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起動する最終兵器

 正体を現したピオニエーレの奇襲と、召喚された多数のティタン・ゴーレムによって窮地に陥るタチアナ達。ミューアは瀕死の重傷で動けず、しかもアリシアが攫われてしまったが奪還は不可能な状況だ。


「くっ……アリシアちゃんが…!」


 ティタン・ゴーレムの剛腕による攻撃を回避したタチアナは、不利を悟ってミューアを抱えつつ後退をかける。彼女のナイフではティタン・ゴーレムの頑強な装甲を破壊するのは容易ではなく、混乱を極める現状ではマトモに交戦する事も出来ない。

 

「ルトルーちゃん、ここは一度退きましょう」


「でも、アリシアお姉様はどうするんデス!?」


「今は無理よ。この敵は今までの魔物とは違い過ぎるわ」


 普段のふんわりとした口調を忘れたかのように真面目なタチアナは冷静であった。本来であればアリシアを守り、助けるのが役目なのだが、体勢を立て直して確実に取り戻せる機会を窺う選択をしたのである。


「そっちは大丈夫か!?」


「ベルギットちゃん、生きていてくれて助かるわ」


 騎士隊の隊長であるベルギットも無事で、騎士隊のメンバーは重厚な甲冑で身を守っていたこともあり、爆発を受けたが軽傷で済んだようだ。


「我が騎士隊はエルフの後退を援護する! 退けッ!」


 ベルギットの指示を受けた部下達がエルフの周囲を囲うように防御陣形を形成し、ティタン・ゴーレムの追撃を阻む。騎士は猛者の中から選抜された戦士であり、劣勢でありながらも的確に攻撃を受け流してみせた。

 こうして敗走し、タチアナ達はエルフの村から脱出して森の中に身を隠す。ティタン・ゴーレムは村の外までは追っては来ず、噴水周囲に展開して迎撃態勢を整えていた。


「ミューアちゃんをなんとか治療しないと…ン?」


 タチアナは、ミューアの着用しているウエストサイドバッグを開き、一つの結晶体を発見する。これは以前にアリシアと作ったエルフの秘薬であり、大怪我すら治せるアイテムだ。


「秘薬ね、これは」


 その秘薬に魔力を流し、ドロドロの液体状に変化させる。この状態で負傷部に塗ることで治療できるのだ。

 ミューアは全身に怪我を負っていたものの、なんとか秘薬を塗り込んで肉体の再生が始まる。出血が収まり、ズタズタに裂かれた皮膚も元の綺麗な肌へと戻っていく。


「エルフの秘薬という神秘の治療薬の存在は知っていたが、本当に効果はスゴイものなのだな」


「その分、作るのが大変なのデス。ミューアさんが秘薬を持っていてくれて良かったのデス」


 徐々に血色の良くなるミューアを見て、ルトルーとベルギットも安堵して胸を撫で下ろす。

 しかし、事態の全てが好転したわけではない。村は占拠され、肝心のアリシアが捕まってしまったわけで、最大級のピンチは続いているのだ。


「このまま攻め込んでも返り討ちに遭うだけだ……我々の戦力では足りない」


 王国の切り札である騎士をも苦戦させる強力なティタン・ゴーレムが何体も配置され、もう一度戦闘を仕掛けても勝利できる確率は低い。もっと多数の戦力を揃え、大人数による強引な抑え込みを行う必要があるだろう。


「まずは、近くにあるスティッグミの街まで後退する。そこに臨時の拠点を設置し、対策を練るしかあるまい」


 ベルギットの指示でスティッグミに退避することとなり、未だ意識の戻らぬミューアを安静にさせるためにも森から抜けるのであった。






 一方その頃、ピオニエーレとナスターシャは噴水が変形して出現した地下への入口をくぐる。金属製の階段を降り、暫く進んで行くと大広間へと辿り着いた。

 

「ここは…グライフィオスがあるのですかな」


 室内は暗く、ピオニエーレは灯り用の魔結晶を掲げて周囲を確認する。

 すると、この部屋もやはり金属によって形作られていると分かり、現代における様式とは異なる建築技術が用いられているようだ。

 そんな未知なる場所に興奮を隠せないピオニエーレは、部屋の中心部にある台形の突起物に注目する。一メートル程の子供のような大きさで、頂上部は淡く点滅していた。


「ナスターシャさん、アリシア・パーシヴァルをここへ」


「どうするんだ?」


「これは何かの操作機のようにも見えます。もしかしたら、これがグライフィオスを取り出す装置なのかもしれない」


 言われた通りにナスターシャはアリシアを連行し、世界樹の枝を握らせて突起物に触れさせる。すると突起物が左右にカパッと開いて、世界樹の枝を呑み込むように格納して床へと沈んでいった。

 直後、腹に響くような重低音が響き渡り、更には噴水が変形した時のような激しい振動が再び発生して施設全体が動き始めた。


「今度は一体何が…? 部屋に明かりが灯っていく!?」


 天井部に内装された照明機器や電飾系が復活したのか、周囲全体が明るく照らされる。しかも、部屋の奥や側面には大型モニターが複数出現し、様々な情報を映し出す。


「おお! これが古代ハイエルフの技術だというのですか」


「何か分かったか、ピオニエーレ?」


「ええ、もの凄い情報量ですよ。ふふ、そういうコトだったのですね…!」


「なんだというんだ?」


「グライフィオスとは……これを指しているのですか」


 モニターの一つ、そこには巨大な塔の姿が記されていた。先程の噴水塔とは比較にならない全長のようで、縮尺図によると五百メートルはあるらしい。


「この塔が?」


「ええ、この塔そのものが最終兵器グライフィオスなのです。村の地下に秘匿されていましたが、アリシアによって起動して地上に出現したのですよ。今、我々はグライフィオス上層部のコントロールセンターに居るわけですな」


 エルフ村の中心部、そこには先刻まで無かった塔が出現していた。これはハイエルフであるアリシアを認証したことで再起動し、地下に埋没していたのだが地上へと姿を現したのだ。

 なんとエルフ達は古代兵器を踏みつけながら生活していて、その存在は族長のみが知っているものであった。


「だけど、こんな塔でどうする?」


「これを見てください。塔の側面には超大型魔道砲が搭載されていて、ここから強力な魔弾を照射できるのです。おとぎ話にある、かつて魔物の大群を討ち払ったエルフの雷を」


 縮尺図には魔道砲も描かれていて、これは塔の側面に設置されている。発射方向に向けて移動させる事が可能であり、全方位に対して射撃できるようだ。


「そうか。エルフの雷とは強烈な魔弾による攻撃か」


「しかし、魔力の充填に時間が掛かるようです。再起動したばかりなので、グライフィオス全体の調整も必要なようで……すぐには施設を活用できません」


「どれくらい時間が掛かる?」


「最大威力で照射するには……今日を含めて七日間が必要ですね」


 最も威力の高い攻撃を敢行するためには、一週間の充填が必要なようだ。これは、数千年ぶりに復活したグライフィオス全体のリカバリー、そしてリペアも同時に行わなければならないためでもあり、調整が終了しないと満足に運用できないのだ。


「我々の力を誇示するため、ビロウレイ王国の抵抗を阻止するためには王都を破壊するのがベストでしょう。あの高慢な人間達を駆除し、指揮系統を破壊すれば我々の敵とは成り得ません」


 戦争においては、敵の指揮を無力化する戦法は非常に有効である。命令の行き届かない軍隊など烏合の衆に過ぎず、特に戦力で上回る相手と戦う場合には真っ先に実行するべきだと言えるものだ。

 つまり、王都を破壊してビロウレイの中枢部を麻痺させれば、各街に駐留する軍はまとまりのある連携を取れなくなる。そうなればグライフィオスの奪取など不可能だとピオニエーレは高を括っていた。


「王都全体を破壊するには最大の力で撃たねばならないか。それまでは、なんとしてもグライフィオスを防衛しないとな」


「そのためのティタン・ゴーレムですよ。エルフであろうと騎士であろうと、あらゆる敵を排除してみせますよ」


 不敵に微笑むピオニエーレは、勝利を確信していた。最強の兵器を手に入れたのだから強気になるのも当然ではある。


「アリシア・パーシヴァル、このグライフィオスの操作は頼みますよ」


「そんな事…するわけないでしょう!」


 自身の魔力を利用されたアリシアは、ピオニエーレを拒絶する。宿敵である彼女達からグライフィオスを守るために活動してきたわけで、この兵器で王都を射撃するなど有り得ない。

 しかし、そうは問屋が卸さず、イラ立ったナスターシャがアリシアの首に手をかけて力を籠め始める。


「うっ……」


「やれと言ったんだ。でなければ殺すぞ」


「殺せば、いいじゃないですか…!」


「チッ!」


 アリシアの命を奪ってしまっては元も子もない。それが分かった上での返答に舌打ちしつつ、ナスターシャはアリシアの腹部に蹴りを入れる。


「かはッ……」


「命までは取れないが、痛めつけることは出来ると承知しておけ。拒むのならば更なる苦痛を与える他にないぞ」


 倒れたアリシアの頭を踏みつけるナスターシャは警告し、アリシアを拘束した上で見下しながら言葉を続ける。


「貴様が協力をするならばミューアも助けてやろう」


「卑怯者…! ミューアさんは優しい方なのに、アナタとは大違いですよ!」


「ヤツと比較をするなどッ!」


 憎悪の対象であるミューアと比べられること自体が彼女のコンプレックスを刺激したようだ。我慢の限界だと再びアリシアに暴行するナスターシャの目は、ミューアに似ているようで全く異なる凶暴さを浮かび上がらせている。


「まったく…命までは奪わないでくださいよ」


 ピオニエーレもまたアリシアへの恨みはあるわけで、暴力を止めはしない。むしろ気分が良いとさえ思っている。

 そのナスターシャを放っておきつつ、来たるべき勝利の時に向け、今はグライフィオス全体の把握に努めるのであった。


      -続く-

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