているのである。


「そのティタン・ゴーレムとやらをアタシは見ていないから、どんなヤツか知っておきたい」


「アレはわたくし達よりも図体が大きく、生半可な攻撃ではダメージを与えられないわぁ。投擲されたナイフ程度なら簡単に弾いてしまう程の防御力を有しているわよぉ。それで動きも遅くないから困りものよねぇ」


「厄介な戦力を用意していたものだな。ピオニエーレめ、出番が少なかった期間にせっせとゴーレムを作っていたとは……」


 しかも、そのティタン・ゴーレムが何十体も存在している。具体的な個体数は不明だが、今回の偵察で探って数を把握したいところだ。

 ミューア達は慎重に森の中を進み、エルフ村の近くまで接近することに成功する。


「あの塔は本当に大きいな。地下に埋まっていたとは信じられん」


「ミューアちゃんは族長さんから何も聞いていなかったのぉ?」


「ああ、残念ながらな。アレについても族長のみが知るトップシークレットなんだろう」


 木々に隠れながら塔の観察をし、どのような構造なのか考えていた、その時、


「なんだ!? 爆発!?」


 轟音が轟き、閃光が大地を照らす。

 これは、ピオニエーレが魔弾で動力室の壁を破壊した際に発生したものだ。地上から四百メートル程の高さで発生し、塔全体がグワンと揺れている。

 それでもダメージコントロールや耐震性が優秀なのか、すぐに揺れが収まって倒壊することはなかった。


「一体なんだ? ン、鳥が飛び出した?」


 爆煙をすり抜けるように、輝く翼をもった何者かが空へ舞い出したのだ。その飛翔体こそミューアの助けるべきアリシアなのだが、そうとは想像も出来ないので魔物かと誤認する。


「ありゃピオニエーレの戦力か? 天使みたいにも見えるけど……」


 観察を続けるミューアは目を凝らして飛翔体を凝視した。まだ飛行に不慣れなのか、勢いよく現れた割りには不格好な姿勢制御でフラついている。


「飛ぶのがヘタらしいな……いや、待て! アリシアじゃないのか!?」


 ミューアは目の前の出来事が信じられないと驚愕しつつ、自分の認識が間違っていたと理解した。上空に舞うシルエットはミューアがよく知る者で、麗しい金髪を靡かせているのはアリシアだと。


「アリシアが飛んでいる! ルトルー、ハイエルフは飛行出来ると聞いたが、まさにだな!?」


「お、恐らくそうデス! なんらかのキッカケでアリシアお姉様は完全にハイエルフの力を発現したのデス」


「マジか。って、また飛び出してきたヤツがいるぞ」


 ルトルーが言っていたハイエルフの特徴を体現してみせるアリシアを追うように、もう一人の羽付きが爆発で生じた穴から出現した。

 これもまたミューア達には驚きで、正体はピオニエーレだったのだ。

 二人のハイエルフは距離を取りつつ互いを牽制しあっている。


「なんでピオニエーレまで!?」


「あの不気味な仮面エルフに才覚があったとはねぇ……ともかく、アリシアちゃんを助けないとぉ」


「けれど、どうやる…?」


 ミューア達に飛行能力は無く、しかも遠距離戦用の武器も無い。これでは援護をしようにも手を出すことなど不可能だ。




 仲間が見守っているなど露とも知らないアリシアは、必死に翼をコントロールしながらピオニエーレを正面に捉えた。浮遊状態には不慣れで、しかも風に煽られているので気が抜けない。

 

「もう一度勧告をさせて頂きますよ、アリシア・パーシヴァル。わたしとハイエルフの新たな時代を創世しましょうよ」


「何度だって断ります! 私とアナタは決して相いれません!」


「そう言うとは思いましたがね。残念ですよ」


 再び拒絶されたピオニエーレは、杖をアリシアに向けて魔弾を発射した。殺意を籠めた一撃は正確にアリシアに迫るが、


「躱してみせます…!」


 上方に飛び上がることで事なきを得る。陸上で戦っている時とは異なり、空間を利用した立体的な動きを行えるために回避しやすくなっていて、アリシアは飛行のコツを少しずつ掴みながら自身も武器を構えた。


「射撃戦ならば私だって!」


 メガ・アロー・ランチャーに魔力を流し込み、ピオニエーレ目掛けて矢を放つ。遠距離での戦いならばアリシアも慣れたもので、武器の性能も相まって勝てる見込みすら感じていた。

 だが、鋭く素早い射線をピオニエーレは見極める。いくら誘導攻撃が可能とはいえ直角に軌道を曲げられるわけではなく、カーブを描くような緩い曲射が出来る程度だと理解していて、だからこそギリギリまで引き付けてから回避したのだ。

 

「ふん……その魔弓のトリックはコッチも知っているのですから、対処してしまえば直撃を受けるものではありませんよ!」


「なんとッ…!」


 アリシアは相手の手強さを改めて実感しながらも、次の射撃を試みる。ここで彼女を仕留めれば、もうグライフィオスを悪用されずに済むわけで、被害を増やさないためにもアリシアがやるしかないのだ。

 対するピオニエーレも杖での射撃を敢行し、アリシアと空中での撃ち合いとなる。エルフ村の上空で、まるでビームのような奔流が飛び交い、他の種族の追従を許さない特殊な戦場が形成された。


「こうも避けられては…!」


「照準のブレが出てきたアナタでは、わたしを落とすことなど出来ませんよ!」


「上手くいくと思ったのですが……」


 もともと戦闘力の高いエルフではないアリシアは、徐々にピオニエーレに押され始めている。魔弾から逃れるのが精一杯な状況で、反撃の矢は敵に掠めもせず虚空へと消えていく。

 苛烈な攻撃の中では矢の遠隔コントロールを行うなど困難であり、むしろピオニエーレはアリシアの能力を行使させないように立ち回っているのだ。


「あとちょっとで倒せますな、これは」


 優位に立ったと強気になるピオニエーレは、トドメとばかりに強力な魔弾で狙う。疲弊も相まって動きが鈍ってきたアリシアを狙撃するのは容易く、決着の時は来たとピオニエーレは邪悪な笑みを浮かべていた。


「消えてしまいなさい! 他の劣等種エルフのように!」


「しまった!?」


 ピオニエーレ渾身の魔弾が杖の先端を赤く彩る。破壊という概念を象徴するような、見た者に恐怖を与えるおぞましい火球と化してアリシア目掛けて空を駆けていく。

 武器の限界まで増幅された魔弾に対し、アリシアは絶望感を味わいながらも諦めてはいなかった。必死になって、もがくように翼をはためかせながら射線上から退避する。


「ミューアさんに会うためにも……うわっ!」


 魔弾はアリシアの近くを掠めていく。衝撃波と熱に襲われて、弾き飛ばされるように体が宙を舞った。

 それでも意識を失わなかったアリシアは、滞空しようと翼の制御に神経を集中させるが、


「翼が片方やられた!?」


 左側の翼が消失していて、片翼のみの状態となっていた。これではマトモに飛ぶ力は発揮できず、アリシアは落下をはじめる。

 魔弾の干渉により翼を形成していた魔力が乱されてしまったために起こった現象で、再度翼を展開することで元に戻すことは可能だ。

 しかし、アリシアはパニックに陥っていて、しかも体内の魔力量も少ないためにそんな余裕は無い。


「お、落ちる…!」


 アリシアは吹き飛ばされるままに空中を流されて、エルフ村近郊の森に向かって墜落していくのであった……

 



 そんな空中戦の一部始終を目撃したミューア達は駆け出す。アリシアがコチラに向かって落下してきているので、地面に激突する前にキャッチしようと咄嗟に動いたのだ。


「アリシアッ!!」


 叫ぶミューアの声に気が付いたアリシアは、嬉しそうに手足をジタバタとさせている。いや、単に自らの危機に焦っているだけかもしれないが。

 ともかく、ミューアはタチアナとルトルーと共に落下予測地点に急行し、受け止める準備を整えた。


「必ず受け止めてみせるからな!」


「さぁ、わたくしの胸に飛び込むのよぉ」


「オマエというヤツは! こんな時に言ってる場合かっ!」


「こういうピンチの時こそポイントを稼ぐチャンスじゃないのぉ。ミューアちゃんにばかりイイ思いはさせないわよぉ」


 絶好のアピールチャンスだと競争心を燃やすタチアナ。大腕を広げ、アリシアを全身で受け止めようとしている。

 そんなタチアナに対抗するように、ミューアとルトルーも声を上げながら自分の方に来るよう訴えるが、アリシアはアワアワと困りながら落ち続ける。片翼を失って制御が効かないので行先を選べるような状況ではないのだ。


「あわわわ!!」


 競い合う三人のエルフに激突するようにアリシアは落着した。強い衝撃が全身を襲い、頭がクラクラとして視界が回る。

 だが、奇蹟的に誰も負傷することはなく、ミューアら三人によって無事に受け止めてもらえたのだった。


「おかえり、アリシア」


「ただいまです」


 久しぶりに見る仲間の顔にアリシアは笑みを浮かべる。ミューア達の存在は心強く、安心感をも感じているのだろう。


 様々な緊急事態が発生し、未だかつてない災厄のような窮状ではあるが、一筋の希望が舞い降りた。

 故郷を奪われた者達の反撃は、ここから始まる。

 

       -続く-

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