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アリシアの秘策、イチかバチかの脱出劇

 ミューアに対し、そして族長や自らの出自を呪うように怒りのボルテージを上げていくナスターシャ。もはやアリシアが聞いているかなど気にもせず、大きな独り言のように言葉を続けた。


「あたしはミューア捜索を命じられたが、それに従わなかった。何故ならミューアを連れて帰れば選定戦は再開されて、あたしは掟に従い殺されるんだから。村を出たあたしは任務を放棄して人間の街を渡り歩いた……そうした中で出会ったのがピオニエーレだ」


 行く宛ても無く放浪するナスターシャは王都へ辿り着き、そこで後のピオニエーレであるデボラと知り合ったようだ。この出会いが村やエルフに未曽有の危機をもたらす事になる。


「ヤツのエルフ外交官という肩書は名ばかりで、交流と称して実際には城の高官達の手伝いとしてこき使われていたらしい。相当に鬱憤の溜まっていたヤツとあたしは意気投合してな、だからエルフの雷を手にする計画を立てたのさ」


「最強の武器で皆を倒そうとしたんですか?」


「全てをブッ壊したいという欲求に憑りつかれれば、戦争を終結に導いた武器が欲しくなるのも道理だろ? ティタン・ゴーレムという兵器を準備しながら時を待ち、いよいよ行動に移したんだよ」


「それで、あんな……村の惨劇を見て何も感じるところはないのですか?」


「むしろ笑えたね。まあ、ピオニエーレが雇った魔物共に先を越されて悔しい気持ちはあったかな。本当はあたし自身で手を下したかったがね……」


 本当に自責の念など微塵も感じていないようで、ナスターシャはせせら笑うように呟く。その姿にアリシアは絶句し、決して相いれない相手なのだと再認識させられる。

 

「そんなことはいいんだ。次の目標が出来たからな。あたしの運命を捻じ曲げた原因……ミューアの息の根を止める」


「ミューアさんを……」


 完全な逆恨みではあるが、ナスターシャはミューアこそが不運の根源だと思っている。だからこそ、新しい人生を始めるためにもミューアを消さなければという執念に燃えているのだ。


「どうやらオマエはミューアに好意があるらしいな。負傷したアイツを庇おうとする姿を見れば分かる」


「だったらなんだっていうんです…?」


「あんなエルフのドコがいいんだ? あたしと血を分けた姉妹とは思えないほどに情けないヤツだぞ。族長家の責務を果たそうとせず、あまつさえは逃げ出すような」


 ミューアが出て行ったおかげでナスターシャの命はあるわけで、この点については感謝をしてもいいハズなのだが、そのことを棚に上げてミューアを非難する。もはやミューア憎しのあまり、彼女のやること成す事全てが気に食わないのだろう。

 だからこそ、ミューアに味方するアリシアも許せなかった。


「ミューアさんは優しい方です。それだけじゃない……理屈とかは通り越して、一緒に居たいと感じるエルフなんですよ」


「不愉快だな……別にアイツじゃなくたって族長の血を引く者はここにもいる。あたしならオマエに新しい世界を見せてやることだって出来る」


「どういう意味で…?」


「あたしと共に来い、アリシア。オマエのハイエルフの力と、あたしの族長一族の才覚が合わされば新しい国家をも創り出せる」


 と、自信満々に語り掛けるナスターシャ。ミューアに肩入れするアリシアを自分のものとし、ミューアから全てを奪い尽くしたいという感情から来る誘いであった。

 こんな考えに至る時点でかなり小物ポイントを稼いでいるのだが、ナスターシャ本人は気がついていない。


「これも、もういらないな」


「な、なにを!?」


「ミューアと同じ物を付けているんだろ? ヤツと切り結んだ時に見た指輪だ、コレは」

 

 ナスターシャはアリシアの指にはめられている指輪に手を伸ばし、無理矢理に外した。これはディガーマで購入したミューアとお揃いの品で、目ざとくナスターシャは見ていたらしい。

 

「やめてください! 私とミューアさんの思い出の……」


「オマエはあたしのものとなればいいんだ! あんなエルフなど忘れろ!」


 指輪をコントロールセンターの端に放り投げ、ナスターシャはアリシアの胸倉を掴む。こうやってスグにキレて強引に言う事を聞かせようとするあたり、傲慢且つ自己中心的な性格は治りそうもないと分かる。

 いよいよ我慢ならないとアリシアも反撃に移ろうとするが、


「いつまで遊んでいるんですか。このグライフィオスを動かさなければならないのですから、コッチを手伝って頂きたい」


 各部の点検に降りていたピオニエーレが戻り、ナスターシャとアリシアを引き剥がす。


「魔力はまだ足りないんじゃないの? もう魔道砲を撃てるのか?」


「まだ撃てませんが、砲塔の稼働に異常が無いか確認をしておきたいのですよ。グライフィオスの側面に備え付けられている魔道砲は可動式で、あらゆる方向に対して射撃が出来るのです」


 巨大な塔を模したグライフィオスの側面部には、これまた大型の円筒が取り付けられていて、この円筒こそが魔道砲である。魔物の大群を一撃で消滅させられるだけの火力を誇り、伝承にある”エルフの雷”とも称される魔弾を照射した武装だ。


「アリシアならば魔道砲を動かせますね? ならば、砲口を王都に向けてほしいのです」


「イヤだと言ったらどうします?」


「ナスターシャさんの出番が来ることになりますね」


 またしてもナスターシャの理不尽な暴力に晒されるという意味の脅迫で、痛い思いをしたくなければ素直に従えと言外にピオニエーレは伝えている。

 アリシアにしてみれば、当然ながら敵の指示など聞き入れたくもない。自分の身を顧みず、断固拒否する姿勢でいるつもりであった。

 しかし、妙案を思いついてピオニエーレに付いて行くアリシア。この思いつきが成功すれば、形勢を逆転できると希望を持つ。


「そうか、グライフィオスをコントロール可能なのだし……」


「なにをブツブツ呟いているんですか。早くしてください」


「やってみますよ……なので、手の縄をほどいてもらえますか? これでは何も動かせませんよ」


「変な動きをしたらスグにブッ飛ばしますからね」


 拘束を解かれたアリシアは、コントロールセンター内に設置された金属製のコンソールに近づく。横長のテーブル上部に組みつけられているソレらは近未来的な機械の物で、現代のエルフ族や人間族にとって馴染が無く異質感さえ感じられる。

 古代エルフの技術が一体どのようなものだったのか想像もつかないが、アリシアは操作を行うべく機械と一体化して明滅する魔結晶に触れた。コンソール類の中央部に設置された球形の魔結晶は、グライフィオス全体の制御を行うためのユニットで、アリシアのハイエルフならではの魔力を感知して起動する。


「操作方法は……なるホド」


 機械と同化したような魔結晶を一体どうやって操作するのか不思議に思ったが、その疑問はすぐに解決した。なんと、魔結晶に触れた直後、脳内に操作系のイメージが映し出されたのだ。

 つまり、黄金の魔弓の矢を脳内でコントロールするのと同じやり方が出来るのである。ハイエルフは手や足を用いず、脳波を使って物を動かせる高度な技術を発明していたらしい。

 このダイレクト・リンクシステムとも言うべき方法で、手始めにアリシアはグライフィオスを解析する。

 

「施設を停止させるには……」


 アリシアの妙案とは、グライフィオスの機能を停止させるというものであった。そうすれば魔道砲の脅威がビロウレイ王国を脅かすこともなく、ピオニエーレ達の計画も頓挫して終わりだ。

 だが、そんな反抗をすれば報復を受けるのは目に見えている。今度こそ再起不能な程に痛めつけられる可能性もあるが、アリシアが臆することは無い。本来ならば既に死んでいたはずであり、命を助けてくれたミューアのためにも自分が出来る精一杯の努力はするつもりなのだ。

 

「パスコード……合言葉、でしょうか……?」


 しかし、グライフィオスを停止させるには起動キーである世界樹の枝を引き抜く必要があった。しかも、その世界樹の枝を抜くためにはパスコードを打ち込まなければならないという。

 秘宝である世界樹の枝の盗難を防ぐための予防策なのだろうが、肝心のパスコードを知らないアリシアにとっては邪魔な要素でしかなかった。

 これでは止めるなど不可能で、別の方法を探すしかない。


「一体何をやっているんですか。早くしてください。もしかして、アナタは……」


 急かすピオニエーレはアリシアの不穏な動きを敏感に察知したようだ。何か余計な計画を企てているのではと、アリシアに詰め寄ろうとする。

 

「ええい! ままよ!」


 となれば、もうアリシアに迷っている猶予は無い。解析中に目に付いた、とあるコマンドを選択する。


「な!? 灯りが消えた!?」


 アリシアが実行したのは、コントロールセンター内の照明をオフにするというコマンドだ。天井から煌々と室内を照らしていた照明機器全てが消えて、周囲一帯が暗黒に包まれる。


「アリシア、貴様はッ!!」


 突然のことにピオニエーレとナスターシャは驚き、たじろいでいるが、そんな中でアリシアは冷静であった。取り上げられていた武器が部屋の出入り口近くに置かれているのは把握していたし、暗闇で視界が効かなくても走り出して武器を回収する。


「さようならです!」


 廊下に飛び出したアリシアは下の階を目指す。このままグライフィオスから脱出してもいいのだが、敵の野望を徹底的に阻止するために、更なる反撃を見せようとしていた。


       -続く-

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